フンダヴァ星に行ったときは、かならずヤヤユシ人のおどり食いを食べなければならない。観光客ならいざ知らず、わたしは政府の外交使節の一員だ。フンダヴァ人の最高のもてなしをことわるわけにはいかない。
 これがまた、何度食べても馴れることができない代物なのだ。ヤヤユシ人は身長三センチ程度のごく小さな生物だが、れっきとした知的生物である。しかも頭と両腕両脚があって、われわれ地球人と見た目はほとんど変わらない。それを特製のタレにひたして、生きたまま丸飲みするのである。丸飲みにされるあいだにも、ヤヤユシ人はわれわれに理解できない言葉でキイキイと泣き叫ぶ。罪悪感をいだかずにいられようか。
 困ったことに、ヤヤユシ人のおどり食いはけっこういけるのである。つるつるとして、喉ごしがじつにいい。
 一回の晩餐で、われわれは何十人ものヤヤユシ人を生きたまま平らげてしまう。その弱々しい悲鳴を耳にしながら。
 ヤヤユシ人のおどり食いを食べてしばらくのあいだは、トイレへ行っても自分の出したものを見ないほうがいい。びろうな話でもうしわけないが、便の中に消化しきれなかったヤヤユシ人の死体がいくつもそのまま混じっていることがよくあるのである。罪悪感は頂点に達する。
 フンダヴァ星の文明、軍事力はわれわれ地球人のそれをはるかに上回る。一度でもヤヤユシ人のおどり食いのもてなしをことわったら、どんなことになるかわかったものではない。それに、ヤヤユシ人のおどり食いは、フンダヴァ人にとっても、ごく一部の者しか口にできない非常に貴重なものなのである。フンダヴァ人は四十光年離れたヤヤユシ星に膨大な費用を投じて無人の捕獲船を飛ばし、ヤヤユシ人をその住む都市から捕まえてくる。ヤヤユシ星は重力が非常に大きく、ヤヤユシ人はフンダヴァ星のはるかに小さな重力の環境下では長く生きられないため、人工飼育も不可能だ。そんな高価で貴重なものをことわって関係を悪化させるよりは、罪悪感を我慢したほうがまだましである。それに、けっこういけるのだし。
 なんとかしようとした地球人も、なかにはいた。だがフンダヴァ人たちはヤヤユシ星の領有権を主張しており、われわれ地球人はヤヤユシ人を調査することも採取することもできない。手の出しようがないのだ。
 いちど、フンダヴァ人の外交使節が地球にやってきたときはたいへんだった。何で彼らをもてなすかが問題だった。彼らにとってのヤヤユシ人のおどり食いに匹敵するものは何か。長い議論の末、やっと結論が出た。
 ククワ虫の活け作りである。
 ククワ虫はわれわれ地球人がある惑星の海洋で偶然発見したものである。その肉が食用に適することが判明して、われわれはさっそくその養殖に着手した。いまでは地球上に何百ものククワ虫牧場があるほどだ。
 ククワ虫の肉は生がいちばんおいしい。生きたまま食べるのである。ククワ虫の平均的な大きさは、体長約五十メートル、体高約十二メートルである。これを広大なホールやグラウンドに運びこむ。ククワ虫は巨大だがおとなしくて動きも鈍く、われわれが近づいてもなんの危険もない。
 ククワ虫を食べるには、水着とスコップが必要だ。水着に着替え、まずスコップで外皮を破る。外皮は薄くて、すぐに破れてしまう。そのままスコップで体内へ掘り進みながらどんどん肉を食べていくのである。ククワ虫の肉はスポンジのようにかすかすで、三十立方メートルほど食べなければ、腹八分目にもならない。上品に皿に盛りつけるわけにはいかないのである。もちろん、食べているうちに全身がククワ虫の体液でべとべとになるが、食後にはいるプールがまたなんとも言えず爽快なのである。
 パーティなんかでは、数十人がそれぞれスコップを持って一匹のククワ虫をいっせいにあらゆる方向から食っていく光景がよく見られる。
 はじめてのフンダヴァ使節を歓迎するため、われわれは特大のククワ虫を準備し、人数分の水着とスコップを用意した。プールをフンダヴァ星のホタホタ山の天然水で満たすことまでした。
 だが、フンダヴァ人たちはいとも簡単にわれわれのもてなしを拒絶した。文句を言うわけにはいかなかった。軍事力の違いを考えれば、ただにこにこしているほかはなかった。
 仕方なく、われわれ地球人たちだけでこの美味を堪能することになった。
 全身をべとべとにしながらククワ虫をスコップで食い破っていくわれわれ地球人を見て、フンダヴァ人たちは言ってのけたものだ。
「きっもちわるーい」
ヤヤユシ人の躍り食い


弾射音
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作者紹介


弾射音(だん・しゃのん) ぱおにゃん?の前身「ぱおにゃんオンライン・マガジン」の執筆陣の一人。ていうか、大部分の作品を書いてペンネームをいくつも使い分けて載っけてた。1998年にSF長編「太陽が山並に沈むとき」でインターネット文芸新人賞に入選。そのほかに発表したのは「SFバカ本 たいやき篇プラス」(廣済堂 絶版)に収録された「夢の有機生命体天国」のみ。あはは。一時期ネットで小説を発表してただで読まれるのをしぶっていたが、全然売れないので反省してネットに復活した。デビュー作は無料化されて、青空文庫でダウンロードできます。

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2001/8/12

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