パパ・ジェイクが私を見つけたのは、クリスマスを直前に控えた夜のことだった。パパ・ジェイクはしばらく思案げにウィンドウの中の私を見つめ、それから店のドアを押した。店の主人が私をウィンドウから取り外しにきたのはそれからすぐだった。主人は大事そうに私を薄紙に包み、箱に入れた。
「そうですか。お嬢さんのね」
「そう、今年生まれたばかりだけれどね。何か、贈ってやりたくて」
「これは上等の品ですからね。お嬢さんが大きくなっても、毎年飾り付けに使えますよ」
 主人は私を入れた箱をきれいな紙で包み、リボンをかけた。
「それじゃあ、メリー・クリスマス!お嬢さんにもね」
 主人は箱をパパ・ジェイクに渡した。
「娘はミシェルっていうんだ。ミッシーって呼んでる」
 パパ・ジェイクは大事そうに箱を受け取ると、嬉しそうに言った。
「じゃあ、ミッシーにメリー・クリスマス!」
 人の良い主人が言った。

 パパ・ジェイクの家では居間に大きなクリスマスツリーが飾られていた。ママ・アリスと息子たち、ロバートとトニーが楽しそうにツリーに飾り付けをしていた。ミッシーは部屋の隅に置かれたベビー・ベッドに寝ながら、その様子を眺めていた。
 パパ・ジェイクはコートを脱ぐのももどかしく、ママ・アリスにキスをして、息子たちを抱きしめた。それから、いそいそとミッシーのベッドに向かった。ミッシーはパパ・ジェイクに可愛らしい笑顔を向けた。パパ・ジェイクは箱を取り出した。
「ミッシー、クリスマスプレゼントだよ」
 ミッシーは小さな手をパパ・ジェイクの方に向けた。
「まあ、あなた、何か買ってらしたの」
 ママ・アリスがそばに来て言った。ロバートとトニーも寄ってきた。
「パパ、クリスマスは明日だよ」
「プレゼントはサンタさんがくれるんだよ」
 二人は口々に言った。
「ああ、その通りだ。だが、ミッシーはまだ赤ちゃんだから、特別にパパが早く受け取ってきたんだ。それというのも、早くツリーに飾った方がいいと思ってね」
 ミッシーはリボンのついた箱をいじくり回していた。
「ねえ、パパ。ミッシーは自分で開けられないから、僕が代わりに開けてあげるよ」
 ロバートが言った。
「そうだね。ミッシー、お兄ちゃんに代わりに開けてもらうことにしよう」
 そういってパパ・ジェイクは優しくミッシーから箱を取り上げた。ミッシーはしばらくいやいやをするように手を振り回していたが、そのうちにあきらめた。
 皆の目がロバートの手に注目していた。ロバートが優しく包み紙を開けると、まずママ・アリスが歓喜の声を上げた。
「まあ」
 ロバートは優しく私を取り出した。真っ白なレースの衣装に包まれた私はさぞ美しく見えたに違いない。男の子たちも口をあんぐり開けて私を見つめていた。
「何てきれいなの、ジェイク。こんなきれいな天使のオーナメントは見たことがないわ」
 ママ・アリスが私を撫でながら言った。パパ・ジェイクは満足そうにうなずいた。
「道を歩いていたら、ウィンドウに飾られていたんだ。美しかった。直感したんだよ。この天使のオーナメントは、これから毎年ミッシーの守り神として飾るんだって」
 ママ・アリスがパパ・ジェイクにキスした。
「僕、飾るよ」
 ロバートが言った。
「僕が飾る」
 トニーも言った。
「おまえじゃ、背が届かない」
 そう言ったロバートもツリーの上の方には手が届かなかった。パパ・ジェイクがロバートを抱き上げた。ロバートはツリーの一番上に私をぶら下げた。家族みんなが満足そうに私を見つめていた。

 次の年のクリスマスにも私は登場した。ミッシーは歩けるようになっていたが、まだ自分で私を飾ることは出来なかった。暖炉には赤々と火が燃え、ロバートとトニーは相変わらずささいなことで喧嘩をしては、パパ・ジェイクにたしなめられ、そのくせ、プレゼントでもらった列車の模型で仲良く遊んでいた。ミッシーは、より可愛くなっていた。豊かなブロンドの髪が額に波打ち、頬はバラ色だった。そして、目の前に現実に楽しいことがあるわけでもないのに、楽しそうに笑っていた。私は、その姿を見て、パパ・ジェイクの言ったとおり、ミッシーの守り神になろうと決意した。

 何年目かのクリスマスに、ミッシーはパパ・ジェイクにだっこしてもらって、初めて私をツリーに飾った。私はとても嬉しかった。
「天使さん」
 ミッシーは私をそう呼んだ。
「可愛いミッシー」
 もし、私が声を出せたなら、そう答えたのに。

 さらに何年目かのクリスマスには一人のお客が来ていた。長いブロンドの美人、クリスティーヌ。ハイスクールに通うロバートのガールフレンドだった。もはや、ロバートとトニーは以前のように物を取り合って喧嘩をするということはなくなっていた。ロバートはクリスティーヌに夢中だし、トニーはにやにやしてそれを見ている。ただ一人、ミッシーだけが変わらず私に呼びかけてくれる。
「天使さん」
「可愛いミッシー」
 その年のクリスマスにはパパ・ジェイクとママ・アリスとトニー、そしてミッシー。ロバートだけがいなかった。ミッシーはすっかり少女らしくなって、ピンクのワンピースが似合っていた。もはや、ツリーに私を取り付けるのに、パパ・ジェイクの力を借りる必要はなかった。
「ロバートはクリスマスディナーに間に合わないんですかね」
 ママ・アリスがため息混じりに言った。
「この大雪ではね、交通機関も麻痺しているだろうし」
 パパ・ジェイクが言った。少し、淋しそうだった。パパ・ジェイクの髪に銀色に光る物を見た。
「ロバートももっと近くの大学に入ってくれれば良かったのに。よりにもよって、カリフォルニアなんて」
 ママ・アリスが不満そうに言った。
「トニー、あなたは近くの大学に行ってちょうだいね。クリスマスにも会えないなんて私はいやですよ」
 トニーは返事をせずに肩をすくめた。
「アリス、若者は今までの自分と違う世界を見たがるものだよ。納得したことだろう。雪に覆われた街にいれば、陽光降り注ぐカリフォルニアに憧れるのも無理はない。それに、アリス、自分の息子を誇りに思うべきだよ。奨学金をもらって、医学部に入れるなんてそうあるものではない」
 パパ・ジェイクはまるで自分自身に言い聞かすように、ゆっくり言った。
 そのとき、急にバタンとドアが開いた。
 現れたのはサンタクロース?全身雪で真っ白で、両手にいっぱいリボンのついたプレゼントを抱えている。
「ロバート兄さん!」
 ミッシーがすぐに抱きついた。弾みでロバートは包みをいくつか落としてしまったが、誰も気にしない。すぐにママ・アリスが続き、パパ・ジェイクが続き、トニーが続いた。
「ロバート兄さん、クリスマスに間に合わないかと思ったわ」
 ミッシーが言った。
「ごめん、ごめん。この雪だろう。交通機関なんて、まともに動いてないし」
「さあ、ロバート、とにかく暖まって。トニー、暖炉の火をもっと強くね。さあ、コートを脱いで」
 ママ・アリスは自分より、いやパパ・ジェイクよりさえ大きくなった息子にいろいろ世話を焼く。
「やあ、父さん」
 パパ・ジェイクはパイプをくわえながら、笑った。本当に嬉しそうに笑った。

 次の年のクリスマスは何となく雰囲気が違った。燃える暖炉も、積まれたプレゼントも家族の語らいも変わりはないのだが、どこか気分が重苦しいように思えて仕方がなかった。 十代の半ばに達したミッシーは可憐なつぼみのように愛らしく、それだけが救いだった。 ロバートとトニーはクリスマスツリーの傍らで二人だけでぼそぼそと話し合っていた。
「本気で言っているのか、トニー」
 驚いたようにロバートが言った。
「本気だよ。今時、冗談で言うことじゃないだろう」
 トニーが真剣に言った。
「父さんと母さんには?」
「話してない。どう切り出していいかわからなくて。母さんに泣かれでもしたら、くじけそうになるし。だから、その時は兄さんに一緒にいて欲しいんだ」
「トニー、お前はまだ若い」
 ロバートは言葉を詰まらせた。
「正直なところ、行って欲しくない。お前だってよくわかってるはずだ。戦争ごっことは訳が違う。生きて帰れる保証はないんだぞ」
「わかってる。よくわかってるよ」
 トニーは私の方を見た。私は悩んでいるトニーにどうしてやればいいのかわからなかった。
「ミッシーはいいな。守り神がついてる。僕にはいないけれど、それでも」
「トニー、考え直せ。気持ちはわかる。僕だって、正直なところ、従軍することは考えたことがある。でも、残された者の気持ちも考えろ。今、自分に出来ることをすればいいんだ」
「兄さんとは違うんだ。兄さんにはする事がある。立派な医者になって沢山の人を助けられる。だけど、僕になにが出来る。兄さんみたいに、頭も良くないし、人のためになることなんてほかに考えられない。今、僕に出来ることは国を救うことなんだ。愛する国と愛する家族のために戦いたいんだ。それが今、僕にとって自分が出来る全てなんだ」
 トニーが言った。とても、真剣な目をしていた。そして、ロバートはそんなトニーを悲しそうに見つめていた。

 次の年のクリスマスにミッシーが屋根裏部屋に積まれている私の箱を開けた。
「こんにちは、天使さん。一年ぶりね」
 そう言って、ミッシーは私を胸に抱いた。可愛いミッシー、見るたびにきれいになる。大人への階段を登りかけていることが一目でわかる。だが、目だけは初めて会ったときから変わらない澄んだ色をしている。
「天使さん、ごめんなさい。今年はとても、ツリーを飾る気分じゃないのよ」
 ミッシーの言葉は大ショックだった。毎年、私が主役を務めるクリスマスツリーを今年は飾らないと言うの!
 私を抱きしめたミッシーの目から、一筋の涙がこぼれた。ああ、可愛いミッシー、怒ったりしてごめんなさい。一体何があったの。
「毎年、クリスマスは楽しみだったわ。家族全員がそろって、ディナーを食べてプレゼントを交換して。そう、プレゼント。サンタクロースがくれるんじゃないって知ったときはとてもショックだったけれど」
 ああ、その年のクリスマスはよく覚えている。パパ・ジェイクもママ・アリスも辛そうに、でも、そろそろ本当のことを知らなければいけないと言って、告げたのだっけ。
「あんなクリスマスは二度と来ないのよ。もう二度と。戦争が全て奪ってしまったのよ。私たち一家の幸せを。ああ、可哀想なトニー。今年も一緒にクリスマスを祝いたかったのに。トニーのためにマフラーを編んでたのに。まだ、編みかけだったのよ。でも、クリスマスには間に合わそうと思って必死だったの。もし、トニーが休暇を取れなくて帰ってこられなかったら、送ろうと思って。それなのに、ああ、トニー」
 ミッシーは私を抱きしめてしばらく泣き続けていた。もし、私の両手が動いたなら、ミッシーを抱きしめてあげたかった。

 すっぽり空いたテーブルのトニーの席に一人の魅力的な女性が座ったのは何年か後のクリスマスだった。世の中は平和を取り戻し、人々の顔は明るかった。ミッシーは高校を卒業し、ママ・アリスの希望通り、地元の大学に通い始めていた。
「今年は新しい家族を迎えられて本当に幸せよ、フランシス」
 ママ・アリスが言った。
「ありがとうございます」
 フランシスはロバートと顔を見合わせて少し恥ずかしそうに笑った。長いブロンドの巻き毛、形の良い鼻、そして知的な横顔。ロバートは趣味がいい。私は一目でフランシスが気に入った。
「トニーが生きていたら、どんなにかロバートの結婚式の付添人をしたかったでしょうに」
 ママ・アリスはそう言って、ハンカチで目を拭った。
「ママ、プディング持ってきましょうか」
 ミッシーが明るく言った。
「そうね、お願い」
 ミッシーは両手に大きなプディングのお皿を捧げ持つようにしてやってきた。
「さあ、恒例のママのプディングよ」
 パパ・ジェイクが切り分けた。
「まあ、本当においしい」
 フランシスが言った。
「そう言ってもらえると嬉しいわ。あなた達も、もっと時々遊びに来て頂戴な。おいしいものをいろいろ作って待ってるから」
 ママ・アリスの言葉にロバートとフランシスは顔を見合わせた。やがて、ロバートがパパ・ジェイクの方を向き直った。
「話さなければならないことがあるんだ」
「改まって何かな」
 パパ・ジェイクが言った。
「パリに行かないかって話があるんだ。向こうの大学病院の研究室で働かないかって」
「パリですって?あの、フランスのパリのこと?」
 ママ・アリスが目を見張るようにして尋ねた。
「そうだよ、ママ。あのパリだよ」
「だって、どうしてそんなところに行かなければいけないの。あなたはこちらの病院で立派に働いているじゃないの」
「立派な研究機関なんだよ、ママ。僕にとっては夢みたいな話なんだ。医者だったら、もっと沢山の研究がしたい。そして、沢山の人を助けたい。その第一歩なんだ」
 パパ・ジェイクは何も言わず、パイプに火をつけた。
「ヨーロッパよ。カリフォルニアにいてさえ、満足に会えないのに」
「素敵じゃないの、ママ。パリなんて。憧れるわ。私、休みには遊びに行きたいわ」
「お黙りなさい、ミッシー!」
 ママ・アリスのこんな激しい声を聞いたのは初めてだった。
「パリはもうすっかり復興を遂げたんだろうな」
 パパ・ジェイクが言った。
「ええ、もうすっかり。元々歴史のある街だし、いろいろな機関も揃ってるし。ヨーロッパは立ち直りましたよ。まあ、一部を除いてではありますが」
「心配はないんだな」
「何もありません」
「反対しないんですか、ジェイク」
 信じられないというように、ママ・アリスが聞いた。
「反対する理由はないだろう」
 パパ・ジェイクは静かに言った。
「私はいやですよ。ヨーロッパは、ヨーロッパは、トニーが死んだ土地じゃないですか。そこに、長男まで送り込むなんて」
 沈痛な空気が流れた。
「アリス、平和が訪れてから何年も経つよ」
 パパ・ジェイクは再びパイプをくゆらせた。
「名誉なことではないか。私たちの息子がそんなチャンスをつかむなんて。私は誇りに思うよ。私たちは直接、間接の違いこそあれ、戦争を起こした愚かな世代だ。だが、ロバートは世界と手を結び平和のために働く次の世代なのだよ。アリス、私たちが寂しいからといって子供の輝かしい未来を棒に振らせることなど出来るかい?」

 パパ・ジェイクとママ・アリスとミッシーだけのクリスマスが何度も訪れた。遠い地にいるロバートからは毎年プレゼントとクリスマスカードが送られてきた。何年も経ったある年、再び訪問者が訪れた。
「ママ、ママ、これでいいかしら」
 真っ白なドレスを着て、髪を結い上げたミッシーが踊るように階段を下りてきた。
「ええ、ええ、とてもきれいですよ」
「パパも見て」
 ロッキングチェアに座ったパパ・ジェイクは目を細めてミッシーを見た。ミッシーはパパ・ジェイクの前で優雅に回って見せた。
「とても、きれいだ、ミッシー。どこの王子様も今のお前の美しさを見たら、まいってしまうよ」
 ミッシーは嬉しそうに笑った。
 その時、チャイムが鳴った。ミッシーはドアに走り寄った。
 ドアの向こうには若い青年がどこかぎこちなさそうに立っていた。
「メリー・クリスマス、ミッシー」
「チャールズ」
 ミッシーは青年の頬に軽くキスをしてから、中に招き入れた。
「パパ、ママ、チャールズよ」
 私はその時、今まで私がしてきた守り神の役をこの青年に譲り渡す日が来ることを直感した。   

 結婚して隣町に住んだミッシーは、毎年クリスマスには必ず両親の元を訪れた。
「メリー・クリスマス、天使さん」
 ミッシーは私のことも忘れず、必ず私にそう言って声をかけてくれた。

 何年かして、ミッシーは小さな赤ん坊を抱いてやってきた。
「天使さん、私の娘、ジュリアよ。これからはこの子の守り神になってやってね」
 ミッシーは赤ん坊を私に見せてそう言った。なんと可愛らしい子!小さいときのミッシーにうり二つではないか。額にかかる小さな巻き毛まで、そっくり一緒だった。パパ・ジェイクとチャールズは二人でパイプをくゆらせて、チェスに興じている。何て幸せなクリスマス。そして、私は誓った。ミッシーだけではなく、ジュリアの守り神にもなろうと。

 その年のクリスマスはこの何年かで、もっとも盛大な物だった。久しぶりにアメリカに帰省したロバート一家が加わったからだった。口ひげを蓄えて、貫禄を増したロバート、落ち着いた魅力を感じさせるフランシス。そして、愉快そうに飛び回る二人の男の子、クリストファーとジェロームは遠い昔のロバートとトニーを彷彿とさせた。そして、可愛いジュリア。毎年、逢うたびに目にするジュリアの成長は私にとって大きな喜びだった。パパ・ジェイクはいつの間にか居場所になってしまったロッキング・チェアにかけ、相変わらずパイプをくゆらせていた。ママ・アリスだけは居間の長椅子に横になったまま、楽しそうにみんなの様子を見ていた。
「ママ、寒くない」
 ミッシーがママ・アリスの毛布を直しながら、声をかけた。
「いいえ、寒くなんかありませんよ。楽しいクリスマスよ。本当に楽しいクリスマス」
「お兄さんたち、今年は帰れて良かったわね」
「ええ。みんなの姿が見られて嬉しいわ。ロバートも本当に立派になって、パリ行きを反対したのが恥ずかしいわ」
「ママったら」
 ミッシーは笑いながら、キッチンに向かった。そして、大きなクリスマス・プディングを持って出てきた。
「今年は、ママから習ったミッシー風クリスマス・プディングです」
 子供たちが喚声をあげて、ミッシーに駆け寄った。ママ・アリスは心から楽しそうにそれを見ていた。

 それから何年もパパ・ジェイクとミッシー一家だけのクリスマスが続いた。ママ・アリスとロバート一家とそれからただ一人若いままのトニーの写真が暖炉の上から見守っていた。ジュリアはどんどん大きくなった。今はただ、ジュリアの成長だけが私の大きな楽しみだった。パパ・ジェイクはロッキング・チェアにいる時間がますます多くなった。チェアから立つときには杖を手にする。
「パパ、チャールズとも相談したのよ。うちに来ない」
 ミッシーはクリスマスのたびに同じことを繰り返す。
「ここが私の家だよ」
 パパ・ジェイクもクリスマスのたびに同じことを繰り返す。
「ミッシー。私は確かに年老いたが、こうしてクリスマスのたびに飾り付けをする力はまだ残っているのだよ。それに、私は一人じゃない。ママもトニーもいてくれる。いや、ぼけているわけじゃないよ。私には、その存在が感じられるんだよ。それに、ミッシー、お前の天使さんだって私を守ってくれているよ」

 再び、クリスマスが巡る頃、パパ・ジェイクが屋根裏の私の箱を開いた。
「さあ、久しぶり。元気だったかね。私かね、見たとおり、髪は真っ白だが、元気だよ。天使さん、いいニュースだ。ロバートたちがアメリカに戻ってくるんだ。いやいや、休暇じゃない。こっちに住むんだよ。カリフォルニアだが、何、パリに比べれば近いもんだ。遠いカリフォルニアの大学に行ったとぶつぶつ言っていたが、今はアリスさえもそう思うだろうさ。さあ、今年も頑張って、きれいにツリーを飾りつけなければな」

 きれいに飾り付けられたツリーと、ツリーの定位置にいる私を見てロバートとミッシーが立っていた。ロバートが手を伸ばして、私を外した。
「真っ白なレースの衣装だった。初めて見たとき、本当に美しいと思った。すっかり、色あせてしまったが、今も神々しい顔をしている」
 ミッシーが私を受け取って胸に抱いた。
「私の天使さん」
「来年にはアメリカに戻れたのに」
 ロバートがぽつりと言った。
「パパはすごく喜んでいたわ。来年はまたみんなでクリスマスを祝おうって。ツリーの飾り付けには手伝いに来るからって言ったのよ。それなのに」
 ミッシーの目に涙が浮かんだ。
「パパのクリスマスプレゼントなんだよ、これが。僕たちにきれいに飾り付けたツリーを見せたかったんだ。いつも、いつも、そうだったように」
 ジュリアがミッシーの傍らにやってきた。ミッシーはジュリアを抱き寄せた。
「ママ、何持ってるの」
 ミッシーは私をジュリアに見せた。
「ほら、いつもツリーに飾り付けてあったでしょう。天使さん。私の天使さんなの」
「わあ、なんかすごく古くない」
「そうよ、ママと同じ年月を生きてきたのよ。ママが生まれた年にパパが、つまりおじいちゃんが買ってきてくれたの。ママの守り神になるように、って。そして、天使さんはそれからずっと、ママたちの家の幸せを守り続けてくれたのよ」
「ふーん」
 ジュリアは、ミッシーから私を受け取ると物珍しげに見つめた。
「よく見ると、きれいな顔をしてるね」
「そうよ、そう。昔はそれは美しかったのよ」
 そう聞いて、ジュリアはもう一度、しげしげと私を見つめた。
「今はジュリアの物だ。おじいちゃんから、ジュリアへのプレゼントだよ。ただし、ママと共有だけれどね」
 ロバートが言った。
「本当?」
 ジュリアは急に嬉しそうに言った。
「そうよ、天使さんはママとジュリアの守り神」
 ミッシーが言った。

 まぶしい!一面の銀世界に太陽が照り返して、外はひどくまぶしかった。無理もないかもしれない。私が外に出たのは何十年ぶりだ。あの雪の降る夜、パパ・ジェイクが私を買った日以来なのだから。外の様子はあのころとは全く違っていた。いくつかの家は建て変わり、人も代わり、車の形もひどく違う。だが、白い雪とクリスマスを前にいそいそした人々の様子だけは変わらない。
「悪いが、家の整理を頼むよ。出来るだけ早くこちらに帰れるようにするから」
 ロバートが言った。
「ええ、任せて。お兄さんたちが帰ってくれるのを待ってるわ。フランシスや子供たちによろしくね」
「ジュリア、ママを頼むね」
「任せて、おじさん。天使さんと二人でママを守るもの。あ、パパと3人で、だった」
 ロバートとミッシーは顔を見合わせてクスリと笑った。私が今年見る初めての二人の微笑みだった。
「メリー・クリスマス、お兄さん。気をつけてね」
「メリー・クリスマス、ミッシー」
 ロバートとミッシーは別れ際に抱き合った。
「メリー・クリスマス、ロバート!」
「メリー・クリスマス、ミッシー!」
「メリー・クリスマス、ジュリア!」
 パパ・ジェイクが言った。
 ママ・アリスも言った。
 トニーも言った。
 雪がひとひら落ちてきた。

ミッシーの守り神


べべちゃん
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2001/12/3

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