「サンタさんに、なにをおねがいするつもり?」
 ひざにのせた絵本のページをめくりながら、ダニーがキャロルにききました。
「このお人形のおうち」
 ことし、ママに買ってもらったお人形の髪をおもちゃのブラシでとかしながら、キャロルがこたえました。
「ダニーは?」
「ぼくはね、うーんとね……銀色の水てっぽうがいいな」
 ダニーはまた、絵本のページをめくりました。絵本のなかでは、地球からとおくはなれた星で、おそろしい顔をした三つ目のモンスターを、銀色の宇宙服をきたヒーローが、銀色の光線銃でやっつけています。
 キャロルとダニーはおとなりどうし。ふたりのパパとママはおたがいにとてもなかよしで、パパたちはいっしょにつりへでかけたり、庭の芝をかりながらフットボールのはなしをしたり、ママたちはいっしょにお料理をつくったり、お茶をのみながら、なん時間もおしゃべりをしたりします。
 もちろん、キャロルとダニーも大のなかよしです。おとなになったら、キャロルはダニーのおよめさんになるつもりでしたし、ダニーはキャロルをおよめさんにするつもりでした。もっとも、ふたりが結婚するのは、きっと二十年もさきのことですし、ふたりはおたがいのほっぺたにしかキスをしたことがないのですが。
「サンタさんって、ほんとにいるのかな」
 絵本の絵に見いったまま、ダニーがぽつりといいました。
 キャロルはお人形の髪をとかす手をとめて、ダニーの横顔をまじまじとみつめました。
「いるわよ。いるにきまってるじゃないの」
「どうして?」
 ダニーも、絵本から顔をあげて、キャロルをみつめかえしました。
「だって、ママがそういったもん。パパもいるっていったもん。あんたのママはいないっていうの?」
「ううん」
「じゃあ、なんでそんなこときくのよ」
 そういいながら、キャロルはテーブルの下ですこしじだんだをふみました。
 ダニーはひるみました。いわなきゃよかった、そう思いました。キャロルはむきになると、ときどきとってもこわいのです。
「だって――ティムがいないっていったんだよ。サンタクロースを信じるやつなんて、ばかだって」
「まあ!」
 キャロルは目をまんまるにしました。
「あんなゴリラのいうことを信じるの? あんたのママや、あたしのママのいうことを信じないで」
 そういって、ますますじだんだをふみます。
「でも――」
「あんた、ティムと遊んだりするの? あたし、あいつだいっきらい! ずうたいがでかいだけの、らんぼうもののゴリラじゃないの。すぐに女の子の髪の毛ひっぱるんだから」
「でも、あたまはわるくないよ」
「あたまもゴリラなみよ。あいつきっと、サンタにプレゼントもらったことないもんだから、ひがんでるのよ」
「ちがうよ。ちゃんともらったんだよ。だけど、おねがいしたものとぜんぜんちがってたんだって。野球のバットとボールをおねがいしたのに、サッカーボールだったんだって。だから、サンタなんかいなくて、ほんとはパパやママがプレゼントをくれるんだって」
「ふんっ! そんなの信じらんないわ」
 キャロルはらんぼうにお人形をテーブルにおきました。
 ダニーも、絵本のページをとじます。
「でね、ティムがいうんだ。サンタになにをおねがいするつもりか、パパとママにはぜったいにいうなって。それでもおねがいしたとおりのものをもらえたら、サンタはちゃんといることになるけど、そんなことはありえないって」
「じゃあ、パパとママにいわなきゃいいでしょ」
「うん――」
「だまってなさいよ。でもあんたはちゃんと銀色の水てっぽうをもらえるわよ。あたしはお人形のおうち」
「ねえ、キャロル」
「なによ」
「キャロルも、パパとママにいわない?」
「いわないわよ。いわなくたって、サンタにはちゃんとわかるもの。あんたもいっちゃだめよ。そしたら、サンタがほんとにいるってわかるから」
「うん。そうする」
「約束よ」
「うん」
「ちかう?」
「うん、ちかう。パパとママにはぜったいにいわない」
 ダニーは右手をあげてそういいました。
「サンタにはいまのこともちゃんとわかるのよ。ほんとはサンタをためしたりしちゃいけないのよ。でも、こんどだけはきっと大目にみてくれるわ」
「だといいな。なんだか、どっちでもよくなってきちゃった。ああ、はやくクリスマスにならないかな」
「あたしも! まちどおしいね」
 そういって、ふたりは笑いました。ついさっきまで、ほとんどけんかをしそうだったことなど、すっかりわすれています。ほんとに、ふたりはなかよしなのでした。
 でも、いまふたりがはなしあったことは、サンタにはちゃんとわかっているのでしょうか。
 わかっていますとも。
 ほんとうに、サンタはいるのです。サンタには、すべてがちゃんとおみとおしなのです。キャロルがお人形のおうちをほしがっていることも、ダニーが水てっぽうをほしがっていることも。ふたりがサンタをためそうとしていることも。
 そして、ティムがサンタなんかいないって、みんなにいいふらしていることも。
 じつは、去年のクリスマス、ティムが野球のバットとボールをおねがいしたことも、サンタにはちゃんとわかっていたのでした。でも、ティムがそのときほんとにほしかったのは、サッカーボールなのでした。ティムじしん、それがよくわかっていなかっただけなのです。
 サンタは、こどもが口でいうことをそのまま信じるわけではありません。こどもたちの心のなかをのぞいて、ほんとうに望んでいることをかなえてあげるのです。
 そのしょうこに、ティムはこの一年、サンタからもらったサッカーボールで、うんとたのしくあそんだのではないでしょうか。
 だから、サンタは、今年のクリスマスこそはティムにバットとボールをプレゼントするつもりでした。
 そして、キャロルにはちゃんとお人形のおうちを、ダニーにはちゃんと銀色の水てっぽうを用意したのでした。
 ふたりとも、一年間、とてもよい子だったからです。
 ほんとに、パパやママにいわなくても、サンタにはちゃんと、ぜんぶわかっているのです。

 でも、とてもこまったことがおきてしまいました。
 なんと、あんなになかよしだったキャロルとダニーが、たいへんなけんかをしてしまったのです。
 ほんのたまにですが、いままでにも、ふたりはけんかをしたことがありました。でもいつもすぐに、なかなおりしてしまうのです。ふたりのけんかは、十五分とつづいたことがありません。
 しかし、こんどばかりはちがいます。
 クリスマスももうすぐだというのに、なんにちたっても、ふたりはおたがいに口をきこうとしません。みちですれちがっても、しらんぷり。もちろん、おたがいのうちへあそびにいこうとはしません。ふたりとも、なにがきっかけでそんなけんかをしてしまったのか、すっかりわすれてしまったのにです。
 けんかの原因をわすれてしまうほど、そのけんかはひどいものだったのです。
 サンタはこまってしまいました。いままでなかよしでいたのに、いまさらそんなけんかをしたのでは、この一年、ずっといい子でいたことがむだになってしまいます。けんかをしてなかなおりもできないこどもには、プレゼントをしてはいけないことになっているのです。サンタがきめたことではなく、神さまがおきめになったことです。
 なによりも、サンタはふたりにもとのなかよしにもどってほしいと、とてもつよく思いました。
 ほんとは、キャロルもダニーも、なかなおりをしたくてたまらないのです。でもいじっぱりだから、自分からあやまることができないのでした。そんなふたりを見ていると、サンタはとてもかなしくなってしまうのです。でも、たとえサンタにだって、ふたりをむりになかなおりさせることはできません。これは、ふたりのもんだいで、ふたりだけで解決しなくてはならないのです。
 サンタは考えたあげく、ふたりに予定どおり、プレゼントをあげることにしました。けんかをのぞけば、ふたりがわるい子ではないことは、あきらかだったからです。
 それと、サンタもちょっぴりいじっぱりでしたから、プレゼントをしなかったために、ほんとはいないんじゃないかっていわれるのが、いやなのでした。
 というわけで、クリスマス・イブには、サンタは、キャロルのためのお人形のおうちも、ダニーのための銀色の水てっぽうも、そしてティムのための野球のバットとボールも、ちゃんとふくろのなかにいれて、トナカイのそりにのってでかけたのでした。

 イブのパーティは、ダニーの家でひらかれました。パパの会社の人たちや、その家族や、そしてもちろん、キャロルとキャロルのパパとママもやってきました。
 とてもはなやかで、にぎやかで、きらきらした、楽しいパーティでした。クリスマス・ツリーのかざりつけも、去年よりはでなくらいです。
 でも、キャロルとダニーは、ちっともたのしくありませんでした。
 イブになっても、ふたりはまだなかなおりをしていなかったのです。
 おたがいにちかづいたり、はなしかけたりは、ぜったいにしませんでした。このままでは、ふたりは二十年さきにも、結婚しないかもしれません。それどころか、ほっぺたのキスだって、二度としようとはしないでしょう。
 夜がふけてきました。パーティはつづいていますが、こどもたちはもうおやすみの時間です。
 キャロルはパパとママにつれられて帰っていき、ダニーもママに寝室へつれていかれました。
 ダニーをベッドにねかしつけ、おやすみのキスをすると、ママがあかりを消しました。
 ダニーはシーツにくるまって目をとじましたが、すぐにガバッとおきあがって、まくらもとの壁に、くつしたがちゃんと釘でぶらさがっているかどうかを、手さぐりでたしかめたのでした。(もっとも、プレゼントが大きくてくつしたにはいらないときは、サンタはその下の床に、プレゼントをおいていくのです)それからやっと安心して、ふたたびベッドによこたわりました。
 おなじころ、となりの家の、二階の寝室でも、キャロルが壁を手さぐりしていました。

 窓のそとで、小鳥がさえずっています。イブのパーティで夜ふかしをしたおとなたちや、学校や幼稚園に行かなくてもいいので、いっかなベッドをでようとしないこどもたちに、朝がきたよと、つげているのです。
 そして、いつもよりほんのすこし楽しげに鳴いて、こどもたちにはとくべつに、きょうがクリスマスであることも教えています。
 ダニーは目をさましました。カーテンをすかして、あかるく、澄んだ朝日が部屋にさしこんでいます。
 ダニーは目をこすり、あくびをして、足もとにしわくちゃになっていたシーツをひっぱりあげ、ふたたび目をとじました。
 そしてすぐに、ガバッと、からだをおこしました。
 ――クリスマスだ!
 ダニーはあわてて枕もとの壁をふりかえりました。そこにはくつしたがかかっています。寝ているあいだに、サンタがやってきて、プレゼントをいれておいてくれたはずの。
 でも、くつしたはぺしゃんこのまま。なにかがはいっているようすはありません。
 やっぱりティムはただしかったのだろうかと、ダニーは思いました。ダニーはパパとママには、サンタに銀色の水てっぽうをおねがいしたことをいわなかったのです。だから、パパとママは、サンタのふりをしてダニーにプレゼントをすることができなかったのでしょう。
 ――いえ、ちょっと待って! くつしたはぺしゃんこですが、その下に、四角の箱がおいてあります。
 リボンもかけてあります。
 ダニーは両手をのばし、箱をとりあげました。
 花柄もようのうすい紙に、箱はつつまれていました。
 ダニーはリボンをとき、包み紙をやぶらないように、そっとひらきました。
 おねがいしたとおりに、サンタが水てっぽうをプレゼントしてくれたのでしょうか。それにしては、ちょっと箱が大きすぎます。
 ダニーの心臓はちょっとドキドキしました。サンタがほんとうにいるかどうかは、箱のなかみにかかっているのです。なかみが水てっぽうなら、サンタがいることをもううたがうことはできません。でも、ほかのなにかだったら、それはきっと、ダニーが寝ているあいだにパパとママがそっとおいておいたもので、ティムのいったことがただしくなってしまうのです。
 水てっぽうがはいっているには、箱が大きすぎたので、ダニーは泣きたい気持ちになってしまいました。
 包み紙をいきおいよくやぶらなかったのは、もしかしたらサンタがまちがえたかもしれないので、サンタがふたたびやってきて、プレゼントを交換してくれるかもしれないと思ったからなのです。
 包み紙をすっかりひらくと、厚紙でできた、きれいな箱がでてきました。
 ふたをひらこうと、ダニーは箱の上を見ました。でも、ふたがありません。あるのは、きれいなもようだけです。ひっくりかえして、底のほうも見てみました。やっぱりありません。
 横の面を見てみました。ふたらしくはありませんが、指をひっかける穴があります。ダニーはそこに指をひっかけて、そっとひらきました。
 ぱたん、ぱたん、と、箱をかたちづくっていた板がつぎつぎにひらいていき、それはぜんぜんべつのかたちになってしまいました。
 ダニーはそれをテーブルの上におきました。
 そしてやっと、箱の表面のもようがなんであるかがわかりました。
 赤いレンガの屋根、白いカーテンがかかった窓、ちいさなドア――なんと、それは、厚紙でできた、ちいさなおうちだったのです。
 部屋のなかには、だんろと、ソファと、ベッドと、電気のスタンドと、テレビと、ステレオと、クローゼットと、カーペットのうえにはまめつぶほどの猫までいます。壁でしきられたとなりの部屋は、バスルームでした。
 ――お人形のおうちだ。
 きっと、キャロルがサンタにおねがいした、お人形のおうちなんだ。
 ダニーはそう思いました。
 サンタは、まちがえて、キャロルへのプレゼントを、ダニーの部屋においていってしまったんだ。
 そしたら、ぼくのおねがいした水てっぽうは――
 おなじころ、キャロルも自分の部屋の、自分のベッドのうえで、目をみはっていました。
 なぜなら、目をさましてからまっさきにのぞいた壁のくつしたのなかには、銀色の水てっぽうがはいっていたからでした。
 ダニーがほしがっていた水てっぽうにちがいないわ。キャロルもまた、そう思いました。
 サンタさんがまちがえたのかしら。
 それじゃ、わたしのお人形のおうちは――
 それからすぐに、ふたりはほとんど同時に家をとびだしていました。
 キャロルは水てっぽうを手にして。ダニーはお人形のおうちを胸にかかえて。
 ふたりとも、自分へのプレゼントはなくても、だいすきな相手にサンタからのプレゼントをわたすことができると思って。
 それを、なかなおりのしるしにできると思って。
 ふたりの家の、庭と庭のあいだの道で、ふたりはばったりとであいました。
 さいしょはぎこちなく、そしてすぐに心から、ふたりはにっこりと笑って、おたがいのプレゼントをさしだしました。

 こうして、ふたりはなかなおりをして、いぜんよりもうんと、なかよしになりました。
 きっと二十年後には、ちゃんと結婚するでしょう。
 ところで、サンタはどうして、ふたりのプレゼントをまちがえてしまったのでしょうか。
 あんまりとしをとったので、どっちがどっちの家だか、忘れてしまったのでしょうか。
 いいえ、そんなことはありません。なぜなら、サンタはプレゼントをそっと枕もとにおいたり、くつしたのなかにいれるときに、こどもたちひとりひとりの顔をかくにんして、聞こえないくらいのちいさな声で、メリー・クリスマスとささやくのです。
 ひょっとしたら、サンタはわざとまちがえたのでしょうか。そうしたら、ふたりがきっとプレゼントをこうかんして、なかなおりをするだろうと思って――
 まあ、そんなことはどうでもいいではありませんか。
 この冬、けっきょくふたりは、水てっぽうよりも、お人形のおうちよりも、もっとすばらしいプレゼントを、サンタからもらったことになるのですから。
 もっとも、おねがいしたプレゼントも、ちゃんと手にいれたのですけれどね。
ダニーとキャロルと
今年のサンタの
プレゼント



弾射音
今週のショートショート
作者紹介


弾射音(だん・しゃのん) ぱおにゃん?の前身「ぱおにゃんオンライン・マガジン」の執筆陣の一人。ていうか、大部分の作品を書いてペンネームをいくつも使い分けて載っけてた。1998年にSF長編「太陽が山並に沈むとき」でインターネット文芸新人賞に入選。そのほかに発表したのは「SFバカ本 たいやき篇プラス」(廣済堂 絶版)に収録された「夢の有機生命体天国」のみ。あはは。一時期ネットで小説を発表してただで読まれるのをしぶっていたが、全然売れないので反省してネットに復活した。デビュー作は無料化されて、青空文庫でダウンロードできます。

(C) 2001 Dan Shannon. All rights reserved



2001/12/9

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