第3回


「よし。ではそうしよう」
 先生が言った。
 由美が机の下で、お祈りするように組んでいた両手が、力なく膝の上に崩れ落ちた。
「だけど、仲間外れの子を絶対に出さないこと。いいな」
 先生が言った。
「はーい」
 みんな、嬉しそうに返事をした。
 すぐに教室の中は大騒ぎになった。
 みんな立ち上がって、あっちこっちに走り回っている。
 由美は、座ったまま動かなかった。
 誰のところに行けばいいと言うのだろう。由美を受け入れてくれるような子は一人もいやしない。
 好きな子同士だけには、絶対になって欲しくなかった。あまりにみじめすぎる。
 由美の両目に、熱い涙があふれてきた。
 みんなの大騒ぎが、異次元のもののように聞こえる。
「おーい、こっち来いよ」
「一緒じゃなきゃいやだ」
 それぞれ、思い思いのことを叫んでいる。 ミッキーマウスの人、ミッキーマウスの人、どこにいるの。今こそ、出てきて私を助けてよ。由美は、心の中で叫んでいた。
 涙はとめどもなくあふれてくる。由美は、こっそり手で涙を拭いた。
 もう、我慢できなかった。こんな教室、出て行きたい。由美は、少し顔を上げた。
 その時、前をうろうろしている男の子たちの向こうに、座ってうつむいている藤崎静香の後ろ姿が見えた。
 由美はハッとした。
「小山さん」
 かけられた声に気づかずに、由美は静香の後ろ姿を見ていた。
「小山さん」
 誰かに肩に手をかけられて、由美はびっくりして振り返った。
 悦子が立っていた。
「どう。仲間に入らない」
 由美は少し口を開いてポカンとした表情になった。
「誰かと約束してる?」
「い、いいえ」
 由美は慌てて言った。
「じゃあ、どう?」
「でも、私……」  
由美は、悦子の後ろに立っている悦子の仲間たちを見た。
「いやなの」
 悦子は少しイライラした口調で言った。由美は慌てて首を振った。
「ただ、いいのかと思って。邪魔じゃないかと」
「邪魔だったら誘わない」
悦子は大人びた口調で言った。
「小山さん入るって」
 悦子は後ろの仲間たちに言った。そして、突然のことにどうしていいかわからないでうろたえている由美を置いて、今度は藤崎静香のもとへ歩いていった。
 悦子はしばらく静香と話してから、振り向いて仲間にVサインを送ってよこした。
 静香がゆっくり足を引きずりながら、悦子とやってきた。
「それじゃあ、私たち、六人で決まりね」
 満足そうに悦子が言った。
 由美と静香のほかは、悦子の仲良しばかり。谷口真弓は、頭が良く、悦子ほどではないにしても活発な少女。佐々木美紀子と渡辺幸子は、成績は平凡だが活発な少女だった。
 由美は、この人たちとおなじグループにいる自分がひどく場違いに思えてきた。
藤崎静香も、おどおどした様子で下を向いて立っていた。
「どうだ。みんなグループは決まったか」
 宮川先生が言った。
「はーい」
 みんなが口々に答える。
「決まっていない人はいないか。大丈夫か」
 宮川先生が念を押す。
 自分でさえ仲間に入れてもらったのだから大丈夫よ、と由美は思った。
「それじゃあ、どんな作品を選ぶかをみんなで話し合うこと」
 宮川先生の指示が飛ぶ。
「どうしようか」
 悦子が言った。
「うーん、あんまり本のこと知らないからなあ」
 幸子が言った。
「悦ちゃんに任せる」
「賛成」
 幸子と美紀子が口々に言った。
「無責任なんだから」
 悦子が少し膨れて言った。
「だって、悦ちゃん、本好きじゃない」
 その言葉に由美の胸はドキンとした。悦子は本好き?知らなかった。
「いくつか候補を出そうよ。みんな知ってる本の名前言ってよ」
 知ってる本の名前ならいくらでもある。いくらでも言えるけれど、この人たちの前で口に出すことなんて出来ない、と由美は思った。
「ハイジとか」
 真弓が言った。
「うん、いいね。私は『赤毛のアン』って言いたいところだけれど、あれって続編があるからなあ」
「『かぐや姫』でもいいの」
「『フランダースの犬』」
 みんなのってきたようだ。
「『若草物語』がいいな」
 しばらく考えて悦子が言った。
「あ、それいい」
 真弓も賛成した。
「ね。登場人物も女の子四人だしさ、いっそみんなで劇風にするとか」
「わあ、いい、いい。賛成」
 
ミッキーマウスの手紙


桐生 梓
連載小説
この小説はフィクションです。

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2004/8/29

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