第5回


 パパはなんとか落ちつきをとりもどし、順序だてて事情を説明した。テーブルをはさんで反対側のソファに腰をおろしたジミーとマリリンはパパの説明が終わるまで黙ったまま聞いていた。ジミーは腕を組み、じっと考えこんでいるふうだった。

 パパは言った。
「つまり、あなたは『ジャイアンツ』を見てはいないんですよ。完成直前にお亡くなりになって――」
「わかってる」ジミーはこたえた。「ひどい事故だった。病院に半年も閉じこめられたよ。あの映画を見たのはそのあとだった。そうか。やはりわたしは死んだのか。つまり、きみの世界でという意味だが」
 彼は淋しげにため息をつく。
「わたしの場合はどうなの?」マリリンが言った。
「あなたの死は、いまだに謎とされています」こたえたのはママだった。
「自殺とも、睡眠薬の飲み過ぎによる事故とも、陰謀とも」
ママはからだを前に乗りだした。
「あの、こんなことをお尋ねするのは失礼ですが、ほんとうのところはどうなんですか」
「よく憶えていないのよ。あのころはすごいプレッシャーで、いらだっていたから。睡眠薬をはなせなかったわ。ほんとに死ぬつもりだったのかどうか、わからない。まあ、かなりやけをおこしていたのはたしかですけどね」
 マリリンも淋しそうな顔になってしまった。
「いずれにしても、わたしたちの世界ではおふたりとも伝説的存在ですよ」
パパが言う。
「それで、テレビでおっしゃってた、もとの世界へもどる方法と言うのは――」
「磁力だ」
 ジミーはパパの言葉にかぶせるようにこたえた。パパもママも磁力と聞いて、きょとんとなってしまった。
「磁場が関係するらしいんだ。いちど撮影所にあった強い磁石のちかくにいたら、あんたの小さな娘がいましているような恰好の人間がうじゃうじゃ歩いている世界をかいま見てしまったことがあった。あんたの家には強力な磁石があるか?」
「磁石ですか?」
「電磁石でもいい。大きなモーターでもあれば」
「パパ、あるよ」
ぼくは言った。
「うちの自動車は電気自動車じゃないか」
「なるほど!――だけど、この世界のわたしたちが乗っていったままだぞ」
「夕方には帰ってくるよ」
「しかし、家にもどって出くわしでもしたら」
「びっくりするでしょうよ、きっと」
ママが言った。
「でも、なんとかうまくばれないように――」
「電気自動車なら、申し分ないわ」
マリリンが言う。
「はやく帰ることよ。ショックを与えるといけないから、極力出くわさないほうがいいけど、ばれたらばれたときね」
「もとの世界のあんたたちの子どもたちのためにも、はやくもどってやりなさい」
 ぼくたちは立ちあがり、彼らと握手した。パパもママも、しきりに感謝する。
「ところで」帰りぎわに、パパがふたりに言った。
「あなたがたはもどる方法を知りながら、どうしてここにとどまったのですか」
「事故で死んで、わたし自身の死体も墓もちゃんと存在する世界にもどってどうなるね?世間をパニックにおとしいれるだけだ」
「わたしもよ。わたしはなんとか医者に助けられたけど、どうやら睡眠薬で死ぬ運命にあったこの世界のわたしと入れ替わったようなの」
「理由はもうひとつある」
ジミーが言い、マリリンと目を見あわせた。
「わたしたちは再婚するんだ」
 ふと見ると、ふたりはしっかりと手をにぎりあっていた。
 六十五歳のおじいさんと、七十歳のおばあさんが。


「おじょうちゃん、うまくいったかい?」
 さつえいじょをでるときに、けいびいんさんがこえをかけてくれた。あたちは、ばいばーい、っていっててをふったんだけど、うまくいったって、なんのことだろ?
 ああ、けしきがゆれる。ママにてをにぎられてるのにあたちのからだはふわふわとどこかをとんでるみたいで、ときどきどうぶつさんのかっこのひとたちがいっぱいみえてくる。


 家に帰るまでがまたたいへんだった。しっかり手をつかんでるのに、ケイトはときどき見えなくなってしまう。列車のなかでもいちどほんとに見えなくなって、あたしたちはそれがほかの乗客たちに気づかれないようにするためにドタバタしてしまった。
 帰りついたときには、もうかなり暗くなっていた。ガレージに車はない。この世界のあたしたちはまだ帰ってきていないんだ。薄着のまま出てきたのに、けっこう冷えこんできた。外に隠れていたかったが、風邪をひきそうだ。リックとあたしはキッチンに隠れて待つことにした。
 ふたりはすぐに帰ってきた。
リアル・モンロー
  トゥルー・ディーン



弾 射音
連載小説
この小説はフィクションです。

(C) 2003 Dan Shannon. All rights reserved



2003/2/2

Ads by TOK2