第22回


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 エンタープライズの見馴れた転送室が視界に像を結ぶ。転送が完了し、彼は三名の保安部員とともにプラットフォームをおりた。
 スポックと、スコットの姿があった。
「お帰りなさい、ドクター」
 スコットが人なつっこい笑みで彼を迎えた。
「ああ」
「ご無事でなによりです」
 スポックがマッコイに歩み寄った。
「ドクター、さっそくですが、ひと休みされたらブリッジへ――」
「疲れているんだ。部屋へもどって寝る。今後四十八時間、だれもわたしの邪魔をしないでくれ」
「しかし――」
「ジムにもそう伝えておいてくれ」
 彼は呆気にとられたスポックたちをのこして転送室を出た。
 レヴェル3の自室にもどると、彼はベッドに倒れこむようにして横たわった。
 だが、少しも眠れなかった。瞼を閉じることすらできなかった。冴えた目は天井を睨み、そこにひとつの面影を描きだした。
 少女――可憐で、純真なミドリの面影を。
「ボーンズ」
 インタコムから声がした。
 カークだった。
 マッコイは顔をあげてドアのほうを見た。
「わたしだ。はいってもいいかね」
「ああ――ああ、いいとも」
 彼は上体を起こし、床に足をおろして舌打ちをした。
 スポックめ。ちゃんと言っておいたのに。
 ドアがひらいて、無表情のジムがそそくさとはいってきた。
「もどってきたばかりなのに、すまない。疲れているようだな」
「いささかね」
「掛けてもいいかな?」
「あ、ああ、すまない。そこへ」
 カークはレナードが示した椅子に浅く腰をおろした。
 マッコイのほうへ前かがみになる。
「どうだね、ドクター、いい気分転換になったか?」
「気分転換だって?」
 マッコイの表情がみるみる険しくなった。
「ジム、きみはいったいなにを考えているんだ。そんなつもりでわたしをあそこへやったのか。わたしがいったいどんな気持で――」
 カークは笑った。
「いや、悪かった。いまのは失言だ。そう怒りなさんな。もちろん、重要な任務だったとも」
 マッコイは納得できなかった。なにかひどいことを言ってやりたかったが、口がぱくぱく動くだけで、なにも言葉がでてこなかった。
「だがな、ボーンズ、わたしはきみを信じていたのだ」
 レナードの口が、ひらいたまま動きを止めた。
「きみならぜったいできると、わたしは信じていた」
 マッコイは呆気にとられてしまい、数秒のあいだカークの顔をぼおっと眺めるよりほかなかった。
 それから、ミドリのことを思い出した。
 信じること――あのあどけない少女は、まさにそのことを教えてくれたのだ。マッコイはいまやっとそのことを悟った。信じること。それがどんなに大切なことであるかを。彼女の人びとにたいする愛が、それを可能にしたのだ。そして、不可能を成し遂げた。
 友情もおなじではないか。
 なのに、わたしはほんのささいなことで、この男のわたしにたいする友情をうたがってしまったのだ。
 あの年端もいかぬ少女のほうが、どれだけそのことをよく知っていたことか。
 そればかりではない。カーク自身、マッコイの彼にたいする友情をこれっぽっちもうたがわず、信頼しつづけてくれたのだ。
 レナードは羞恥心で首をうなだれるよりほかなかった。
 ジムがその肩に手を置いた。
「ボーンズ。きみは期待どおりのはたらきをしてくれた。まさに、連邦一のドクターだ」
 レナードは顔をあげて力なく笑った。
「買いかぶりすぎだよ」
「いいや」カークはとぼけた顔で言った。「わたしは至極まじめだよ。さてと、お休み中に邪魔をした。ブリッジにもどらなくては。なにもかも忘れて、ぐっすり眠ってくれ」
 カークは腰をあげ、ドアへ向かった。マッコイも立ちあがり、カークがドアを出ていくのを見送ろうとした。
「ああ、そうだ」
 ドアの手前で、カークがふりかえった。
「あすから機関部員たちの定期検診だ。とんだあらくれ者ぞろいだからね。チャペルひとりでは手にあまるだろう。休暇は二十四時間にしてもらえないか」
「なんだって!」
 血相をかえたマッコイを尻目に、カークはすばやく通路へすべりでた。
 カークのいたずらっぽいウィンクが、閉じかけたドアのむこうに消えていった。


奇蹟(ミラクル)のM


弾射音
連載小説
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2002/9/29

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