第21回


                      19

「行ってしまうのね――」
 ベッドに横たわったミドリが、悲しげな目でマッコイを見あげた。
 ミドリは疫病に感染したのではなかった。疫病は根絶されたのだ。彼女はあの球と強く精神感応したため、疲れ果てたのだった。
「ああ、エンタープライズの助けを必要としている人たちは、宇宙のいたるところにいるからね」
「もっといろんなお話を聞かせてほしかった――」
「わたしも、もっと話がしたかったよ」
 ミドリは首をひねって顔をそむけた。
「ミドリ、もう一度、その顔を見せておくれ」
 彼女はそれにしたがった。
 目が潤んでいた。
「ありがとう。きみのおかげで、ここの人たちは救われた」
「わたしがしたんじゃないわ。レナード、あなたがみんなを救ってくださったんだわ」
「いいや。きみの、その純粋な心がなかったら、みんなは永久にベッドから立ち上がれなかったさ」
「わたしはあなたが思うような、立派な人間じゃありません。でも、うれしいわ、そう言ってくださって。レナード、あなたって、ほんとにやさしい方ね」
 ふたりは言葉をなくし、ただ見つめあった。
「――さあ、そろそろわたしは行かなくては」
 マッコイは微笑み、少女の頭をやさしく撫でた。
 少女の目から涙がこぼれはじめた。
「きっと、また来てくださるわね」
「きっと、ね」
「約束よ」
「約束する」
 ミドリは彼の手をとり、自分の頬に押しあてた。そしてみずからも手をのばし、彼の頬に触れた。
 彼がその手を取ろうとすると、彼女はシーツの下に手をひっこめた。
「ここでおわかれするわ。転送室で見送ったら、きっと、もっとたくさん泣いてしまうわ」
「――さようなら、ミドリ」
「――さようなら、レナード」
 彼は踵をかえし、ベッドをはなれた。
 ドアを出る前にふりかえると、ミドリがベッドの上でこちらに背を向け、小さな体を小刻みにふるわせていた。




奇蹟(ミラクル)のM


弾射音
連載小説
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2002/9/22

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