第16回


「だれか、操作してみてくれないか」
 マッコイがそう言うと、バックが前に進み出て、車体の横のスイッチを押した。ドアがひらき、彼が前の中央のシートにすべりこむ。
「ドクターも、どうぞ」
 レナードは彼のとなりにすわった。アントーノフとカリーロはうしろのシートだ。
 バックがメイン動力をオンにする。
「内部の断面を出してみます」
 彼が探査装置を操作し、ディスプレイにリアルタイムの映像を出した。球の中心部を縦に割った断面の映像だ。全体を出したので、内部構造が細かすぎてよくわからない。
「もっと拡大してみてくれないか」
「どのあたりですか?」
「そうだな。ここだ」
 マッコイは球の先端部分をディスプレイ上で指さした。バックがそこに長方形のワイヤー・フレームをあて、拡大をコンピュータに指示した。
 構造がはっきりしはじめた。
「これを見ただけではよくわからないな」
「バック、もう少し拡大してみろ」
 うしろからアントーノフが言った。そしてまた咳きこんだ。
 マッコイは彼をふりかえった。
「おいおい、風邪をひいたなんて言わないでくれよ。だとしたらきみは二百五十年ぶりの患者なんだからな。ただでさえ、こっちは原因のわからない重病患者をしこたまかかえこんでいるんだ」
「ちょっと喉がいがらっぽいだけです。失礼しました」
「帰ったら、生命維持装置をオーバーホールしたまえ」
「そうします」
 そうこたえて、アントーノフはふたたび咳をした。
「さらに拡大しました」
 バックがそう言ったので、マッコイはコンソールに向きなおった。
「いまちょうど、五分の一のスケールです」
 ディスプレイの上方に、倍率と座標が表示されており、マッコイはバックの言葉をそれで確認した。
 映像のところどころで、ときおり白い光が瞬間的にうつしだされる。
「なんだね、これは」
「静電気ですよ。コンピュータの記録にもあったと思いますが」
「ああ、それなら見た」
「ご存知のように、この球は気密状態にはなっていません。殻からすきま風のふきこみ放題。外界の気温や湿度に左右されるわけです。最初ここが発見されたとき、非常に湿度が高かったようですね。遺蹟の保護のため、彼らはここの湿度を人工的に低下させたそうです。球の内部にも水分がたまっていて、それが蒸発して内部が乾燥しはじめて、徐々に静電気が発生しはじめたそうですよ。そしていまじゃ、中はひっきりなしの花火大会」
「それも読んだよ。だが、疫病の発生のかなり以前だ。つまり、両者を簡単に関連づけることはできない」
「そのようですね」
 バックが肩をすくめた。
「もっとべつの断面を見せてくれないか――」
 最後まで言わないうちに、アントーノフがまたもや咳をした。マッコイはすかさず彼をふりかえった。
「おい、きみ――」
「すいません、ドクター」
 ヘルメットごしに、彼の苦しげな顔が見える。
「ちょっと、寒気がするようです」
 いやな予感がした。
「どんなふうに?」苛立ちのせいで、声が怒りを含んでいるように響いた。
「その、なんと表現していいか――」
「顔をあげて、もっとはっきり顔を見せろ!」
 アントーノフはそうした。
 頬と額にかすかな斑点が浮きでていた。
「もどれ! いますぐだ。彼を隔離するんだ!」
 マッコイは作業機械をとびだした。バックとカリーロがあわててアントーノフをかつぎだす。彼のからだはごつい気密スーツを通してもそれとわかるほどふるえはじめており、自分ひとりではうまく歩けないほどになっていた。
「急げ! きみたちも感染するぞ!」
 地上ヴィークルにアントーノフをかつぎこみ、バックが急発進させた。車の振動で、アントーノフはシートからすべり落ちた。マッコイとカリーロで彼をシートに横たえる。なんて図体のでかい奴だ。彼は心の中で悪態をつきながらカリーロを急かした。


奇蹟(ミラクル)のM


弾射音
連載小説
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2002/8/18

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