第13回


                      13

 マッコイはキニーと協議して、患者たちをいくつかのグループに分け、それぞれに免疫性低下タイプの疾患に用いられる特定の治療法を試してみることにした。時間がないのでどの治療法も速効性のあるものに限られたが、マッコイの滞在期限が切れたあとは、キニーが辛抱強く長期の治療法を試みるだろう。
 そうならないことを、彼は願った。
 ミドリ・コバヤシはあいかわらずスカートとブラウスだけで病室へ出入りし、患者たちに手作りのクッキーを食べさせたり、本を読んで聞かせたりしている。少女は憔悴しきったキニーや焦燥にかられたマッコイとはまったく対照的に、じつにいきいきしている。どんな小さなことをするのでも、楽しくてしょうがないといった感じだ。マッコイは彼女がうらやましかった。自分もあんなふうになにかを信じて、いきいきと人生を楽しむことができたらいいのに。
 彼はカークのことを思いだした。
 治療を受ける患者たちのモニタリングについてキニーの助手たちに指示したあとで、彼は保安部員たちを召集した。報告を受け、今後の活動を決めるためのブリーフィングだ。
「さてと、遺蹟からなにかわかったかね」
 マッコイはできるだけくだけた口調で言い、セキュリティたちを見わたした。三人とも、顔にありありと疲労があらわれている。肉体的な疲れというよりも、苛立ちからくるもののようだった。無理もないことだ。一触即発の危機と背中合わせの活動など、彼らにとってはめずらしくもないことだが、今回ばかりはあまり経験が役立ってはいないようだ。重い防疫スーツ、原因のまったくわからない疫病、惑星考古学者たちも解明できないでいる異星人の遺蹟。
「あまりはかばかしくありませんね」
 長身のアントーノフが不精髭を指でこすりながらこたえた。
「あまり先入観をもってはいけないのですが、現在のこの未知の疫病が、この星の先住民たちの滅亡の原因だったのではないかという前提で調査するのが、まあ妥当な線でした。ところが、ドクターもご存知のように、彼らの屍体からは疫病の痕跡はまったく見つかっていません。炭素系のヒューマノイドですが、われわれとはかなり生体構造がちがうので、発見できないだけなのかもしれませんがね。われわれは解読された彼らの文献をたよりに、遺蹟を実地に探査しました。代表的な都市を三つです」
 女性保安部員のカリーロがコンピュータの端末にデータを表示させた。
「どの都市も、陶器質の球を中心に、放射状に建てられています」彼女があとを引き継いだ。「都市の構造は単純です。居住、商業、工業の機能がモザイク状に配列されていますが、それぞれは明確に区別できます。自由競争を基礎に、徐々に発展したようです。農業などは都市以外の場所でおこなわれていたようですね。輸送にも機械が使われていました。われわれはこの文明の末期に疫病が蔓延したという前提で調査をしました。考古学者たちによって医療施設であったと特定された建造物にも足を運びました。しかし、患者たちを一度に大量に隔離したと思われる痕跡はありませんでした。そこで見つかった記録にも、いわゆる黒死病のようなものに関する記述はないそうです」
「それどころか、滅亡を暗示するようなものが、遺蹟にも文献にも、まったく見あたらないんですよ」
 いらいらした口調でそう言ったのはバックだ。
「それはわたしも知っている」
 マッコイは彼を制した。
「で、その陶器質の球についてはなにかわかったのかね」
「とくになにも」アントーノフがこたえる。「学者たちの意見は、崇拝の対象ということでだいたい一致しているようですが」
「漠然としてるな。ここの学者たちの調査記録はチェックしたんだろうね」
「はい。でも、疫病の原因を開放してしまったと思われるようなものはありませんでした」
「パンドラの箱はなし、か――」
 マッコイは呟いた。
「ドクター」バックが言う。「これ以上は無理ですよ。だいいち、ここの先住民がおなじ疫病にかかっていたという保証すらないんですからね。大気組成、地質、放射線、そのどれをとっても、原因らしきものは見あたらないんですから。まるで悪い夢を見ているようなものですよ」
「そう投げやりになるんじゃない。あきらめずに、最善を尽くすんだ。暇ができたら、わたしも遺蹟に足を運ぶ」
 マッコイは彼らを解散させた。
 彼らが出ていくと、彼はスツールに腰をおろして頭をかかえた。
 どだい、専門の学者たちが調べてわからなかったことを、しろうとが数日で解明できるわけがないのだ。医学的調査でも、今後なにかが発見できる見込みはまったくない。
 わたしは彼らのためになにひとつしてやれずにこの惑星を去らなければならないのか。
 そして、あの可憐な少女にも。
 ふと、彼はバックが最後に言った言葉を思い出した。
 夢か――。
 そしてその言葉が、なぜかミドリの「信念」を連想させるのだった。


 
奇蹟(ミラクル)のM


弾射音
連載小説
(C) 2002 Dan Shannon. All rights reserved



2002/7/28

Ads by TOK2