第11回

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 保安部員たちの報告を聞き、シャワーを浴びて、食事をとった。報告では、実のある話を聞くことはできなかった。定時連絡のあと、レナードはベッドにながながと伸びて、あのミドリという少女のことを考えた。
 やはり、二次感染の危険はないということなのだろうか。
 もちろん、そう判断したわけではない。だが、重い防疫スーツに身をつつみ、念入りな防疫処置をしてからおそるおそる患者たちに接するキニーや自分がばかげているように思えたのもたしかだった。彼女はこれっぽっちも恐れてはいない。確信しているのだ。自分だけは感染しないという思い上がりではなく、ただ、愛する人たちから病気をうつされたりはしないということを。
 彼女の医療記録をとことん検討する必要があるが、彼はなんとなくそれがひどく億劫に思えた。いままでどんな調査をしてもなにもわからなかったためばかりではない。わかりきったことを必死になってつつきまわして、堂々めぐりをしているだけだという気がしてならなかったのだ。
 だがそれでも、少しでも解決の糸口になりそうなことは、しなければならない。
 あと六日だ。カークやほかのみんなの鼻をあかすには、のんびりとかまえたり、迷ったりしている暇はない。


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 保安部員たちは、遺蹟からなにかが見つけられないかと、コンピュータの記録を調査しつづけている。都市の中央に設置されている陶器質の球にとくに注目しているようだ。構成成分と内部構造を検討し、データをマッコイに報告するのだが、いまのところ疫病に関係すると思われるものは見つかっていない。それどころか、それがどんな機能を果たすものか、まったく検討がつかないのだ。マッコイはその点では悲観的だった。プロの考古学者や惑星物理学者が解答を発見できなかったのに、セキュリティの訓練しか受けていない者に何がわかるのだ?
 その点では、彼自身も五十歩百歩だった。
 あの少女について調べなければならない。彼女だけが特別なのか。それとも患者との接触では感染するようなものではないのか。彼女を最初に見たときはさすがに冷静さを欠き、彼女がこれ以上病室へ出入りするのを禁止しようと決意したものだが、いまではもう少し様子を見ようと思うようになっていた。もちろん、彼女の生体モニタを欠かさず、ちょっとでも異変が見つかれば即刻禁止するつもりだった。
 マッコイは個室の端末からコンピュータにアクセスして、ミドリのデータを検討しつづけた。
 コロニストたちが発病したとき、彼女は居住区画にいた。たぶん、菓子でも焼いていたのだろう。もちろん、居住区画でも、住民たちは採掘現場や遺蹟にいた者たちとほぼ同時に発病している。発病しなかったほかの者たちのうち、居住区画にいた者はほかにふたり。彼らを患者たちと区別する、特別の条件はいまのところ見つからない。彼女には、病歴らしい病歴はなかった。アレルギー体質でもない。血圧も正常。入植時と定期検診時、そして疫病発生後に何度か取られたDNAサンプルでは、彼女の遺伝子は安定してなにも変化がなかったことを示している。ブラウスとスカートだけで病室に出入りするようになってからもだ。マッコイは、彼女がその少女らしい信念によって罹病を免れていると信じたくなった。
 面接調査をしよう。
 インタコムでキニーにそのことを伝えた。キニーは恐縮していて、ぜひともそうしてくれと言った。わたしは立ち会うべきでしょうか。彼はそうしたかったようだが、マッコイはことわった。
 彼は連邦のユニフォームに身をつつんでミドリ・コバヤシの個室のチャイムを鳴らした。少女にあげるのに適当なものを何も持っていなかったので手ぶらだったが、せめて小さな花の一輪でもあればと思うのだった。
「どうぞ」
 ドアがひらく。彼はためらいがちに足を踏みいれた。質素だが少女らしい部屋のなかで、ミドリはベッドのわきのリクライニング・チェアに腰をおろして本を読んでいた。
 彼女は目をあげてマッコイを見ると、本をひらいたままテーブルに伏せて立ちあがった。
「まあ、ドクター・マッコイ」
「その、おじゃまでしたかな」
「いいえ」彼女は満面の笑みで彼を迎えた。「よく来てくださったわ。どうぞ、そんなところに突っ立っていないで、もっとおはいりください」
 ドクターはもうひとつあった折り畳みの椅子に歩み寄ったが、腰はおろさなかった。理由はないが、なんとなく気がひけたのだった。医師として接したことはあるが、思春期の少女と個人的に接したことは一度もない。そんな年頃の子供を持ったこともなかった。だから、その少女の部屋でどんなふうに振る舞ったものか、見当がつかなかったのだ。もっとも、いまでも彼は医師としてこの部屋にやってきたわけだが。
「ドクター・マッコイ――」
「レナードと呼んでくださると、うれしいのだがね」
 彼はそう言って照れ隠しの笑みを顔にはりつけた。
「では、レナード――」
 そのとき、部屋の奥で電子音が鳴った。
「まあ、たいへん! 焦げちゃうわ」
 少女はあわてて隔壁のむこうに駆けていった。数秒して彼女の声が聞こえてきた。
「すみません。お菓子をつくっているの。すぐにすむわ。お掛けになって、お待ちください」

 
奇蹟(ミラクル)のM


弾射音
連載小説
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2002/7/14

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