第3回


                       3

 エンタープライズはヴェルギリウス第三惑星の周回軌道にはいった。ドクター・マッコイと三名の保安部員の準備は完了していたが、すぐにおりていくわけにはいかなかった。不用意に転送をおこなえば、未知の病原体を逆ビームして、船内にもちこんでしまう恐れがあるからだ。まずコロニーの見取り図をもとに隔離プランをたて、救援チームを送るまえに防疫コートを施した透明アルミの隔壁システムを転送した。焦燥にかられたドクター・キニーをなだめ、じゅうぶんな隔離および防疫態勢を確立させるためだ。それがやっと完了すると、ドクターら一行は転送室に召集された。
 精密な機材と、スラスター・スーツよりもごつくてはるかに精密な防疫気密服を着込んだ人間を送るため、転送は慎重におこなわれねばならなかったので、スコット自身が操作を買って出た。スポックもあらわれ、転送に立ち会った。
 カークはブリッジにいたままだった。
 モンゴメリー・スコットは今回の任務の成功を強く熱望していた。首尾よくことが運べば、リチウム結晶を補充できるかもしれないからだ。カークは非常に有能な艦長で、どんな危機でも乗り越えられなかったことはないが、そのためにかえってエンタープライズのエンジン性能を無視してしょっちゅう無理な推進をさせるため、なんどもリチウム結晶をだめにした。彼が警戒態勢を発令するたびに、スコッティははらはらして、いつ結晶が濁りはじめるんだろうと、リチウムにへばりつかなければならないありさまだった。
「準備はいいですか、ドクター」
 マッコイと三名の保安部員が機材とともに位置につくと、スコットは言った。
「ああ、いいとも」
 マッコイはぶすっとしてこたえた。死ぬかもしれないんだから、遺書のひとつでもレコードしておこうかと思ったのだが、それが冗談や皮肉ではなくなってしまう可能性があることを考えると、恐ろしくて実行できなかった。死地へ赴くには、あまりにも不似合いな筋書きだ。
 スコッティがドクター・キニーに最終確認をして、準備は完了した。
「ドクター、お気をつけて。かならず四時間おきに連絡をください」
 スポックがそう言ったので、マッコイはヘルメット内のマイク越しに切り返した。
「きみこそ、四時間おきに確実にわたしの通信を受けて、わたしたちが生きているのを確認してくれよ」
「生きていらっしゃるかぎりはね」
 スポックが無表情にこたえる。重苦しく、窮屈な防疫スーツのなかで、マッコイは肩をすくめる気力すらなくした。
 かわりにスコッティが情けない顔をして肩をすくめてくれた。
「じゃ、いきますよ」
 スコットがスイッチをいれ、ビームを増幅しはじめた。ごくゆっくりと、四人の人間と機材が、光の粒に変わっていく。スコットは転送先に確実にビームをロックし、最大まで上げた。マッコイの視界では、転送室が急速に白いハレーションに包まれていく。
 霧がはれるにつれ、転送室の風景は透明アルミの壁と、そのむこうの人影にとってかわった。
 人影は、マッコイたちと同様に不格好な防疫スーツで全身を包んでいた。
 ドクター・キニーだ。ヘルメットのグラスのなかに、頬の痩けた、不精髭の顔が浮かびあがっている。両目は黒い隈にふちどられていた。
 マッコイはまず隔壁内の殺菌剤噴霧装置をチェックした。それがすむと、ドアをあけ、ためらう保安部員たちをせきたてながら外へ出た。
 近づくと、ドクター・キニーは憔悴どころか、ほとんど過労で死にかけているようにすら見え、マッコイは息を呑んだ。彼が声をかけられないでいるあいだに、キニーが一歩進みでて、手をさしだした。
 分厚いグローブどうしで、ふたりは握手を交わした。




奇蹟(ミラクル)のM


弾射音
連載小説
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2002/5/12

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