第1回



 航星日誌・宇宙歴0401・5120。ヴェルギリウス星系まであと二十八時間の距離まで接近した。最新の通信によれば、ヴェルギリウス第三惑星の状況に変化はない。ドクター・キニーと数名の助手を除き、コロニーの全員が原因不明の疫病に倒れ、いまのところ死者は出ていないものの、惑星全体の機能が事実上麻痺したままだ。要請により、本来のコースをはずれ、救援に向かうこととする。だが、事態が事態だけに、慎重な対応が要求される。考え得るかぎりの完全な防疫態勢をもってしても、当船への影響を皆無にすることは困難と思われる。ミスター・スポックら数名とのブリーフィングの結果、救援チームの人選を除き、船医マッコイに対策を一任することとする。






                      1


 ドクター・レナード・H・マッコイは苛立っていた――いや、それ以上に当惑し、落胆していた。
 原因は些細なことだった。機関士助手のひとりがリチウム結晶の扱いでミスを冒し、ちょっとした放射線障害を被ったのだが、快復が通常予想されるよりも倍以上かかったのだった。その機関士がとくに弱い体質というわけではなかった。
 カークがそれを、レナードの医療ミスではないかと言ったのだった。
 もちろん、公式記録にその言葉はのこっていない。ごく親しい者のあいだで交わされるような、ちょっとした言質であった。
 だが、ジムは冗談で言ったのではない。規則にのっとってマッコイを処分するような暴挙には出なかったが、どうやら本心からそう思っている様子だった。マッコイも最初はたいして気にはとめなかった。お得意の皮肉でやりかえしたりさえした。
 だが、カークの態度には、皮肉が通じる余裕はみじんもなかった。
 カーク自身も苛立っていることが、レナードにはよくわかっていた。M113惑星での一件の直後である。彼はあの事件で四人もの部下を死なせていた。しかも、四人ともヴェテランの乗組員だった。あの件では、レナードはカークにたいしてほんとうにすまないと思っていた。あの怪物――どんなものにでも姿を変えることができ、触手の吸盤から人間の体内の塩分を一グラムのこらず吸い取ってしまう、おそろしいバンパイア――は、あろうことか、レナードが十年ほど前に恋をした女性、ナンシーの姿をとってあらわれたのだった。それがナンシーではなく、邪悪な何者かであることがあきらかになっても、彼はそれにフェーザー・ガンを向けることができなかった。彼の個人的感情のために、事件の解決は遅れ、そればかりかカーク船長の命すら危険にさらしてしまったのだった。
 しかし、ジムはわたしのほかならぬその個人的感情をよく理解してくれたのではなかったか。いまさらになって、あんな態度をとるとは――
 ヴェルギリウス第三惑星への調査および救援チームには、マッコイと、医療にはまったくしろうとの保安部員三名が任命されただけだった。もちろん、いつもはなかば野次馬根性でいっしょにおりていくジムも、そして純粋な知的興味だけで同行するスポックも、今回はチームにはいっていない。それどころか、看護婦のチャペルまでが除外されているのだ。だれだって命は惜しいだろう。エンタープライズ号の貴重なクルーをむやみやたらに危険にさらすことができないのもよくわかる。だが、彼自身はおりていくのだ。
 しかも、医学知識のある助手をひとりもともなわずに。
 もちろん、自分がチームから除外されたとしたら――そんなことは考えられなかったが。なんと言っても彼は医者なのだ――一も二もなく志願していただろう。そして、チャペルがチームのメンバーに加えられていたとしたら、即刻除外することをカーク船長に強く進言していただろう。完全防疫システムを装備していくとはいえ、未知の病原体にはまったく効果がないことだって考えられるからだ。死人が出るのなら、できるだけ少ないにこしたことはない。
 だが、メンバーを決めたのはカーク自身だ。
 友情に甘えるつもりは毛頭なかった。それでも、カークは十年来の親友であるはずだった。これはあきらかにあてつけであり、個人的な報復だ。
 メンバーの発表を、カークはきわめて事務的な口調で、いともあっさりとやってのけた。そして、無表情でレナードをちらりと見ただけだった。いつものような、あっさりした、しかし情のこもった、「ボーンズ、くれぐれも注意してくれ」のひとことはとうとうなかった。
 まったく、考えられないほどひどい仕打ちだ――
奇蹟(ミラクル)のM


弾射音
連載小説
(C) 2002 Dan Shannon. All rights reserved



2002/4/28

Ads by TOK2