渚にて

ON THE BEACH

  1959年アメリカ映画 UA
  白黒 135分

監督 スタンリー・クレーマー
出演 グレゴリー・ペック エヴァ・ガードナー
      フレッド・アステア アンソニー・パーキンス
   ドナ・アンダーソン
おすすめ映画
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2003/5/4

1964年、第3次世界大戦が勃発した。核攻撃、それによる汚染によって北半球は滅亡。本国に帰還出来なくなったアメリカの原子力潜水艦がオーストラリアのメルボルンに寄港する。ここでは人々はごく日常の暮らしを送っていた。原潜の艦長ドワイト・タワーズも本国に残した妻と子供を失っていた。傷心のタワーズは、このメルボルンで美しい女性モイラと出会い、少しずつだが彼女に癒しを感じていくようになる。しかし、平和なこの地にも死の灰は迫っていたのだ。そんな時、アメリカのサンディエゴの地から意味不明の打電を傍受した。人類が絶滅したはずの北半球に、まだ誰か残っているのか!?タワーズ艦長は学者たちの依頼を受けて、オーストラリア軍のホームズ大尉や学者のジュリアンも同乗させて調査に出かける・・・。


製作された時は1959年。米ソの冷戦のまさしくまっただ中。決して笑い事ではない映画だったことでしょう。原作はネビル・シュートの同名小説。SFの傑作として評価されています。SFファンなら絶対に見て戴きたい傑作であります。しかし、SFファンでなくても絶対見て戴きたい。何故なら、これは一般的に想像されるSFとは明らかに一線を画した人間ドラマであるからです。

アメリカの原子力潜水艦の艦長タワーズは、長い航海に出ている間に核戦争が勃発し家族も知人も故郷に残っていたもの全てをなくします。勿論、他の乗組員も同じ。「潜水艦に乗っている間は自分は危険だが、家で待っている家族は安全だと信じていた」というタワーズの言葉が何とも切なく響きます。それでも職務には忠実なタワーズ。とりあえず、生き残った南半球のメルボルンに寄港して、ごく普通の暮らしを営み続ける人々と接します。その中にはお酒に苦しみを癒す孤独な美女のモイラもいました。お互い孤独な者同士。2人は惹かれあいます。海辺で束の間の休日を愉しむ2人。それでも、亡くなった妻のことを忘れられないタワーズの一言。言ってしまったタワーズも、それを聞いたモイラも心が張り裂けそうになったことでしょう。

艦長タワーズにはグレゴリー・ペック。寡黙な艦長役は、この人にはピッタリ。対する、人生に疲れてお酒に走るモイラ役にはエヴァ・ガードナー。黄金コンビの再共演です。タワーズと付き合うようになってモイラがお酒をやめ、活き活きし始める様が女性の可愛さを象徴しています。こういう役って、本当にエヴァさんに似合っている。

皮肉屋の学者にはフレッド・アステア。歌いも踊りもしないアステアのシリアス演技には注目です。やがて訪れる「その日」の前に、やってみたかったことに大挑戦してしまう中年(もっと?)の気合い。彼が映画の中で最後に映るシーンでの満足げな微笑みは何とも言えませんでした。

海軍大尉ホームズ役のアンソニー・パーキンス。とにかく若い!歌う青春スターだった頃の彼ですね。職務には忠実だけれど、家族への責任感も人並み以上。迫り来る死の灰はもはやどうにも免れられないもので、「その日」を迎える前に人々にはきちんと準備の品が渡されるのです。それを前にしての苦悩。まだ若く未来が広がる一家であっても、死の灰は情け容赦なく襲ってくるのです。

タワーズたちが訪れた故郷アメリカ。潜望鏡から覗くサンフランシスコ。ゴールデンゲイトブリッジに有名な坂道。ケーブルカー。でも、そこには・・・。さらに謎の打電がサンディエゴの発電所から発信されていたことを知った彼らはその地を訪れ真相を探ります。これはあまりに有名な驚くべき真実が用意されています。

冷戦時代は終わったけれど、今はまた大量破壊兵器の恐怖が世界を揺さぶっています。昔の映画だからといって、決して人ごとなどとは思えません。たった一度ボタンを押してしまったがために、世界が被った恐怖。破壊。滅亡してしまった北半球も悲惨ですが、あと何日と知りながら残された日々を楽しく懸命に生きようとするメルボルンの人々もまた泣かせます。SFと言えば、今では派手なSFX、CGと戦闘シーン満載の超A級アクションであるのが当たり前になっています。でも、この映画ではアクションシーンと言えば、せいぜいカーレースぐらい。核の爆発も描いていないし、その犠牲になって絶命した人も画面には一人も出てきません。ただ、淡々と迫り来るその日を人々の日常に絡めて描くだけ。核戦争の恐怖、悲惨さを描くには必ずしも目を覆うようなシーンは必要ではないことを証明した作品。それでいて、これほどまで胸が詰まる悲しさを描ききった演出の見事さにはただただ脱帽したい気分です。

私はこの映画を見て、映画中でたびたび流れている「ワルツィング・マチルダ」が大好きになりました。オーストラリアでは第2の国歌と言っていいくらい国民に愛されているポピュラーな曲です。時にはおじさんたちが元気良く声を張り上げて合唱し、時には哀愁を込めて流れるこのメロディ。一度聞いたら絶対忘れられません。こんな時代だから、世界中の政治家も含めて皆さんに姿勢を正して見て戴きたい作品だと思います。


☆冒頭のメルボルン、市電も走れば馬も走る、馬車も走れば自転車も走る。この交通風景が大変面白いです。レストランの駐車場には車の他に馬も。でも、最後にはこの光景も・・・。映画のあちらこちらに様々な伏線が張られているので注意して見ていくとより楽しめます。


ビデオ ○(絶版?)  DVD ○

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