オルフェウスの窓


池田 理代子

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2001/8/12

ドイツの音楽街、レーゲンスブルクの音楽学校にはオルフェウスの窓と呼ばれる伝説の窓がある。そこの窓で出逢った男女は熱烈な恋に落ちるというのだ。この音楽学校に通うユリウス・フォン・アーレンスマイヤはこの窓で最初に同じ学校の天才ピアニストのイザークと、次に上級生のクラウスと出逢う。ユリウスは男性ということで通っていたが、実はアーレンスマイヤ家の後妻に入った母が、ユリウスを当主にするために男として育ててきたのだった。しかし、ユリウスの中に流れる女性の血はやがて脈々と息づき始める。クールなクラウスに抱く恋心。そしてそんなユリウスを愛するイザーク。この3人の恋模様を中心に、アーレンスマイヤ家の財産をめぐり、血を呼ぶ様々な陰謀が巡らされる。

男装の麗人、ユリウスの怒濤の人生を描く歴史大河ドラマです。

レーゲンスブルクの音楽学校での音楽と愛の物語。そして、それと並行してアーレンスマイヤ家の財産を巡って、奇怪な事件が続発し、やがて悲劇が次々に起きます。
ユリウスの美しき母、レナーテの秘められたロマンス。アーレンスマイヤ家のしっかり者の長女マリア・バルバラと美貌の次女アネロッテ。家の中で秘められた陰謀が渦巻いて心を休められないユリウスにとっての安らぎはイザークとの親交。そしてクラウスへの愛。
しかし、そのクラウスは実はアレクセイ・ミハイロフという名のロシア貴族で、革命に命を捧げるバリバリの闘士でユリウスとの愛を捨ててロシアに帰っていきます。イザークが差し伸べてくれる温かい安らぎのこもった手を振りきって、ユリウスはアレクセイを追ってロシアへ。アレクセイを探し回るうちに革命に否応なく巻き込まれ、やっと彼とめぐり逢ったときは何と記憶喪失に。革命は二人の恋も未来も踏みにじって進んでいくのでした。

この中でやっぱり一番格好良いのはアレクセイでしょう。クラウス時代からクールでちょっとニヒルで格好良かったけれど、ロシアに移ってアレクセイ・ミハイロフとなって怒濤の活躍を始めてからは格好良さも倍増。若気の至りで、危なっかしく見ていられないところも多いところがまた可愛い(笑)。兄ドミートリィの意志を継ごうと、亡き兄の婚約者アルラウネにしごかれながら革命への道を手探りで邁進していきます。ロシア革命の時代、教育を受けたインテリゲンツィアである貴族の子弟などが多く革命に参加したようです。それは自分たちの今の身分を否定することです。それでも、正しいと思う思想に生きた人々。
アレクセイもまたその1人だったのですが、やがて革命の進行と共に、人民達に祖母の屋敷を攻撃され幼い頃から育ててくれた祖母や執事など愛する人々を殺されたときの、悲痛な嘆きが心に残って離れません。
「私は誰のために闘ってきたのだ!そのお返しがこれか!」
アレクセイが命を賭けてきた革命は、彼がもっとも愛している人々の命を次々に奪わずには終息することがなかったのです。何とも皮肉なことです。

男装の麗人というと、やはり思い出すのは「ベルサイユのばら」のオスカルですが、今回のユリウスは第2部以降はほとんど女性として生きています。第1部では、陰謀の謎解きをする力強さを見せるのですが、それ以降はただの恋する女性。アレクセイを追っていくと決めたときに、イザークの差し出してくれた温かい手をそのまま握ったら・・・と一瞬迷うのはすごくよくわかります。イザークと一緒ならば、静かな幸せが約束されていたでしょうから。

イザーク・ヴァイスハルトはピアノの天才です。貧しい境遇ながら、その才能で世に認められていくようになります。ただ天才にありがちなことですが、他のことは不器用。女性関係はその最たるものでしょうか。ユリウスに対しても押しが弱い。その後も愛する女性に巡り会いますが成就せず、愛してくれる献身的な女性は妹のようにしか思えず・・・。幸せな家庭には恵まれない人でした。

脇役で好きだったのは、クラウスの友人のダーヴィド。ガキっぽいところを残すクラウスとは違ってずっと大人で、ユリウスを含めみんなを温かい目でいつも見守っている頼れる人。
それから、マリア・バルバラお姉さま。義母との確執もあり、ユリウスともうまくいかないところもありましたが、意志が強く威厳があって、公平な人。何があってもアーレンスマイヤ家を1人守り抜く孤高の女性で、女性としての幸せを捨てた感もありましたが、この人だけはどうやら最後は幸せになってくれそうなところが嬉しかったです。

長い壮大な物語です。特にロシア革命のストーリーは、甘さなど吹っ飛んでしまう迫真の展開。少女マンガの粋を完全に越えた歴史絵巻です。「ベルばら」が好きだった人は、是非これも制覇することをおすすめします。

☆第1部でいじめっ子で悪役の象徴だったモーリッツ。でも、イザークの妹フリデリーケに恋をして、彼女が売る野菜を全部買い占めてしまったり、可愛いところもありました。彼も大きな過ちを通して、大人になっていくところが、結構好感を持てました。


中央公論社愛蔵版、集英社文庫にて刊行
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