帰らざる氷河



美内すずえ
おすすめマンガ
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2001/11/18

美内すずえ作品の中でも、ひときわ好きな作品の一つです。
昭和50年に別冊マーガレットに掲載されました。

サルビア国国王と歌劇歌手の母の間に生まれたエリナは、5歳の時スキャンダルを恐れた王妃の差し向けた刺客に追われ母を亡くし、一人で国を出ます。母は最期に「サルビアの人々の心は、おまえにとってこの国の氷河より冷たいのだから、2度と帰ってきてはいけません」と言い残します。幼いエリナは餓えに苦しみ見知らぬ町をさまよいますが、街頭で母が歌ってくれた「3本の赤いキャンドル」を歌って喝采を受けお金も手にして、歌で食べていくことを覚えます。アコーデオン弾きのヨハンに声をかけられて、一緒に歌を歌いながら各地を旅しますが、病気になったエリナを捨ててヨハンは姿を消します。教会の養護施設に引き取られたエリナは、そこで初めて子供らしい幸せを得るのですが、エリナの服を着て出かけた少女がエリナと間違えて殺されたことから、エリナはサルビア国と父国王に対して激しい憎悪を胸に施設を出ます。ジプシーの一団に加わり、各地で歌っていたところをアレックス・リーという高名なマネージャーに見いだされ、スター教育を施されて、オデット・ローリンという名で歌手デビュー。世界的な人気歌手になり、とうとう故郷サルビアで国王の前でコンサートを開くことになるのです。長年彼女が心に秘めた憎悪を舞台で暴露する格好のチャンス。そして舞台脇には、再び王妃の差し向けた殺し屋がオデットを狙うのでした。


これもこの頃流行った復讐物の一つです。
オデット(エリナ)が歌手という設定が気に入って、マンガの中から聞こえてきそうな彼女のバイタリティあふれる歌唱力に魅了されてしまいました。母から譲り受けた黄金の喉に加え、放浪生活で培った様々なリズムや語学を活かした歌の数々は実際に聞いてみたいと思うほどでした。

オデットの少女時代、養護施設で間違えて殺された少女のエピソードは大変ショックでした。養護施設、修道院、寄宿舎は復讐物の基礎となる3大アイテムでしたが、関係ない子が巻き添えになるのは辛いものです。人の服を借りてはいけないのだな、とわけのわからないことを考えてしまいました。

この物語のメイン舞台となるサルビアという国が、氷河に閉ざされた国であるということも効果を盛り上げています。椰子の木が生い茂る暖かくてのどかな波の音が響く地では、復讐効果はどうしても盛り上がりませんものね(笑)。寒い国故に、襟や袖に毛皮をあしらったコートやドレスにも憧れたものです。

サルビア国のステージに立ったオデットは、舞台で自分の出生を暴露する気でした。しかし、途中王妃の策略で火事が起こりマイクも伴奏も使えなくなります。その時、国王は言います。「そなたが本物の歌手であるならばたとえ伴奏やマイクがなくても歌えるだろう」。父と名乗れなかった国王の精一杯の娘に対する愛でした。そしてオデットは、本物の歌手でした。マイクなど必要ない。広いステージに彼女の声は朗々と響きます。

そしてアンコール。歌うのは母がいつも歌ってくれた「3本の赤いキャンドル」。
オデットを狙う殺し屋の銃はいつ火を噴くのでしょうか?

この「3本の赤いキャンドル」という歌。やはり創作された歌なのでしょうか。とてもそうとは思えない、歌詞だけ見てもとても素敵な歌で、どなたかに適した曲をつけて頂いて聞いてみたいものです。



☆美内すずえには「13本のキャンドル」という短編もあって、当時ごちゃごちゃになったものです。きっと、キャンドルが好きなのでしょうね。


マーガレットコミックス(絶版)、白泉社文庫「美内すずえ傑作選」に収録
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