あさきみめみし


大和 和紀

おすすめマンガ
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2001/11/5

日本文学古典の金字塔「源氏物語」を忠実にマンガ化した壮大かつ華麗な歴史絵巻です。帝の息子として生まれた、類いまれなる美しさと才能、カリスマ性を持った光源氏の波瀾万丈の生涯、というか華麗すぎる女性遍歴を描きます。


まずはあの「源氏物語」をここまでマンガ化した大和和紀に脱帽です。

光源氏は、あまりに有名で日本の歴史上(勿論文学の)の美男子、プレーボーイの最高峰にいる人であります。あまりに美しく生まれついて才能にも恵まれたがために、必然的に女性の憧れの的。本人も美女と見るとすぐ手を出すどうにも困った人ですが、実は根本的にはマザコン。早く死に別れた母の代わりに、帝の妻藤壺に恋をしてどんどん泥沼にはまっていきます。でも、決して藤壺一筋ではなくて、他にも次から次へと女性遍歴を重ねます。藤壺を忘れるためと言えばまだ体裁は良いのですが(笑)。

頭の中将も好きなキャラクターでした。みんなどんどん出世していくので、一番馴染み深い名前で呼ばせて頂くことにします。光源氏の正室葵の上のお兄さんで、何事にも良きライバル。若い頃はよくつるんで遊び回ったという仲です。お互いどんどん階級をあげていくうちに、それぞれの思惑もからんで結構いがみあったりもするようになりますが、心の中ではどこかお互いを懐かしんでいる。源氏が都を追放された時に、ただ一人寂しく身を隠す彼を訪ねてくれた頭の中将の男の友情。ここは良かったですね。

あとは光源氏の息子の夕霧。彼も結構好きでした。早くに母を亡くして可哀想なんだけれど、父ほどはマザコンに走らなかった(笑)。真面目で幼なじみの雲居の雁一筋だったはずが、段々他の女性に目を移すようになっていくのはやっぱりあの父譲りでした。源氏が息子なのに、絶対に紫の上に近づけなかったのはやはり横恋慕を恐れてのことでしょう。自分がそうだったから(笑)。

薫は夕霧に輪をかけた真面目一方人間でしたね。結局は大君との一つの恋しか考えられなかった。ついでに、彼の実父柏木も結構好きでした。


ざっと主要男性キャラクターを見てきましたが、この話は本当は女性たちの物語だと思っています。
雅豊かな豪華絢爛の世界でありながら、どの男性に愛されるかだけで人生を決められてしまう女性たちの愛と哀しみの物語。

まずは源氏の正室葵の上ですが、彼女は女性陣の中でも一番と言っていいお気に入りです。左大臣の娘という最高級のお姫様で、美しく才能豊かで、源氏曰く「何の不足があろう」という女性。でも、あまりに深窓の令嬢でプライド高いのが邪魔したのか、源氏という当代最高の婿を得ながら素直になれない。軋轢を繰り返したあげく、やっと源氏が彼女のプライド高き仮面の内面に潜む恐れやナイーブさを見つけて心が通いあえそうになったときには、もう葵の上の命は尽きそうになっていたという、こと男女の愛情については幸薄かった女性です。でも、あれだけ世間がチヤホヤする源氏に、あくまでも自分のプライドを通した断固とした態度で臨むところが男性から見れば可愛くないかもしれないですが、私にはちょっと小気味良かったですね。夕霧という才能豊かな息子にも恵まれたし、葵の上の命がもっと長かったら案外二人はもっと理解しあえる良い夫婦になっていたかもしれないのに、とちょっと残念です。

さて、その葵の上に嫉妬のあまりに生き霊となって取り憑いた六条の御息所。美貌にも恵まれ知性あふれる才女中の才女で、源氏の寵愛も得るのだけれど彼が目を移す他の女性を許せない。寝ている間に生き霊になって取り憑いて他の女性を殺してしまうなんて、ホラーです。でも、ほんのちょっと彼女の気持ちもわからないでもない。彼女は源氏よりかなり年上で、美しい時はそんなに残されてはいない。また自分の知性や育ちに対する相当のプライドを持った女性です。そんな彼女が日陰の身であることは彼女には耐えられなかったのでしょうね。

そして紫の上。源氏の最愛の人として登場しますが、最初は好感が持てませんでした。小さいときから源氏に引き取られ、それこそ源氏の理想の女性として育てられてきた当然の結果というか。彼の威勢に守られて無邪気そのもので。でも、彼女も歳を経てくるうちに変わってきました。貴女だけと口ではいいながら、止まない源氏の女性遍歴を目にし嫉妬も覚えます。強力な後ろ盾を持たないだけに、源氏の愛にすがるしかない自分の立場のはかなさも知ります。そして彼女は、嫉妬も哀しみも胸に秘め、傍目からは幸せでも忍耐の言葉と縁が切れない静かな女性になっていきます。歳を取ってからの紫の上にはどんどん好感が持てるようになりました。源氏は自分ではアバンチュールを繰り返すけれど、紫の上は徹底隔離作戦に出るんですよね。自分の物としか思っていない。それでいて、何とも長い年月を最愛の人として過ごしながら、正室にしていなかったというその事実。思えば紫の上も、愛されて幸せではあっても満たされぬ思いも多かったでしょう。

優しく母のように接しながらもいつしか源氏との愛にはまってしまった藤壺。愛は抱いてもあくまでも源氏を拒絶した槿の君。低い身分と言われながら、その豊かな才能で愛された明石の君。美しさはないものの、ふっくらとした包み込む優しさで愛をくれた花散里。あくまでも凛と自分を貫いて思いがけぬ運命ながらも幸せを手にした玉鬘。燃えるような情熱の女性朧月夜。それから、美しさには恵まれず才能もないという、身分はあっても最悪の状態ながら、その純真さが忘れられなかった末摘花。


十二単衣とかぐわしき香り、風流を愛する雅な世界に生きながらも、彼女たちが抱いた愛や情熱、哀しさや嫉妬はすべて今の女性と変わらないんですね。女心は普遍なのだとしっとりと思わせてくれる様々な女性たちの生き様を描いた作品です。


☆高校の古文の先生は良く「源氏物語」の話をしてくれました。やっぱりその中で一番心に残ったのが葵の上と彼女に取り憑いた六条の御息所でしたね。この頃から葵の上好きが始まったのかな。


講談社コミックス、文庫にて刊行
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