魔女の血をひく娘

Witch Child

セリア・リーズ
Celia Rees

理論社
おすすめ本
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2004/3/20

時は1659年、場所はイングランド。祖母と一緒に暮らす14歳の少女メアリーに悲劇が訪れる。薬草の知識を持ち合わせ、人々の病を治すために手を貸してきた祖母が突然魔女の宣告を受け縛り首にされたのだ。次は「魔女の血をひく」孫娘のメアリーが狙われる番だったが、謎の貴婦人が現れメアリーを連れ去り新世界アメリカを目指す船に乗せてくれる。その船は先に行った仲間たちを追いかける清教徒たちが乗った船だった。自分が異質であることをひた隠しにしようとするメアリー。やはり薬草の知識を持ち合わせるマーサという女性が、自分も一人旅であることから何かれとなくメアリーの世話を焼いてくれ、2人はやがて一緒に行動するようになる。長い旅の果てについた入植地。そこで清教徒の一団は前から住んでいた旧住民の仲間入りをすべくせっせと働く。しかし、外部との接触がほとんどない限られた環境、偏狂と言っていいくらいの狂信的な人々。流行る病気、総ての不幸はやがて魔女がもたらす災いだとの声が上がり、再びイングランドでの悪夢が蘇る・・・。


ヨーロッパ暗黒の世紀を駆け抜けた魔女狩りを逃れて新天地アメリカを目指した少女の苦難の物語です。アメリカを目指す船旅の大変さが細かに語られます。広い船室ながら、ひしめく人々で与えられたスペースは寝床一つ分。劣悪な環境の中で命を落とす人々もいる。そんな中で、ひとりぼっちだったメアリーは、マーサという母親がわりとも言える女性と親しくなり、孤独から解放されます。マーサは、メアリーの祖母と同じく薬草の知識を持ち合わせ人々の病気を癒す人。また、やはりこの船の中の変わり者とされるジョウナも薬草の大家で「薬草大全」なる本の執筆に勢力を燃やす人。息子のトバイアスも大工であり良い人です。そして、少し年上の少女リベカという年の近い親友も出来て、今やメアリーは一人ぼっちではなくなりました。船の上では船員ジャックとのほのかなロマンスさえ経験します。

やっと着いた新大陸。ひとまず一行はセイラムに腰を落ち着けますが、やがて先の船で移住し新たな入植地を築いた一行を追って新たな旅に出ます。その旅の道案内をしてくれたネイティブアメリカンの祖父と孫のカケスと、メアリーはその後も密かな友情を築いていくことになるのです。そして、彼らが随分好意的に入植者を迎えてくれたこと、しかし、そのために未知の病気を部族の中に持ち込むことになって大勢の仲間が死に絶えた悲劇の歴史をメアリーは知るのです。

メアリーたちの家も何とか整い始め、落ち着いた暮らしが出来るようになってきましたが、外部の世界と隔離されていると言っても過言ではない新しい入植地は、以前からいる一部の有力者と聖職者が牛耳る世界でした。彼らの言うことは絶対で、ひとたび彼らににらまれたらそれはおしまいを意味するのです。薬草の知識があるマーサやジョウナと一緒にいるためにメアリーもまた癒しの様々な方法を会得することになるのですが、それがメアリーに思いもかけない不運を呼ぶことになってきます。人を助けたとしたら、それは魔術のなせる技。助けられなかったらそれは魔術で殺した・・・とまあ、道理も何もない論理がまかり通ってしまう恐ろしい閉鎖社会の中で、一種異端のメアリーが生きていくのはたやすいことではありませんでした。やがて、メアリーと対立する少女たちが狂気を起こしてそれが魔女狩りへと発展していくのです。その恐ろしさと言ったら・・・。

自分たちが理解出来ないもの、自分たちとは違うもの、そしてただ気に入らないという理由だけで、人はいとも簡単に相手を疎外することが出来ます。「魔女だ」と告発すればそれで良いのです。それが堂々とまかり通ってしまう恐ろしさ。ヒステリー状態に陥った集団の狂気などの恐怖をまざまざと見せつけてくれます。ピルグリムファーザーズはプリマスに上陸して以来、建国の父と言われていますが、果たして彼らがしてきたことはそれだけだったのでしょうか。イングランドでは異端であったがために新世界を求めた筈の彼らが、新しい土地でしたことは旧世界の二の舞だったというところが何とも皮肉です。

本書は魔女そのものの力云々より、アメリカの歴史、新世界を目指した人の歴史により多くをさいています。アメリカの初期の姿を知る上でも大変参考になるでしょう。


☆西部開拓の物語ではしばしば人々の心の支えとなる聖職者ではありますが、こういった閉鎖された小さな社会では、例えようもない権力の塊になってしまうところが恐ろしいですね。奥さんを亡くしてすぐに、家の面倒を見るために新しい妻を物色するという考えもやはりとてもついていけないのですが、これは生きていくために必要なことだったのでしょうか、やはり・・・。


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