ポアロのクリスマス

Hercule Poirot's Christmas

アガサ・クリスティ
Agatha Christie

早川文庫
おすすめ本
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2003/12/22

南アフリカのダイヤモンド採掘で財を成したシメオン・リーはゴーストン館と呼ばれる屋敷で長男のアルフレッドとその妻リディアたちと暮らしていた。偏屈で通るシメオンは今年のクリスマスには、他の子供たちを呼ぶと言う。お金にうるさいジョージとその若い妻のマグダリーン。シメオンに邪険に扱われていた母親を深く愛していたデヴィッドとその妻ヒルダ。そして放蕩息子のハリーまでもがやってくる。さらに、スペイン人と結婚した娘の忘れ形見で美しく成長したピラール・エストラバドス。南アフリカ時代の旧友の息子スティーヴン・ファー。しかし、久々に家族が顔を揃えたクリスマスは、兄弟の諍いや、シメオンの傲慢な態度に台無しにされてしまう。そして、惨劇が起こる・・・。


立派なお屋敷とそこに集う家族のドロドロの愛憎劇。クリスティのお得意の分野に今回はクリスマスが絡みます。ポアロに言わせれば「クリスマスは死体が良く似合う」そうです。何故なら、クリスマスは離れて暮らす家族が集う機会となります。一年に一度のこの良き日を大いなる「クリスマス精神」で過ごそうと、日頃の恨み辛みをとりあえず封印してみんな笑顔を作り大いなる努力を見せる偽善の日というわけ。しかし、この偽善は精神的、肉体的な苦痛を伴い、抑圧された分だけ反動が大きくなり・・・。うーむ、何とも人間の心のツボを見据えた言葉であります。

リー家当主のシメオンは大金持ちですが、偏屈、意地悪、残忍と悪口の大抵の言葉が当てはまるような嫌なお人。何故かそんな父親を敬愛しているらしいちょっと気の弱い長男のアルフレッドとその聡明な妻のリディア。さらに、アルフレッドの弟たち夫妻がこのクリスマスに集まる顔触れです。さらにそこに初めてやってきた孫娘と旧友の息子。執事とシメオンの看護係を務める従僕も加わります。そしてクリスマスの夜に愛すべきところのかけらもないシメオン老が殺されるわけです。その死体発見の時に、一人がつぶやく「あの年寄りが、あんなにたくさんの血を持っていたと、誰が考えただろう?」という「マクベス」からの引用句が意味深に話を引っ張ります。そう、これは良くも悪くも血のお話なのでした。

クリスティのお話では、尊敬を集める素晴らしき女性と軽薄な女性の区別が顕著ですが、今回一番素敵だったのはやはりアルフレッドの妻リディアでしょう。美しくはないけれど、上品でチャーミングで聡明そのもの。シメオン老でさえこのリディアがお気に入りです。さらにセンスが抜群で、普通の女性なら絶対に着こなせないような黒と白の花柄の大胆なタフタのドレスをサラッと着こなすのですね。彼女が立っている描写もとても素敵で、立ち姿がとても美しいご婦人なのだろうと推測されます。このリディアと性格的にはかなり共通点があるだろうと思われるデヴィッドの妻のヒルダも素晴らしい人ですが、センスはなくどちらかといえばちょっと平凡に描かれています。しかしなかなかどうして・・・。このリディアとヒルダの様子を読んでいると、しみじみ受け止める愛の大きさを感じさせるのでした。

鍵のかかった密室で殺されたシメオン。容疑がかかるのはその時家にいた者以外にはない。家族かはたまたそこで働いている者か?ポアロの灰色の脳細胞が冴え渡ります。


☆結末はちょっとウルトラC?これは予測がつかないかも・・・。

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