しずかに流れるみどりの川
UNE RIVIERE VERTE ET SILENCIEUSE

ユベール・マンガレリ
Hubert Mingarelli

白水社
おすすめ本
(C)2001〜 2006 Paonyan?.
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2006/4/9

小さな工場町でプリモは父と二人で暮らしていた。父親はかつてはこの工場で働いていたが、解雇されてから生活は厳しい。今は日銭稼ぎでその日をしのぐ毎日。お金が払えずついに電気も止められてしまった。しかし、父子は“つるばら”を栽培して一稼ぎするという夢があった。そのために、おびただしい数の瓶に“つるばら”を植えてせっせと世話する毎日だった・・・。


主人公の少年と父親の生活は貧しいものでした。何故か、工場の現場監督や技師が住んでいる洒落た家が集まっている通りに住んでいる彼らは(しかし、彼らの家は洒落ていません)、父親が定職に就けないために苦しい毎日です。遂にある日、電力会社から技師が派遣されてきて家の電気を止めてしまいます。「お金を払えるようになったらまた電気がつきますから」という言葉を残して。真っ暗になった家でろうそくで灯りをとる毎日。ここまで説明すると、生活苦に喘ぐ暗い物語かと思われますが、決してそんなことはありません。貧しかろうが何だろうが、プリモは父親が大好きで、英雄みたいに思っています。父親も、世間一般から言えばダメ親父でしょうが、彼なりに精一杯息子を愛しています。そして二人には“つるばら”の育成という大きな夢があるのです。これはいわば、今の生活から抜け出すためのパスポートみたいなもの。瓶いっぱいに“つるばら”が育ったら、それがお金に替わり、電気も再び通るようになり、プリモはデパートで好きなものがいっぱい買えるのです。プリモが抱く夢が何ともいじらしいです。

しかしながら、父親は経済観念というものがない人で、コーヒー缶貯金を持ってレストランに行った時のハラハラドキドキは、ちょっとしたサスペンス並でした。

ユベール・マンガレリの小説を読んで思うのは、透明感に溢れているということです。表題の「みどりの川」にしても、水底に藻がひらひらと泳いでいて水が緑色になっているというのですから、透明感のある川とは言えないのに、何故かエメラルドグリーンの綺麗なみどりを思い浮かべてしまいます。多分、それは主人公のプリモの持つ透明感と共通するものを感じるからでしょう。水の緑、ばらの色、バニラクリーム、鮮やかな色彩を感じさせる小説でもあります。そして、何とも優しい話です。プリモの父親なんてお世辞にも、失業という不運は別にしても人間的に立派とも言えなさそうなのですが、息子が父親を見る目はあくまで澄んでいるし、苦笑しながらも読者も何故か許してしまう。でも、プリモの目に時々、陰が走る時、こちらもまた悲しみを感じるのです。

大きな事件が起こるわけでもないし、悲劇でも喜劇でもない、言ってみればどうということのない日常の一コマ、一コマなのですが、何とも言えない余韻の残る小説だと思います。


☆美味しそうなデザートなのに、読んでいるだけでお腹がいっぱいになりそう。



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