ミス・メルヴィルの後悔
Miss Melville Regrets

イーヴリン・E・スミス
Evelyn E. Smith

早川文庫
おすすめ本
(C)2001〜 2005 Paonyan?.
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2005/9/25

ニューヨークの名家のお嬢様として育ったミス・スーザン・メルヴィルは、従姉の学校での美術教師の職を失って困り果てていた。メルヴィル家のかつての威光は今いずこ。ごくわずかな信託が残っているだけで、ミス・メルヴィルは生活に困っていたのだ。働くにも仕事はない。資格もない。ひょんなことから、パーティもぐりを覚え、豪華なパーティで食事をしては生活している始末。おまけに住んでいるアパートメントが居住者買い取り制度に変更になり、お金のないミス・メルヴィルはついに自殺を決意する。しかし、その時救世主が現れミス・メルヴィルは仕事を提示される。その仕事は何と殺し屋・・・。


メルヴィル家は由緒正しきお家柄です。美術館に「メルヴィルの間」まであるように、文化事業にも貢献してきて、ニューヨーク社交界を引っ張る家の一つでした。しかし、今メルヴィル家の血筋を引くのは従姉を除けば、ミス・メルヴィルただ一人。父親が財産を持って出奔してしまってから、メルヴィル家の財政は傾き始め、若い頃画家として出発したミス・メルヴィルもその後泣かず飛ばずで、従姉の縁を頼って私立学校で美術を教える生活をしていました。しかし、その学校も畳むことになり、唯一の収入源を失ったミス・メルヴィルは窮地に立たされます。画家としてはとても生活出来ない。美術教師を続けたくても資格のない彼女は教えられない。上流社会のツテを頼って、恥を捨て仕事の紹介を頼みますが、遊んで暮らしているマダムたちはミス・メルヴィルの窮地を全く理解出来ません。逼迫した財政と向き合いながら四苦八苦するミス・メルヴィルが、ごく偶然のことから見出した新しい趣味(?)がパーティもぐりでした。ニューヨークではあちらのホテル、こちらの美術館、こちらのクラブと、毎日毎日、パーティが開かれます。そのパーティに、チケットを買わずに潜り込んで食事を頂こうということ。食費には苦労しているけれど、お嬢様育ちのミス・メルヴィルは品が良くて仕立ての良いハイクラスのドレスをいっぱい持っています。勿論装身具も持っています。マナーや立ち振る舞いはしっかり板についています。上流のパーティにいて当たり前のお人。潜り込んだって何の違和感もないわけです。ヘンリー・フォンダとジェームズ・スチュアートが売れない頃に、パーティに潜り込んで食事していたというエピソードを思い出してしまいました。

おまけに、このパーティもぐりというのはミス・メルヴィルの専売特許ではありません。あちらこちらのパーティに潜り込んでいるうちに、パーティ潜り仲間というのが出来ます。で、あのパーティは潜り込みやすいだの、秘密の侵入口だの、と情報交換するわけです。この潜り仲間というのが、必ずしも生活に困ってやっているばかりではないというのが興味深いです。普段は普通に仕事している人が、夜になると正装してパーティ潜りをするわけです。非日常が面白いのか、スリルが楽しいのか。

ミス・メルヴィルには、絵の他にもう一つ才能があります。子供の頃から、父親に仕込まれた銃の腕です。その銃の腕を見込まれて何と彼女は殺し屋としてスカウトされてしまいます。仕事は、パーティに潜り込んで重要人物を暗殺すること!但し、それらの人物は社会的に害悪とされる人々という注釈つきではありますが。ミス・メルヴィルの銃の腕がものを言うことは勿論ですが、ミス・メルヴィルがパーティにいてごく当然の人物に見える、つまり言い換えれば誰も特に記憶に残さない人物であるというスカウト理由には、ミス・メルヴィルも喜んで良いのか、悲しんだ方が良いのか迷ったみたいです。おまけに、パーティもぐりのおかげで各会場の秘密の通路には長けているし、パーティ事情にも詳しいし・・・。かくして、殺し屋ミス・メルヴィルが誕生するのです。

上流のお嬢様が転じて殺し屋になるという奇抜なアイデアが卓越したユーモアミステリーです。殺し屋になっても、身についた上流意識は全然なくならなくて、殺し屋の報酬に対する税金はどう払うのか、と心配したりするのには爆笑。ミス・メルヴィルは勿論、殺し屋の連絡係アレックス・テイバーなどの登場人物も魅力に満ちています。ドレスやお食事、会場の雰囲気など、上流社会のムードに浸れるところも素敵です。まあ、殺すほどの悪い人か?と思う相手がいることも事実なのですが、そのあたりは深く考えないで、素直に楽しみたいストーリーです。


☆実はミス・メルヴィルは40代後半にさしかかろうかというお年頃。若い女性ではなく、この年代にヒロインを設定したところがこのお話の成功の秘訣でしょう。


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