キーパー

Keeper

マル・ピート

Mal Peet

評論社
おすすめ本
(C)2001〜 2006 Paonyan?.
   All rights reserved



2006/10/8

遂にワールドカップをつかみ取った最高のゴールキーパーと称されるエル・ガトーに、友人でもある南米随一のサッカー記者パウル・ファウスティノがインタビューする。ワールドカップに至るまでの栄光の歴史を聞かされるものと思っていたパウルが聞いたのは、思いもかけないエル・ガトーの生い立ちだった。南米のジャングルに近い最果ての地で育ったガトーは、伐採の仕事をする父親のもとで育つ。周りは皆サッカーに夢中。当時からひょろひょろと背が高かったガトーは、ラ・シグェーニャ(コウノトリ)と呼ばれ、サッカーが下手でいつも馬鹿にされていた。13歳で広場でサッカーをすることをやめたが、1人の時間をもてあました彼は1人で森に入るようになる。そこで出会ったのが、キーパーだったのだ。森の中にサッカーゴールが作ってある。そこで見たこともないユニフォームを着たゴールキーパーが、ガトーに「そこが君の場所だ」と言う。そして、キーパーはガトーにゴールキーパーとしての技術を仕込んでいくのだった。


読み終わった後、グッと来る小説です。南米の人里離れたジャングルに近い地で育った少年が、如何にワールドカップを手にするまでになったのかの、いわばサクセスストーリーですが、そこら辺のサクセスストーリーとはひと味もふた味も違います。まず、ジャングル(森)のミステリアスさと深遠さ。いつもそこにいるゴールキーパーは、ガトーの才能を見抜き、自分の持つ技術のひとつひとつを懇切丁寧に教えます。そのステップのひとつひとつが、とても興味深いのですね。そして、キーパーに必要なのは技術だけではない。相手の心を読む能力。そして、相手ストライカーを自分の意図する方向に導けるかどうかも、時として大事な要素となってくるのですね。孤独なポジションと言われるゴールキーパーが、試合の間中果たして何を考えているのか、これほど頭を使うポジションもそうはないのかもしれない、と読み進むにつれ、感心しきりとなってしまうのです。自分のゴールを守りきれる物は、他の何でも守ることが出来る、なんて人生哲学も出てきます。

サッカーの話だけではなく、主人公の家庭環境、親子関係もとても興味深いものです。主人公の育った地は、サッカーが盛んで、伐採のキャンプでも週の終わりは、お給料を貰ったら有志チームのサッカーの試合で幕を閉じるのです。そんな中で、息子を安全な職場に押し込んで後は無難に仕事を乗り切ってくれれば、と願う父と、末は博士になるために大学教育を、と望む母。ところが、息子がサッカーの才能を世に知らしめてしまったために思わぬ道が息子の前に開け、それを喜びよりは困惑で眺めてしまう両親。貧しさの中から、サッカーで一気にお金持ちへ、という世界ばかりがクローズアップされますが、必ずしも誰もがそれを願うわけではないのだ、と改めて気づかされます。サッカーなんて、結局は遊びだ、仕事として賭けるものではない。それより堅実さが一番、という親の気持ちもわからないではない。父親と息子のサイドストーリーは、時に厳しく、時に切なく、時に涙が止まらない、愛と悔恨に満ちあふれたものです。

サッカー選手なら誰もが夢に見るであろうワールドカップの重みをも、しみじみ感じさせる話でもあります。夢に向かって努力する素晴らしさと、叶わなかった夢(これが大半ですね)の切なさ。思いの大きさを人は、次に何に賭けるか・・・。自分の持てるもの全てを分け与えることによって、自分の夢を1人の若者に賭けたベテランゴールキーパーの、その存在の重みは、森の中にそびえる大木が持つ年輪よりも重みを持つと言ったら言い過ぎでしょうか。でも、読み終わった時にそんな風にさえ感じてしまう。サッカーが好きとか嫌いとか、そんなレベルは飛び越えた、心が洗われる清々しさを持った小説でした。


☆この南米の国はどこなのでしょう。何となく、ブラジルというよりアルゼンチンという気がしますが。

Ads by TOK2