ジェニーの肖像
Portrait of Jennie

ロバート・ネイサン

Robert Nathan

創元推理文庫
おすすめ本
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2005/12/4

1938年の冬のニューヨーク。売れない画家イーベン・アダムズは、公園で一人遊ぶジェニー・アップルトンという少女と知り合う。何気なく書いた彼女のスケッチがある画廊の主人の目にとまり、イーベンの画家生活が変わっていく。それからも度々ジェニーに出会うが、その度にジェニーは成長していく。その成長度は実際の時の流れよりずっと速いものだった・・・。


冬、ニューヨーク、人気のない公園。寒々しいイメージの中で、一人公園を散歩する貧乏青年画家イーベン。そこで出会ったのは、一人の少女でした。名はジェニー。付きそう人もなくたった一人で遊ぶジェニーとイーベンは何故か仲良くなり、それから二人の交流は始まります。ジェニーは、イーベンに言うのです。「あなたが、あたしが大きくなるまで待っててくれたらいいな」。この出会いがイーベンの生活に劇的変化を与えます。それまで食べるものにも事欠く生活を送っていたイーベンでしたが、画廊でジェニーのスケッチが気に入られ、もっと彼女の肖像を持ってくるように言われます。また、アルハンブラというカフェでは、毎日の食事と引き換えに壁画の製作を依頼されます。画廊に持っていく絵は、次々と気に入られ、少しずつですがイーベンの懐は温かくなっていきます。それからも時々、ジェニーとの逢瀬は続きます。ただ、不思議なことにジェニーはどんどん成長するのです。それは成長期の子供の成長の仕方ではなく、経過する時の流れよりずっと早い成長の仕方なのです。例えば、3ヶ月後に会った時は数歳年を取っているというような。

ジェニーが成長するに従って、二人の間に愛情に似たものが生まれます。そして、何よりジェニーはイーベンにとってのミューズそのもの。イーベンはどんどん美しいレディに成長していくジェニーを見守りながら、彼女との次の再会が待ち遠しくて仕方なくなるのです。そのうちに、ジェニーはヨーロッパに行くことになり、イーベンは、友人のいるケープコッドに滞在します。二人の運命は大きな転機点を迎えるのでした。

何とも不思議な味わいを持った物語です。一言で言えば、時を超えた愛の物語なのですが、それだけで治まる物語でもありません。冒頭の冬の公園のシーンからして、主人公のイーベンが絵筆で描いたかのように鮮やかに光景が想像出来るのです。それからイーベンが出会う光景の1シーン、1シーンが、一幅の絵のよう。とても美しい珠玉の小説です。作者のロバート・ネイサンは詩人として有名な人ですが、詩人としての研ぎ澄まされた言語感覚と色彩感覚が見事に交錯した作品だと思います。

この作品は映画でも有名になりました。ジョゼフ・コットンとジェニファー・ジョーンズによる愛のハーモニー。冒頭、とても子供には見えないジェニファーに苦笑したことも今は昔の思い出です。『金髪のジェニー』といい、この『ジェニーの肖像』といい、ジェニーという名前には、どこか‘遠くにありて思うもの’という印象を持ってしまうのでした。


☆同時収録の『それゆえに愛は戻る』も、愛の消失と再生を描いた心に残る物語でした。


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