ゴールデン・サマー

The Golden Summer

ダニエル・ネイサン
Daniel Nathan

東京創元社
おすすめ本
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2004/10/30

時は1915年、場所はアメリカ東部の小さな町エルマイラ。マーク・トウェインも住んでいたという町。10歳のダニーは、小柄で華奢で小さな顔に大きな鼻、大きな眼鏡とおよそタフとはほど遠い少年。いつも親友のチャドやサートリアスと遊び回るダニーの頭の中はしかしながらアイデアの宝庫だった!


アメリカの小さな町で過ごした少年時代を振り返る、と言えばアメリカ小説の一つのパターンであります。その古き佳き風習にのっとった小説であります。主人公のダニーは見かけはさえないけれど頭の良いアイデアの固まりのような少年。彼は次から次へと突飛なことを考え出し、親友のチャドとサートリアスは振り回されながらもそれに楽しく付き合う日々。面白いのはダニーが考え出す事って、とにかくお金がいかにしたら儲かるか、ってことばかりだってことです。10歳にしてこのマネー感覚。先が恐ろしい実業家ぶりに目が回りそうです。おまけに、その稼ぎ方ときたら清く正しいとはとても言えない方法も多くて・・・。少年時代を振り返るノスタルジー小説ながら、主人公たちはやや破天荒タイプの痛快作と言えるでしょう。そう、かつて同じ町に住んでいたマーク・トウェインが生み出したトム・ソーヤやハックルベリー・フィンのように。

セメント袋の山から思いつくのは大がかりな出し物。いきなり恐怖の家を創造してしまうそのバイタリティよ!シャーロック・ホームズの新刊「恐怖の谷」が出版されればそれを読むために運の限りを尽くし、しかし転んでもただでは起きず。ガキ大将には全く叶わないながらも頭では負けず。時には裁判官を務め名判決を出し、従兄が遊びにこればとんち合戦で一歩も引かず、極めつけは町のパン屋さんが行うアメリカの州を全部埋めようコンテスト。10歳の頭に良くもこんなに次から次へと奇抜なアイデアが詰まっているな、と驚くやら呆れるやら。でも、アメリカが健全だった1910年代、彼らは相当奇抜なことはしても(大人が知ったら怒るに違いありませんが)、決して人の道は踏み外さず友情には厚い素朴さを持ち合わせているのですね。だから、ホッとして読めるのです。

著者のダニエル・ネイサンと聞いても「誰?」と思われるかもしれませんが、実はとても有名な人。彼は後にフレデリック・ダネイと名を代え、従兄のマンフレッド・B・リーと共同で沢山のミステリーを書きました。そう、つまりエラリー・クイーンの片割れがこの人なのです。それを知って読むと、成る程ミステリーの味わいがあちらこちらに散りばめられています。暗号解読とか、真相から遠回りして読者をミスリードする方法とか。さらに町の通りのバーナビーズ・レーンはどうしたってドルリー・レーンを連想させるし、町の靴屋さんの名はエラリー・ハーマンさんだし。おまけに従兄のテルフォードというのは何とマンフレッド・リーのことです。クイーンファンだったら、話の細部まで楽しめる小説と言えるでしょう。

町にはみんなが集う店、小さな映画館にかかる「ポーリンの冒険」シリーズ、第1次大戦前の平和だったアメリカののどかな風景が心に沁みる痛快作です。


☆病気になったダニーが貰う本の一冊が「オズのかかし」。この頃、オズシリーズはかかしだったのですね。

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