永遠の出口

森 絵都

集英社
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2003/7/21

紀子は「永遠」という響きに滅法弱い子供だった。その紀子の性質を見抜いているのは3つ年上の姉だけ。貴重なランプ、貴重な切手、私は見たけれど紀ちゃんは永遠に見られないのね、という殺し文句を姉に言われると紀子は得も言われぬ焦燥感に駆られるのだった。そんな紀子の小学生時代、6人組のグループでたった一人浮いた存在好恵の誕生会にまつわる悲喜こもごものエピソード。クラスが変わると、魔女と噂される担任の女教師に押さえつけられ息を潜めて暮らした日々。小学生時代の最後に友人達と行った街のデパート。中学に入るとやがて行き先を見失って荒れる日々へ。そしてそれを抜けた高校時代。誰もが通った子供から青春への日々をノスタルジックに、でも色鮮やかに描いた小説。


主人公紀子の小学生時代はとてもリアルに描かれます。奇数人数はグループでは厳禁だったから、少々毛色が違う友人でも受け入れざるを得ない状況。みんなにとっての最大イベントのお誕生会。お誕生会をしたことがなかった好恵が今年はお誕生会をすると言ったことから起きた波紋。誕生日プレゼントは当然の如くサンリオグッズの数々。ああ、そうそうこんな日々があったなあ、と遠い目になって懐かしんでしまう展開であります。パティとジミーの新作とか、キキとララとか、ミニミニ色鉛筆とメモ帳のセット・・・私も持っていたなあ、とその姿形まではっきり思い出すことが出来てしまうのです。好恵と母親の関係はどうなっているのか、とか、色々疑問はあるけれど、子供の目から見ているからそういった込み入った事情がわからないところも納得するしかないですね。

小学校高学年では、成績向上には熱心だけれどえこひいきの激しい女教師に圧倒されてすっかり生気を失った生徒たちは、女教師を「黒魔女」と言って恐れるようになります。黒魔女のお気に入りでいる間は安泰。でも何かの拍子にお気に入りの座から滑り落ちるとそこには壮絶な女教師のいじめが待っているのです。標的にされたのは以前仲良しだった春子。黒魔女のお気に入りの座に上り詰めることによって紀子から離れていった春子だけれど、放っておけない紀子は焦ります。そんな彼女が考えた手段とは?

小学校を卒業して中学に入学する前に、紀子は仲良したちと街のデパートへ繰り出します。そこで今まで語り合ったことのない好きな人談義。三角関係がわかって気まずくなったとしても、目の前に広がった自分たちの街にはない洒落た大きなサンリオショップを目にした途端、全て忘れて品物の物色に目の色を変えるのです。ちょっと大人の真似をしてみたいけれど、やっぱり子供。でも、楽しい一日の別れ際に自分とは違う私立の中学へ行く友人に「手紙書く、電話もする」と互いに約束しながらも「私立の中学なんて月より遠いに決まっている」と思う切なさ。わかるんですね、この気持ち。この辺りまでは、本当に自分の子供時代とかぶさって切ない思い出に浸れます。

その後、中学、高校時代と時は過ぎます。家族に鬱陶しさを感じる年頃特有の反発。荒れる日々。初めてのアルバイト。初めての恋。どんなに突っ張ってみたところで、心の中は純粋に人を信じてしまう最後の年頃の正義感が満ちあふれています。途中で家族の再生も語られて、自分がジタバタしている間に家族のそれぞれも様々な問題を抱えていたのだということに初めて気づいた紀子は、家族に素直に親近感を抱くことが出来るようになっていったのでした。

紀子の過ごした日々の全てに共感出来るわけではないけれど、その多くの気持ちが理解出来て甘酸っぱい思いになってしまう小説なのです。


☆たのきんブームのその頃、としちゃん派とかマッチ派とかよっちゃん派に分かれている中で、たった一人新沼謙治派がいるというところがいとおかし。

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