この湖にボート禁止
No Boats on Bannermere

ジェフリー・トリーズ
Geoffrey Trease

福音館文庫
今週のおすすめ本
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2007/2/11

グラマースクールに通うビルは、母と妹のスーザンの3人暮らし。ある日、母の従姉が亡くなって、カンバーランド州にある山荘<せせらぎ荘>が遺産として残された。ただ、それを相続するためには、連続して5年間そこに住むことが条件となる。窮屈な借家暮らしに別れを告げ、一家は<せせらぎ荘>に向かう。土地の人たちは親切で、楽しい暮らしが待っているかに思えたが、ビルとスーザンがボートで湖の小さな島に漕ぎ出したことが問題となり、土地の持ち主アルフレッド卿から「この湖はボート禁止だ」と言われてしまう。それだけではなく、アルフレッド卿は森など自分の領地に入ることにとかく口うるさい。アルフレッド卿の電話を混線から偶然に聞いてしまったことから、何か重要な秘密を卿が隠していると思ったビルは、親友のティムや妹のスーザンとスーザンの親友ペニーの4人で、謎を探ろうとする。


かつて、福武文庫から出ていた書が、待望の復刊となりました。ビルは、グラマースクールに通うごく普通の生徒です。作家志望という夢を持つだけあって、ちょっと創造力豊かなところがありますけれど。スーザンは、これまたごく普通の可愛い女子生徒。魔法の力を持つでもなく、異次元に飛び込むでもなく、創造上の生き物に出会うわけでもない。ここ数年のファンタジーブームで、寧ろそうした異次元の物が当たり前になってきた中で、こうしたごく普通の生徒たちの話を読むのは久々のような気がします。そして、日常性の中に潜む‘ちょっとしたこと’に十分過ぎるくらいワクワクするのです。遺産で譲り受けた田舎の山荘という設定はこうした物語の王道ですが、謎はその山荘にあるのではなく、周りの風景の中にあるというところが良いですね。少なくとも家の中にいれば、平和なわけです。子どもたちの礼儀正しいところや、ちょっとだけいけないところや、でも大体に於いて正義感に満ちていて安心出来るところなど、私のようなオールド児童文学を愛してきた者にとっては思いっきり琴線に触れるのです。

ビルとティムはグラマースクールの生徒。スーザンとその親友のペニーは、州立女子学校の生徒で、共に自宅から通うごく普通の生徒であるところも良いです。作品中にも出てきますが、世の中寄宿生ばかりではないのだし、寄宿学校だって毎日のように事件が起きて「秘密のトンネルを掘ったり」「国際的詐欺事件の犯人を捕まえたり」しているわけではないのですよね(笑)。ここは効いたなあ。言い換えてみれば、これはイギリス児童文学の主流だったパブリックスクールに通うアッパークラスから一歩離れた物語ということで、ビルたちは離婚家庭の子供たちでもありますし、1940年代としてはとても先進的な物語だったのではないだろうか、と文学史的価値にまで思いを至らせるわけです。

まあ、そうした些末なことは抜きにして、この物語素直に楽しめます。優しく理解深い母親、如何にも胡散臭そうなアルフレッド卿、頑固の塊のようなビルたちの学校のキングズフォード校長。キングスフォード校長とは180度違う、いわゆる‘進んだ’先生であるフローリー先生はスーザンたちの学校の校長先生です。伝統に固執する男性と、時代をリードする女性というこの組み合わせも面白さを加えています。探偵、いや警官志望のティムと、作家志望のビルの想像力が融合すればもう天下無敵ですし(笑)、勇敢で、でも女の子らしさを持ち合わせたスーザンとペニーも本当に可愛い。

湖に浮かぶ謎の島。空き地でのキャンプ。ボート漕ぎ。散りばめられているエッセンスが、どうしてもアーサー・ランサムを彷彿とさせてしまいます。活躍する子どもたちも4人ですしね。ただ、これは一夏の物語ではなく、その地に根ざして成長していく子どもたちの物語。ですから、ここは彼らの生活圏であり、大人たちとの関係も一年365日生活する上で大変貴重であることも見逃せないのです。逆に、そんな状況でアルフレッド卿みたいな人に疎まれて、あれこれ禁止される悔しさも格別というわけです。アルフレッド卿の謎を通して、知らない間に地域にとけ込み、友人を作っていくビルやスーザンの姿にたくましさを感じつつ、彼らの勇気と好奇心に素直に拍手を送りたくなる物語です。アルフレッド卿以外は、ね。

☆喫茶店って、何の許可もなく家の庭で開業出来るものなんだろうか?


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