幽霊船から来た少年
Castaways of the Flying Dutchman

ブライアン・ジェイクス
Brian Jacques

早川書房
おすすめ本
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2003/2/10

1620年、コペンハーゲン。南米を目指す船フライング・ダッチマン号に一人の少年が海から救いあげられる。少年はネブと名付けられ、キッチンの下働きとしてこき使われる。迷い込んできた黒いラブラドール犬のデンとのみ心を通い合わすネブ。その時、フライング・ダッチマン号では叛乱の計画が進んでいた。更に襲い来る嵐。船長のヴァンダーデッケンは神を呪う。そして・・・。


「さまよえるオランダ人」として有名な伝説の幽霊船、フライング・ダッチマン号に材を取った冒険小説です。主人公は、この船に拾われた口のきけない美少年。ネブと呼ばれるようになった彼は、海の荒くれ男たちに脅えながら、迷いこんできた一匹の犬デンにのみ心を許して毎日を過ごします。過酷な船の日常。船長のヴァンダーデッケンは頑強で優秀な海の男でしたが、財宝への密かな欲望を抱いていたのです。そしてそれを聞きつけた乗組員たちが仕組んだ船の乗っ取り計画。ネブは欲で欲を洗う男たちの争いへ、嫌が応もなく巻き込まれていくのです。しかし、やがて彼らを待っていたものはどんな人間とてかなうものなき神の怒りでした。陸地を目指すフライング・ダッチマン号を襲う嵐。ネブの運命は荒波に舞う木の葉の如きものでした。

海の男たちの話には、どうしても惹き付けられてしまいます。果てしない海を行くロマン、まだ見ぬ大陸に寄せる思い、命を賭けた男たちの共同作業など、魅力は多々あるのですが、この話に出てくる船乗りたちにはずばり言ってそういう魅力はほとんどありません。皆、多かれ少なかれ欲と権力の虜。乗組員たちに妙な連帯意識を抱かせないために、ヨーロッパ各国から選んだと船長が自ら言うほど徹底しています。そんな男たちがもし連帯することがあったとしたら?・・・それは、誰もがそそられるお金の魅力のみでしょう。欲望に負けた人間たちが行き着くところは神の怒りです。彼らは、結果としてさまよえる魂となってしまったということでしょう。この小説の主人公、ネブもそんなさまよえる一人になります。愛犬デンと共に時をさすらう身の上となるのです。彼に与えられた役割は、人の役に立つこと。教会の鐘が鳴るまで、ひとところに留まり、そこの人たちの役に立つこと。その運命を受け入れたネブとデンの果てしない旅路が始まるのです。

全体としては、一部の出来事にしか過ぎない扱いになっていますが、老羊飼いのルイスと共に過ごした日々は心温まる安らかな出来事で、個人的にはとても好きです。そして、その次はずっと時代が後になります。1900年の声を聞こうかという頃のイギリスの田舎町。町の乗っ取り問題に揺れる渦中に姿を現したネブは、名前をベンに変え、デンは名前をネッドに変え(どうしてこの名前になったかは文中のお楽しみ)、孤独な老婦人の元に寄宿することになるのです。本の大半は、この町での出来事に当てられています。いかにして乗っ取りから町を救うか?町は実は老婦人の一家が譲り受けたものなのだということを証明するために、ベンと少数の有志たちの時間に追われた戦いが始まるのです。このパートはこれだけで十分一つの物語として成立しそうです。いかにも荒くれた海の風景が描かれる前半と、一見のどかそのもののこの田舎町のコントラストがなかなか楽しいです。それでいて、この田舎町でベンが友好的に受け入れられる要因の一つが彼の海での経験というあたり、やはり海洋立国イギリスの話らしいです。

前半、中程、後半と一冊の本の中で3種の物語が楽しめる構成になっています。私としては、前半の海洋冒険小説のテイストをもっと楽しみたかった気がします。実は続編では、ベンが経験した船での冒険が描かれているそうなので、そちらも楽しみです。


☆ベンが留まることになるウィン夫人の飼っている猫の名前がホレーショ!何故かというと、ウィン夫人の亡くなった夫は船長さんだったからだそう。

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