リヴァプールの空
Wish Me Luck

ジェイムズ・ヘネガン
James Heneghan

求龍堂
おすすめ本
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2003/2/16

第2次大戦中のイギリス、リヴァプールの下町で暮らすアイルランド移民のジェイミー・モナガンは13歳。仲間たちと連んで毎日を楽しく過ごしていた。しかし、リヴァプールにも徐々にドイツ軍の空襲が起こるようになる。友人たちは一人、また一人と疎開していく。そして、ジェイミーもついにカナダへ船で疎開することになった。隣に越してきた少年トム・ブリーカーとその妹エルシーも一緒だった。しかし、喧嘩っぱやいブリーカーとジェイミーはそりが合わないし、ジェイミーはこの疎開を渋る。それでも出航の日は来た。大型客船ベナレス号に乗って、カナダへの遙かな旅を始めたジェイミーたちを待つものは?


戦争中のリヴァプール。空襲警報が鳴ると防空壕に隠れる日々ですが、ジェイミーたちいたずら盛りの少年たちはそれさえも一種のアドベンチャーとして楽しむ年頃でした。しかし、学校の友人一家が全員爆撃で死亡したことを知るあたりから、ジェイミーも戦争を現実として受け止め始めるようになります。空襲にさらされながらも、心のどこかで大丈夫だと信じていた大人たちもにわかに慌て始め、子供たちを疎開させ始めます。ジェイミーの親が考え出したのが、船に乗ってのカナダへの疎開。突然カナダとはびっくりしますが、これは政府が考え出した疎開措置だったのです。強引に頼まれた隣の家の兄妹と共にジェイミーは、親や友人のいる住み慣れた町からいきなり大海へと放り出されるのです。仲の良い友達がいればまだしも、一緒なのは喧嘩ばかりしていて全く気の合わないブリーカー。ジェイミーは不満ばかりの船旅を予感します。
ところが、予想に反して船旅は快適なものでした。ベナレス号は豪華な船で、熱いお湯が出るシャワーもあります。生まれて初めてシャワーを使ったジェイミーはすっかり気に入ってしまって、毎日シャワーを浴びて喜んでしまいます。それに、食事の豪華なこと!リヴァプールでは乏しい食料を手に入れるために、行列する日々だったのが、船上ではコース料理が出てデザートもフルーツも豊富にあるのです!これで喜ばない筈がない。ただ、出港してからの船酔いが予想外の出来事ではありましたが・・・。

同じ船室で寝起きするうちに、学校では極力避けていたブリーカーとジェイミーはほんの少しずつではありますが、うち解けていくようになります。それは、ジェイミー自身もそれとは気づかない程度ではありましたが、同じアイルランドの血を引く同胞意識も確かに働いていたようです。船が出港したのは13日の金曜日。それを気に病むブリーカーは、自分も13日の金曜日生まれだから、と告白します。その運命に操られるかのようにブリーカーの人生は必ずしも幸福なものではなかったようです。そして、ブリーカーの予想通りの悲劇が少年たちを待ち受けていたのでした。

シティ・オブ・ベナレス号の事件は実話だそうです。政府機関が費用を負担して児童たちをカナダに疎開されるという計画でした。他に自費で乗った児童もいたそうです。前半は作者の自伝とも言える少年時代のスケッチ。後半は、ベナレス号の歴史的事実を踏まえたフィクションで構成された小説です。前半部分では必ずしも戦争はあまり悲壮感を持っているとは言えません。人々もどこか楽観的でした。でも、実際に被害に遭ってみて始めて急に人々はバタバタと行動し始めます。これは笑えない人間の習性みたいなものですね。そして、後半の悲劇。日本でも空襲や疎開児童の話を沢山見聞しているだけに、決してよその国の出来事とは思えない重さを感じました。


☆チキンにマッシュルーム、桃にアイスクリーム。色とりどりのフルーツ。船に乗って初めて食べたこの夕食は、「我が生涯最良のディナー」と形容されるほど素晴らしいものでした。飢えまではいかなくても戦時下の粗末な食事に慣れきってしまった子供たちが目にした別世界。せめて、こういった食事を口にすることが出来たことがたった一つの小さな幸せだったと思いたいです。

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