パイド・パイパー
Pied Piper

ネビル・シュート
Nevil Shute

創元推理文庫
おすすめ本
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2003/3/2

1940年夏、退職した老弁護士ハワードは、傷心を癒すためにフランスのジュラ山中に釣り旅行に出かける。しかし、戦局が悪化。ドイツ軍のフランス侵攻の噂がたち始める。ジュラのホテルで知り合ったジュネーブの国際連盟に勤めるキャヴァナー夫妻から、イギリスに帰るなら自分たちの二人の子供も一緒に連れて行ってくれ、と頼まれてハワードは、ロニーとシーラを連れてイギリスに向かう。しかし、途中でシーラが病気になり、しばしの逗留を敢えなくされる。そこで親切にしてくれたメイドに、今度は彼女の姪のローズをイギリスで働いている父親の元に連れて行って欲しいと頼まれ、ハワードの一行は増える。さらに、途中でバスが止まってしまいそこで空襲に遭って命からがら脱出したものの、空襲で両親を失った小さな男の子ピエールも連れて行くことにする。そして、立ち寄った村で村人からドイツ語を話すことから憎まれていた男の子も引き取り・・・。次々と子供ばかりが増えるハワードの一行。ドイツ軍はフランスにとうとう侵攻を開始して、遂にはドイツ軍と行きあうようになる。自分一人の手に余ることに気付いたハワードは、知り合いのフランス陸軍大佐の家を訪れ、その娘ニコルの助力を得ることになる。ドーバーはまだまだ遠かった・・・。


傑作SFとして名高い「渚にて」の著者ネビル・シュートの戦時中の老人と子供と若い娘の冒険アドベンチャーです。10年ぐらい前に、「はるかなるドーバー」というタイトルだったと思うのですが、ピーター・オトゥール主演でこのドラマがNHKで放映されたのでご覧になった方もいるのではないでしょうか。

戦争の足跡が迫っている時だというのに、釣り竿抱えてフランスの山奥に釣りに出かけるハワードは呑気と言えば大変呑気な人です。でも、それには理由が・・・。ハワードは彼なりに色々な分野で役に立とうとするのですが、70をとうに過ぎた老人に戦争で担える役割はありませんでした。そこにハワードにとって辛いニュースが飛び込んで、彼は心機一転を図るために出かけたのです。
無用の老人扱いされていたところに、子供たちを連れてイギリスへ帰るという任務が与えられたハワードは、急に頑張り始めます。元々責任感が強い人ですし、忍耐心もある人。それでも、小さな子供を連れての道中は困難ばかり。おまけに寄るところ、寄るところで、子供を引き取る事になり、2人が3人に、3人が4人に、4人が5人に、5人が6人に・・・とばかり、ハワードの肩にかかる責任は増大するばかりです。

たまたま近くの街にいる知り合いのフランス人大佐のことを思い出して、助力を得るために訪問しますが、大佐は戦闘で行方不明。代わりに大佐の美しいけれど、勇気あふれる娘のニコラが途中まで同行することを約束します。こうして、老人と若い娘と、国籍も様々な沢山の子供たちの珍道中はクライマックスに達するのです。

パイド・パイパーは「ハメルンの笛吹」から取った言葉です。ハワードは、木の切れ端から小さな笛を作る名人で、泣いていた子供もこの笛を与えられれば元気が出ます。でも、笛を取り出すまでもなくハワードの後にはゾロゾロと子供たちの集団がついてくる運命なんですけれどね(笑)。

ハワードという人は、イギリス人なんだけれど、フランス語も結構堪能でフランスの地が好きで、あまりイギリス人らしくないイギリス人だな、と感じました。それが故に国籍も様々な子供たちを連れていくことに違和感を感じないのでしょう。

ニコルは、実はハワードの戦死した息子のフィアンセでした。ハワード自身がそれを知らなかったのです。フィアンセの死から立ち直れない彼女の前に突然何も知らずに現れた彼の父親と彼が引き連れた沢山の子供たち。ハワードを助けて無事一行をイギリスに送り届けることに手を貸そうという決意が、ほとんど心が死んでいたニコルを再び現実世界に引き戻し、闘う気力を湧かせます。ニコルは、綺麗なだけでなく勇気あふれていて、祖国を愛していて、でも愛する人の国も愛せる素敵な女性でした。

様々な国籍、様々なバックボーンを背負った子供たち。最初に預けられたロニーとシーラは、わがままいっぱいというところで、途中で加わるローズは小さなママさんの風格。空襲で孤児になったピエールには涙を禁じ得ず、ドイツ語を話すオランダ人ということで住民から迫害を受けていたヴィレムには、対立の深さによる傷を感じ、親を殺されたポーランド系ユダヤ人の少年マリヤンの「ライフルで狙い撃ち出来るように練習して、それからナイフ投げの練習もしてドイツ人を殺してやる」の言葉には言葉を失うしかありませんでした。

一般庶民に与える戦争の果てしない苦悩を弱い者の立場から描いた小説です。それでいて、どこかユーモアがあって、暗くならないところがとても良いです。


☆そもそも最初に子供を預けたキャヴァナー夫妻が元凶ですね。自分たちで子供を送り届けるのが当たり前でしょうに。ついでに言えば、大人のいうことをしっかり聞くようにしつけしておかなかったら、大変なことになったんでしょう・・・って、今更言っても仕方ないけれど。

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