ケルトとローマの息子
Outcast

ローズマリー・サトクリフ
Rosemary Sutcliff

ほるぷ出版
おすすめ本
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2002/11/24

嵐の海を生き延び、ケルト族の親に育てられた少年ベリックは実はローマ人の血を引く子供だった。家族にも友人にも恵まれ、戦士としての気高い心と才能を持つベリックは、良きケルトの戦士となるつもりだった。しかし、不作と疫病が襲った時部族の人々はそれらの災厄をベリックの血筋のせいにして彼を追放してしまう。ベリックは自分が育った血を離れ、まだ見ぬローマへ、自分と同じ部族たちのいる地へと旅をすることになる。しかし、栄華と繁栄を誇るローマの地にたどりついたベリックを次から次へと過酷な運命が待ち受けるのだった・・・。


ローマ帝国が繁栄を極めた頃。一方の海を挟んだケルトの地では静かに衰退が始まろうとしていた頃。ローマの血を引きながらケルトの民として育ったベリックは、ある日突然仲間と思っていた人々から異端者扱いされて追放の憂き目に遭ってしまいます。自分を慈しみ育ててくれた親とも離れて、ベリックは自分と同じローマの人々のいる地を目指すしかなくなります。しかし、同じ血を引く人々が暮らすローマでベリックを待ち受けていた運命はやはり過酷なものだったのです。ケルトでもローマでも、ベリックは受け入れてもらえませんでした。この話は、自分は何なのかを問いかけ続ける若者の自分探しの話とも言えるでしょう。ただし、ベリックの場合あまりに過酷な現実を伴う命を賭けた自分探しの連続でもありました。

400ページ以上ある長い話なのですが、読み始めたらページを繰る手が止まりませんでした。巨大な歴史の渦の中に巻き込まれる一人の若者の姿を通して圧倒的な筆致で民族の歴史、大陸の歴史をも語りかけてくれる話です。最初は牧歌的でさえあるケルトの平和な風景。しかし、ローマの征服を何とか逃れている民は結局は閉鎖的で、違う血を引くというだけの理由でベリックは受け入れてもらえません。「血」とはそんなに大切なものなのでしょうか。ベリックの血はなるほどローマのものかもしれませんが、ケルトの民として育った彼はケルトの戦士としてその時が来たらローマとだって戦うでしょう。彼にとって大切なものは、自分が共に暮らした家族であり、共に大きくなった友人だったのですから。でも、「血」の違いはベリックを部族から追い立ててしまいます。

仕方なしに同じ血を求めて渡ったローマで、これまたベリックはまともな人間としての扱いさえしてもらえません。華やかなローマ文化の底流で暮らすどん底の暮らしを嫌というほど味わい、生き延びるために人間らしい感情さえも麻痺させていったベリックが最後に辿りついたところは・・・。

ベリックは心のまっすぐな若者です。そのまっすぐさが、かえって彼を逆境に立たせることになってしまうのですが、結局彼はその特質と人間としての尊厳を失いません。最悪の環境にあった時はさすがに彼の人間性もかなり動物レベルにまで堕ちますが、それでも隣の友人への熱烈な友情を持ち続けずにはいられない純粋さを失えないベリックです。ケルトでもローマでも、人々はベリックに優しくはありません。でも、そんな中にもごく一握りの人間らしい気持ちを持った人たちとの出会いがこの話の救いでもあります。ケルトの仲間で、血の大切さよりもベリックの人間性に価値を見いだしてくれたリアダやカスラン。ローマのお屋敷のお嬢様のルキルラ。馬屋の奴隷のヒッピアス。ベリックが最も地獄を見た時に共に過ごした友人のイアソン。そして、ローマの誇り高き軍人ユスティニウス。彼らとの出会いがあったからベリックはそれでも生き続けることが出来たのだと痛感します。

二つの民族に引き裂かれたベリックの過ごした日々は、そのまま世界の歴史を見ているようです。そして、また思うのです。これだけ遙か昔から人々が大陸を行き来して混血も進んでいるのに、21世紀を迎えた今も尚対立する民族の違いって何なのだろう?って。余程辺境の完全に隔離された地で、数千年を過ごした民でもなければ純粋な血を守ることなんて、不可能なのでは?ベリックの舐めた辛酸は今の時代も続いていると言わざるを得ないのが悲しいですね。

本当に素晴らしい物語でした。感動しました。ローズマリー・サトクリフの力強いストーリーテリングにひたすら脱帽です。


☆「ベン・ハー」を思い出してしまった船の中の日々・・・。

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