盗まれた記憶の博物館
DAS MUSEUM DER GESTOHLENEN ERINNERUNGEN

ラルフ・イーザウ
Ralf Isau

あすなろ書房
おすすめ本
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2003/2/2

ベルリンで暮らす14歳の双子ジェシカとオリバーは全く性格が違った。精力的でコンピューターに凄く強い姉のジェシカ。それに対してちょっと気が弱く絵を描くことが好きな芸術家タイプのオリバー。そんな2人の元にある日警察がやってくる。博物館で夜警をしていたトーマス・ポロックという男性に窃盗の容疑がかかっているというのだ。しかし、2人はそのポロック氏のことを知らない。業を煮やした警察は、君たちは自分たちの父親のことを忘れたのか?と詰問する。どうやら、トーマス・ポロックは2人の父親だったらしいのだ。しかし、2人は父の記憶をすっかりなくしてしまっていることを知って愕然とする。2人は父の勤めていた博物館に、情報収集に行く。窃盗犯の汚名を帯びて行方不明になってしまった父の手がかりを探すために。そこで出逢ったどこか不気味な館長。親切な女性博物館員ミリアムのおかげで、博物館に展示してあるイシュタル門が鍵を握ることを知った2人は、夜の博物館に忍び込み、オリバーが決死の覚悟で門をくぐる。残されたジェシカは、翌日から弟オリバーの記憶をなくしてしまったのだった・・・。


古代の展示物を沢山集めている博物館で起きた怪。父を奪われたジェシカとオリバーは、その謎を解くために行動を起こします。オリバーは自ら謎の門をくぐり未知の世界に入り込みますが、残されたジェシカの方は父ばかりか弟がいた記憶すらなくしてしまうのです。何故ならオリバーが入り込んだ国クワシニアはクセハーノが牛耳る国なのですが、ここでは人々の記憶から消えてしまった物が生きているからなのです。つまりは、もう一つの正常な国に暮らす人々からどんどん記憶を奪っていく・・・。クワシニアでは、古代文明から生き残ってきた記憶がそのまま生きています。ソクラテスの弟子であったというエレウキデス。シエラザードが愛したというガラス細工の小鳥ニッピー。ナポレオンの外套だったコフェル。空駆けるペガサスなど・・・。彼らはオリバーに味方をして、クセハーノを打倒するための旅に出るのです。

一方で、ジェシカは博物館員のミリアムと仲良くなって、彼女と協力しながらこちらは文明の最先端を行くパソコンとインターネットを使って情報を収集します。古代文明が生きるクワシニアと、あくまでも現代の中の現代であるベルリンの対比が面白いです。

三々五々集まってきたオリバーの仲間たちが、皆それぞれ個性的で、またお互いの得意分野で能力を思う存分発揮するところが大変面白いです。哲学者のエレウキデスは頭を使い、コフェルは軍人らしく作戦能力に長けている。絵筆のツップフは、書くことで貢献する。そしてペガサスは追っ手をまくために、力の限り駆けめぐります。偶然出会った集団であっても、一つの目標に結ばれた旅の仲間の団結の強さにはやはり感動を覚えます。

クセハーノの人々から記憶を奪おうという計画は着々と成功していきます。それによって、すっかり世の中は変わってきます。「アンネの日記」を学校で副読本として読むのはやめようという動きに始まって、ユダヤ人迫害の歴史の証拠がどんどん消されていきます。それだけでなく、人々の記憶からもそういった過去があったことが消されていく・・・。何と恐ろしいことでしょう!
人々は過去に生きてはいけないけれど、過去を忘れてしまったらどんなことになるかの恐ろしさをしみじみ物語っているあたりは、並のファンタジー小説ではありません。

古代文明の登場人物の名前がややこしくて、一度読んだだけでは頭がごちゃごちゃになってしまうのですが、古代から現代を駆け抜けるスケールの大きさは一読の価値ありでしょう。


☆ジェシカとオリバー、ジェシカは人を受け入れるということで成長を示し、オリバーは勇気を持って行動するということで成長を示し、果てはお父さんまで一皮脱皮するみんなが成長する物語とも言えましょう。

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