アンの愛情
Anne of the Island

ルーシー・モード・モンゴメリ
Lucy Maud Montgomery

新潮社、講談社、集英社他
おすすめ本
(C) 2002 Paonyan?. All rights reserved



2002/10/27

レドモンド大学進学が決まったアンは一緒に進学するギルバートたちと共にアボンリーを後にして、新しい地へと踏み出します。レドモンドのあるキングスポートは、アボンリーとは全く違った都会。アンはクイーン時代の親友プリシラと共に下宿に落ち着き、大学生活をスタートさせます。やがて、学校にも慣れてきて充実した毎日を送るようになります。クイーン時代のもう1人の親友ステラ・メイナードもレドモンドに来ることになり、彼女たちとレドモンドで知り合ったプリシラ・ゴードンは「パティの家」という可愛い家を借りてそこで「レドモンドの我が家」とも呼ぶべき青春の輝かしき日々を送ることになるのです・・・。


「アンシリーズ」の中で一番好きな話でした。中学生だった私には、レドモンドという大学で過ごす日々、そして何と言っても「パティの家」での生活が大きな憧れだったのです。クイーン学院での日々は別にして、ほとんどアボンリーだけでの生活を送ってきたアンが(アボンリーに来る前も別にして)懐かしき故郷を離れ、新しい生活を始める本当に大人への第一歩の記と言えるでしょう。そして、離れてみてしみじみわかる故郷の素晴らしさをもこの本は教えてくれるのです。

レドモンドのあるキングスポートは全くアンには見知らぬ地ではありましたが、ギルバートやチャーリー・スローンなどの幼なじみの他に、プリシラという頼もしい援軍を経て意気揚々の生活の始まりでした。そこで知り合いになったフィリッパ・ゴードンは、お金持ちのお嬢様でとても美人でアンが今まで知り合うことのなかったタイプです。おしゃべりで、アレックとアランゾという崇拝者2人のどちらと結婚するかでいつも悩んでいる一見軽薄そうにさえ見えるタイプなのですが、その実結構鋭い目を持っていて可愛いところのある愛すべきキャラクターです。アンの同類タイプとはちょっと違うのですが、嫌いになれない人なんですね。始終聞かされるアレックとアランゾの話のおかげで、一度はこの2人のキャラクターに登場して欲しかったのですが、フィルは結局最後に大逆転を選んでしまうのです。

クイーン時代の親友のステラとプリシラは、第一巻から出てくる私の好きなキャラクターです。陽気なプリシラは話すこともどことなくアンと似通っている「アンの同類」タイプ。最初、アンとプリシラはミス・ハナとミス・エイダのクッションだらけ(!)の家に下宿します。階段にまでクッションというところが笑えます。ステラはもう少し大人しい感じかとも思いましたが、そうでもないみたい。原稿を書くのに一枚書くと放り出さなければならない(つまり書く作業には散らかすことを伴う)という性癖には笑いました。確かに原稿は散らばります。今のようにワープロなどのない時代としては特に。

アンを含めたこの4人娘と、ステラの伯母さんのジェムシーナ伯母さんの5人、そして猫たちで楽しい我が家となるのがこの本のもう一つの主人公とも言える「パティの家」なのです。豪邸の並ぶ界隈に建っている可愛い家をアンたちは散歩の最中に見つけます。

『スポフォード街が平らな道に消えて行く頂のところに、小さな白い木造の家がたっており、両側に群がり生えた松はその低い屋根の上をかばうように枝をさしのべていた。ー中略ー 十月にもかかわらず、庭は懐かしい昔風の浮き世離れのした花や灌木で、今なお美しく彩られていた』

こんなパティの家にアンはすっかり一目惚れし、ステラからの提案でみんなで一緒に暮らせる家を探すことになった時に、再びこのパティの家と出会うことになり、ミス・パティとの交渉で「この家を愛しているんです」とアンは叫んでしまうのです。こうして、このパティの家はキングスポートに於けるアンたちの「楽しい我が家」になるのです。アンとプリシラとステラ、フィルとジェムシーナ伯母さん、三匹の猫、そしてゴグとマゴグ(二匹の犬の置物です)。グリーンゲイブルズに帰省して、再びレドモンドに帰る時でもアンは「パティの家」という拠り所を得たおかげで淋しさを感じることはなくなります。心を許せる家の存在の大切さをしみじみ感じる話です。

さて、娘たちのいわばお目付役のジェムシーナ伯母さん、物事の良くわかったご婦人でありながら茶目っ気もたっぷりで、娘たちには素晴らしい年上の友人となってくれます。時には年上らしいお説教もしますが、彼女自身が決して若い頃の気持ちを忘れていないのです。例えば・・・

『絹とかレースとかいう言葉には魔法がこもっているではありませんか?聞いただけでもダンスへ飛んでいきたくなります。しかも黄色の絹は日光の服を思わせますね。ー中略ー 天国へ行っていの一番にすることは黄色の絹の服を買うことです』
こんな素敵なことを言ってくれる人なんですね。

一方のアボンリーでのアンの幼なじみたちには変化が訪れます。ダイアナの婚約、結婚、ジェーンの西部行きとやはり結婚。そして、誰よりもきれいだったルビー・ギリスには悲しい運命が待ち受けています。幼い頃から仲良しだった四人組の人生がそれぞれに別れていくことにアンは淋しさを感じずにはいられません。これは大人になるには通らずにはいられない道ですね。特に女性の場合は。そんな変わりゆく故郷で感じる淋しさを埋め合わせる意味もあってアンは更に「パティの家」が好きになるのかもしれません。ここでの仲間はアンと同じ志を持った人々たちばかりですし。

長い間の親友でありライバルであったギルバートとの関係にも転機が訪れます。これも大人になるには避けられない一コマ。でも、アンはそれを認めたくないのですね。そんなとき、アンがいつも夢みてきた夢の王子様にそっくりなロイヤル・ガードナーが登場し、アンは夢中になってしまいます。ハンサムでお金持ちで気が利いていて・・・言うことなしの王子様。周りもとてもお似合いのカップルと認め、2人の仲は公然のものになっていきます。そこでステラの言う言葉が秀逸。

『「ロイは確かに親切な人だし、結構ずくめよ。でも、実際何の取り柄もない人だわ」
「そんなことを言うと、さもやいているように聞こえますよ、ステラや」
と、ジェムシーナ伯母さんはとがめた。
「そう聞こえるわね。でも、あたし、やいてなんかいるんじゃなくてよ」ステラは平気だった。「あたしはアンが大好きだし、ロイにだって好意を持っているわ。ー中略ー 一切、天意によるかのように見えるけれど、あたしはしゃっきりしないところがあるのよ」』
ステラのこういうところが好きなんですよ。

アンは更に再び書くことへの情熱を燃やします。例えば「アビリルのあがない」。この笑える、しかし作者としては憤懣やる方ない結果は読んでのお楽しみ。一度は懲りたアンですが、再びチャレンジしてとうとう成功をものにするところが素敵。

この話はアンの大学生活を描いていますが、考えてみれば下宿や「パティの家」、社交生活の描写がほとんどで肝心の大学での勉学シーンは全く出てこないんですね。昔はそれに気づきませんでしたが、今読むとちょっと違和感も感じます。この時代の女子学生は大学にどんな服装で行ったのでしょうか?白いピンタックの入ったブラウスにシンプルなロングスカートが目に浮かびますが、教室で勉強しているシーンや教授とのやりとりも読んでみたかったです。

卒業式でアンがロイが贈ってくれたスミレではなく、旧友ギルバートのスズランを飾るところが大好きです。卒業式やパーティで女性に身につける花を贈るなんて、何て素敵なの!と憧れた少女時代でした(笑)。ラストのヘスター・グレイの庭のシーンは、やはりホロリと涙が出てきますね。

アンはアボンリーでは飛び抜けて素晴らしい存在でした。ここレドモンドでもアンは人気者です。さすがに「飛び抜けて」は取れたかもしれませんが、あのフィルにとってでさえ「クイーン・アン」。アンがレドモンドで過ごした四年間は、彼女にとってアボンリーでの日々とは全く違う比類なき宝物のような日々でした。アボンリーで磨き続けた原石が、見事にきらめいた日々とも言えるでしょうか。「パティの家」とゴグとマゴグはアンシリーズの中で最も私の心がときめくアイテムなのです。


☆この巻にはこれまた個性豊かな老嬢の数々が出てきますね。クッション双子姉妹のミス・ハナとミス・エイダ。それにミス・パティ。50歳は過ぎている姪のマリアを「マリアのような若い者を1人でヨーロッパに行かすわけには行きませんから」と行ってのける方。それにしても、この2人の3年にわたるヨーロッパ漫遊。エジプトにも足を伸ばしたようですが、一体どんな旅だったのでしょうか。




Ads by TOK2