神秘の短剣
THE SUBTLE KNIFE
フィリップ・プルマン
Philip Pullman

 新潮社
おすすめ本
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2002/3/23

12歳の少年ウィルは、心の弱った母親を知人に預け、緑色の革の文具箱を持って自分が小さい頃行方不明になった探検家の父を捜す旅に出ます。しかし、ひょんなことから他の世界に通り抜ける窓を見つけ入り込んでしまいます。そこで出逢ったのがライラ。真実を語ってくれる真理計を持つライラは、ウィルの父親探しを助けることが自分の義務と知り、行動を共にします。彼らは、他の世界をつなぐ窓を行き来することによって、ウィルの世界と、大人たちだけがスペクターという謎のものに襲われるチッタガーゼの世界を行き来します。ライラを探す魔女たち、そして母親のコールター夫人。みんなの思惑が錯綜する中で、奪われた真理計を取り戻すために、ウィルたちはチッタガーゼで神秘の短剣の奪取に成功するのです。しかし、その短剣こそは他の世界への通り道を開くことの出来る強大な力を秘めた剣だったのでした・・・。


ライラの冒険シリーズ第2巻です。
今度は、ごく普通の世界、つまりは私たち人間が暮らしている世界から物語が始まります。今回の主役と言っても良いウィルは、母を守り、行方不明の父を捜しに旅に出るとても強い少年です。その彼が、ひょんなことから他の世界へと通じる窓を見つけ、そこを通ってライラに出逢います。ライラは、ダイモンを持たないウィルに仰天しますが、それがウィルの世界の常識でした。一方、彼らが今存在しているチッタガーゼという世界では、子供たちばかりが目に付きます。何故なら、スペクターと呼ばれる謎のものに大人たちが次々に襲われていくからです。しかし、スペクターは子供たちは襲わないのです。ウィルとライラは、この世界とウィルたちの世界を行き来しながら、様々な冒険に巻き込まれていくのです。

前作は大変スケールの大きな話でした。今回の話では、さらに全体のスケールが大きくなっていきます。ライラの父アスリエル卿は、教会の神オーソリティに挑戦しようとどこかの要塞にこもっている様子。魔女会議が開かれ、アスリエル卿を支持するかどうかの決議も為されます。ここでは、前回も活躍した魅力的な魔女のセラフィナ・ペカーラがまたまた活躍。また、気球乗りのリー・スコーズビーもライラのために協力を約束します。

ダイモンというのが、前回の話のキーワードの一つでしたが、今回はダイモンの登場が少ないのがちょっと淋しかったですね。ダイモンを持っているライラの世界の人間の登場が少ないからでしょう。ダイモンを持たないウィルは、最初ライラの目からは「淋しそう」と映ります。でも、そのうちライラは考えを変えます。「彼らは自分の中にダイモンを持っているのだ」と。

相変わらず大活躍の魔女たちも、さらにパワーアップ。セラフィナ・ペカーラの、「姿が見えなくなる」のではなくて「呪文を唱えると相手が気付かなくなる」という微妙な魔法はとても面白かったです。ついつい、杖の一振りでアッと驚く魔法を期待したくなってしまうのですが、セラフィナ曰く「精神的な魔法」であるこの術は逆に目から鱗が落ちる思いでした。

気球乗りのリー・スコーズビーさんは私のお気入りのキャラクターです。このシリーズを彩る大人の心と分別と冒険心を持った男性です。前作で生死を共にしたからでしょうか。彼はライラをいつしか自分の娘のように思うようになります。そして、ライラのため、自分の任務を全うします。リーの「アラモの闘い」・・・これはもう目頭がジーンと熱くなってどうしようもありませんでした。


チッタガーゼで、大人たちを襲うスペクターも怖いけれど、子供たちが集団でウィルとライラに襲いかかるところも相当怖かったですね。むしろ、スペクターより怖いくらい。スティーブン・キングの「トウモロコシ畑の子供たち」を思い出してしまいました。

この話のポイントは、登場人物それぞれにある役割があって、結局そのシナリオに基づいて彼らは行動しているというところです。彼らの意志でそれを行っているようではあるのですが、それは彼らにはとてもかなわないもっと強大な力の意図するところのもののようです。それが、何なのか。そして、これから起こる大戦争への予感を秘めて、この第2巻は終わります。これでは、3巻を読まないわけにはいきませんね。


☆第1作のナンバーワンキャラクターとも言えるクマのイオレク・バーニソンが出てこなかったのが淋しかったです。


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