影の王
King of Shadows

スーザン・クーパー
Susan Cooper

偕成社
おすすめ本
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2002/5/19

アメリカ、マサチューセッツ州の少年劇団で演技を学ぶナット・フィールドはシェイクスピアの「真夏の夜の夢」で妖精パックを演じることになっていた。それも彼らは、はるばるロンドンに渡って、シェイクスピア劇が上演された頃そのままに復元された新グローブ座で公演を行うのだった。いよいよ公演旅行が始まり、ロンドンのホームステイ先の家に落ち着いたナットだったが、ある朝目覚めるとすべてが変わっていた。何とナットは16世紀のロンドンにタイムスリップして、本物のグローブ座で「真夏の夜の夢」のパックを演じることになったのだ。そして、そこで出逢ったのは本物のウィリアム・シェイクスピア!


エリザベス朝時代へのタイムスリップというと、アリソン・アトリーの「時の旅人」が一番に思い出されますが、本作もそのほぼ同じ時代へのタイムスリップ物です。それもタイムスリップするのははるばるアメリカから公演のためにやってきた少年。彼はそこで、自分が演じるはずだった「真夏の夜の夢」の妖精パック役を本物のウィリアム・シェイクスピアと共に演じることになるのです。

目が覚めるとそこは16世紀のロンドン。文明の利器に囲まれて育ったアメリカ少年ナットにはあまりに激しいカルチャーショックの連続です。しかし、演劇少年であるナットにとっては本物のグローブ座に足を踏み入れ、作者のシェイクスピアに逢うことが出来る・・・という天にも昇る経験の連続です。ナットが嫌だと思うどころか、どんどんその世界に浸ってしまうのも無理ない話です。

エリザベス女王のもとで黄金時代を迎えた大英帝国といえども、ロンドンの下町の生活はおよそ衛生観念などというものとはかけ離れていて、庶民の娯楽も仰天するようなもの。とかく華やかな宮廷ばかりに目が行く時代ですが、このあたりの庶民生活の克明な描写がこの物語の中の大変面白い点の一つです。
そして、シェイクスピアは意外にもこの庶民文化の中で、庶民に演劇という娯楽を提供しながら自分の筆を磨いていった人なのでした。ナットが出逢った時点で、まだ「ハムレット」を書いてないシェイクスピアにナットが気を遣ったりするところもまた笑いを誘います。そしてシェイクスピア自身も舞台に立っていたというのもまた面白い発見となるでしょう。ただし、役者としては大したことはなかったようですが。

本作にはエリザベス女王まで登場します。映画に出てくるまさにあの格好でお忍びで演劇を見に来るのです。ナットのかかりつけの歯医者が見たら卒倒しそうな歯をしながら(ここは爆笑)。

ただのタイムスリップものではなく、ナットには然るべき役割が与えられていたというラストの一ひねりが面白い点です。

本書を読むにあたっては、「真夏の夜の夢」の主要登場人物を知っているかどうかで、興味を持てる度合いが大変変わってくるのではないでしょうか。



☆「恋におちたシェイクスピア」「真夏の夜の夢」の映画2本を鑑賞してからお読みになると、当時の様子や劇の様子が容易に想像出来てよろしいかと思います。見てから読むもよし、読んでから見るもまたよろしいでしょう。
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