家なき娘
En Famille

エクトール・マロ
Hector Marot

偕成社文庫
おすすめ本
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2002/4/21

フランス人の父とインド人の母を持つ少女ペリーヌ。インドからヨーロッパへと旅を続けるうちに父は病に倒れ帰らぬ人となり、続いて母も娘の行く末を案じながら息を引き取る。ペリーヌの父方の祖父ヴュルフランは大きな紡績工場の経営者だったが、息子が意に染まぬ結婚をしたために勘当状態にあった。ペリーヌは、まだ見ぬ祖父を頼って、祖父のいるマロクールへの旅を続ける。そして、そこで名前をオーレリーと変えて素性を明かさずに祖父の工場で働き始める・・・。


両親を亡くした少女が、着のみ着のままでただ一人の肉親を頼って旅を続ける涙なくしては読めない話です。
祖父のいるマロクールへの旅がまた悲惨なものでした。交通費など持たないペリーヌは、ひたすら歩くのですが、食べるものがなく餓死寸前にまでなります。間一髪知り合いに助けられ、とうとうマロクールへ着きますが、ペリーヌはまっすぐに経営者である祖父に会いにいかずに工場での労働をすることになります。祖父が自分を受け入れてくれるかどうかが怖かったからです。でも、この工場労働のおかげでペリーヌは、およそ快適とはほど遠い労働や宿屋の実体を知っていくのです。
やがて、英語が出来ることから通訳としてヴュルフラン氏に雇われたペリーヌは、持ち前の賢明さを発揮して彼を感嘆させ、彼に尽くすようになるのです。

前半の貧乏さは目を覆いたくなるくらいの苦しさです。19世紀、貧富の差が激しかった頃のこれが実体なのでしょう。食べるものがないペリーヌは、白樺の枝まで口にします。

やっとマロクールで職を得たあとも生活は大して好転を見せません。劣悪な環境の宿屋から脱出したペリーヌは無人の小屋を見つけ、そこでひっそりとしばらく暮らします。何も生活道具を持たない彼女はスプーン一本でさえ、捨てられていた缶を拾って作り出すのです。やっとお給料をもらった後では、とりあえず何にどれだけ、ととても現実的な選択が待っています。でも、このおままごとみたいな生活をペリーヌは楽しみます。たった一人で、誰にも邪魔されることなく、すべてを自分で取り仕切る生活を。でも、この生活とて長く続けるわけにはいきません。

運命がペリーヌを祖父に近づけます。英語が出来ることから、何も知らないヴュルフラン氏はペリーヌを自分の個人的通訳として雇い入れ、必死に行方不明の息子を捜します。その息子である自分の父が既に亡くなっていることを言い出せないペリーヌの辛さ。

ペリーヌは、学校で勉学した経験こそありませんでしたが、聡明で心の正しい少女でした。家庭教師のベローム先生の教えを受けて、どんどん知識を吸収していきます。そして、色々な考えを身につけていくようになるのです。

この頃のフランスは、産業革命の影響で急速に工業が発達していました。実業家はそれで富を増やす一方でしたが、労働者階級は劣悪な環境のもとに過酷な労働を強いられます。
この物語の素晴らしい点は、孤児の少女の家族捜しの形を取りながらも、その時代の工場を詳細な描写で描き、やがて工場とその地域一帯が近代的な設備も福祉も整った一つの地域として生まれ変わっていく様をリアルに描いているところだと思います。実際に作者のマロには、企業家と労働者が兄弟のようになって共に働き生活する工業団地を理想とする思想があったようで、それが物語の隅々にまで現れています。そういった点から見ても、ただの児童文学とレッテルを貼るだけでは勿体ない話だと思いました。


☆工場経営の後釜争いをする権力者たちの時にはエゴ丸出しの、時にはカメレオンのようなやり合いはとても面白かったです。実際、ビジネスマンが読んでも面白いのではないか、と思ってしまいました。


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