ヒャクニチソウの満開の下
Crazy Ladies.

ミシェル・リー・ウエスト
Michael Lee West.

産業編集センター
今週のおすすめ本
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2002/7/28

1932年、テネシー州クリスタル・フォールズで小さな農園を営むミス・ガシーは、ある夜に侵入してきた男を銃で撃ち、まだ息のあるうちに庭のヒャクニチソウの下に埋めてしまう。それは自分自身と幼い娘ドロシーを守るための正当防衛だった。時が経ち、ドロシーと後に生まれた妹のクランシー・ジェーンはそれぞれ思う通りに生きるが、それはミス・ガシーの思惑とは違ったものだった。奥深い南部を舞台に、それぞれ問題を抱えた3代の女性の数奇な運命を綴る大河小説。


南部を舞台にした小説に惹かれるのは、やはり小学生にして「風と共に去りぬ」にはまった影響が色濃く残っているのでしょうか。1800年代の南部は、壮大な荘園と屋敷に象徴される隆盛、そして南北戦争とその後の荒廃に代表されましたが、1900年代に入ると南部独特の風土を色濃く反映した物語が数々生まれることになります。
それはスカーレットが踊るように歩いた華麗な世界とはほど遠く、湿気とどろどろした差別や因習と、色とりどりの植物に代表される独特な世界を呈することになります。
この世界って結構はまります。フォークナーやテネシー・ウィリアムズが有名ですが、異彩を放っていたのは、女性作家たちだったと思います。キャサリン・アン・ポーターやユードラ・ウェルティ、そして究極のフラナリー・オコナー。この作品は、「フラナリー・オコナー以来」という賛辞がついています。実際オコナーの世界をいくつか読んだ私としては、これはちょっと言い過ぎかな、とも思うのですが、何とも言えず手に湿気でまとわりつくような独特の鬱陶しさを言い表すにはなかなか的を得ているかもしれません。

これは南部女性の3代にわたる人生を描いたものですが、それは生やさしい世界ではありません。世間の厳しさもさることながら、彼女たちがいつも戦わねばならなかったのは自分の内面でもありました。登場人物たちは、皆見事なくらいちょっと難あり。感情移入出来るほどのまともな人はほとんどと言っていいほどいません。でも、フラナリー・オコナーの小説の登場人物に比べるとまだまともかな(苦笑)。
彼女たちのそれぞれの視点から事件を描いているので、同じ一つの出来事でもそれぞれ観点が違います。そこに妙味があります。

3代の女性たちの根幹を為すのが、ミス・ガシーと黒人メイドでずっとミス・ガシーと一緒だったクィーニーです。ミス・ガシーはしっかり者とは言うものの、愛によって盲目になってしまう面も持ち合わせる女性です。そんな彼女を支えるクィーニーは、ある意味南部女性の典型とも言えるでしょう。人種差別の嵐が吹き荒れる中でもマイペースで人生を生きる、この小説の中では唯一共感出来る女性かも。

ミス・ガシーの娘たち。長女のドロシーは、母の愛を得られなかったことで性格の歪みを生じています。つき合いたくないタイプナンバーワンですが、可哀想な人でもあって同情の余地は大いにあります。次女のクランシー・ジェーンは母やクィーニーの愛を一身に受けて、姉の嫉妬をかってきた娘ですが、ある日突然横道にそれて母親を嘆かせる。これまた、まともそうですぐに流される時代の申し子みたいなところもあります。

さらにドロシーやクランシー・ジェーンの娘たちも巻き込んで、クリスタル・フォールズという小さな田舎町で展開される様々な愛憎劇。男性も多数登場するものの、あくまで脇役扱いでしかなく、女性の強さともろさを見事に表現しきっています。

とにかく、湿気を感じる小説なので慣れていない方にはちょっと読みにくいでしょう。でも、もし南部小説を少しでも読んだことがある方なら、どこかかつてのそれらに共通するものを見つけられることと思います。


☆30年代から70年代まで、戦争、ファッション、映画、音楽など当時の世相も反映していてその意味でも楽しめます。

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