魔法使いハウルと火の悪魔
Howl's Moving Castle

ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
Diana Wynne Jones

徳間書店
おすすめ本
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2002/5/25

インガリー国は昔話で語られる魔法が実在する国でした。そんな国のある帽子屋の3人娘の長女に生まれたソフィーは、昔話通りもし運試しに出れば長女は何をやってもうまくいかない、成功するのは末っ子だけだと固く信じて暮らしている娘でした。ですから、父の死後も妹たちはそれぞれ魔法使い、パン屋に修行に出されましたが、ソフィーだけはこつこつと帽子を作り義母と店を切り盛りしていたのでした。しかし、どうも義母は自分を利用しているだけだと気づいた矢先、何と突然「荒れ地の魔女」に呪いをかけられ90歳の老婆に変身させられてしまったのです。それを機に家出したソフィーは、空中に浮かぶ城に住む魔法使いハウルの元に住み込みの掃除婦として転がり込んだのですが、このハウルは若くてハンサムですが何ともうぬぼれ屋で、いじけ癖があって・・・おまけに一緒にいるのは同じくらいの魔力を持つ火の悪魔カルシファー。ソフィーは元の姿に戻るどころか、どんどんと魔法の争いに巻き込まれてしまうのでした。


ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「空中の城」シリーズの第一巻です。
ヒロインは帽子屋の長女のソフィー。長女は何をやってもうまくいかないという逸話を頑なに信じ、帽子を作り続けるのですが、彼女には天性の才能があって帽子屋は大繁盛。ピンクのボンネットやヴェールにスパンコールのついた帽子、プリーツを寄せた薄茶のボンネットやロウ細工の薔薇や果物をあしらった帽子にはとっても興味が湧いて、嫌々ながらも作り続けるソフィーには悪いのですが、これらの帽子を是非拝見したいものだと思ってしまいました。
ところが、何の因果かソフィーは見ず知らずの魔女にいきなり90歳の老婆に姿を変えられてしまうのです。老人に変身してその気分を味わうという記事やニュースを見たことがありますが、この時のソフィーはまさしくそれ。90歳にしては元気でかくしゃくとした女性ではありますが、あちこちが痛んだり、心臓が悪かったりと、若い盛りでは想像すら出来ないことを体験することになります。

魔法を解いてもらおうと乗り込んだハウルの屋敷は、空中に浮かぶ城でしたが、何ともはや汚くてはからずともソフィーは掃除婦の真似事をすることになってしまうのです。地上ではおとなしいソフィーでしたが、90歳ともなると恐ろしいものなどなくなるようで、すっかり毒舌になってしまっているところが笑えます。長女ゆえ我慢してきた数々のことが一気に爆発したともとれます。

魔法使いのハウルは地上では、若い娘の心臓を食べるなどと言われて悪評高い魔法使いなのですが、実際は若くて頼りなくてわがままでうぬぼれが強くて経済観念がなくていじけやで・・・と、最強の魔法使いのイメージとはほど遠い人でした。おまけにとにかく美しい娘が大好きで、惚れっぽい。一度目をつけた娘は相手の心を手に入れるまで食い下がり、いざ相手が自分を好きになったら捨ててしまうというとんでもないプレーボーイでもあります。いやはや、こんな女好きの魔法使いって今までいたでしょうか。そんなハウルも、年上も年上、90歳でずけずけと物を言うソフィーには歯が立ちません。

お城にはハウルに魔力を提供している火の悪魔と呼ばれるカルシファーや、ハウルの弟子で身の回りの世話をするマイケルもいて、4人で掛け合い漫才のようなことをして過ごす日々です。この丁々発止のやり取りが面白くて、ファンタジーであることを何故か忘れてしまいます。

妹に会いに行くために7リーグ靴と呼ばれる一歩で7リーグ進む魔法の靴を履いたソフィーとマイケルがまた面白いです。一歩踏み出すと、目的地より行き過ぎる。戻る。もう少し加減してまた一歩。また行き過ぎる。ビデオテープを早送りしたり巻き戻したりして見たいところを探し出しているような気になってしまうのです。便利な物も使い方がわかってこそ、真に便利だと言えるのであります。

ある日突然かかしが訪ねてきて、ほとんどソフィーのストーカー状態になってしまったり、犬が押し掛けてきたり、王様からの依頼に悩んだり、登場人物も入り混じってごった煮状態になって、沸々話が沸騰したきたところで迎えるクライマックス。いささか、どんちゃん騒ぎが過ぎる気もしますが、盛り上げ方は面白いですね。何よりも1人としてまともと言えるような人がいない登場人物たちのあまりに多彩な個性に圧倒されてしまいます。

しかし、かかしが出てきた時は笑いました。命を吹き込まれたかかしなんて、どう考えたって「オズの魔法使い」へのオマージュ。そういえば、「荒れ地の魔女」もいるし、さしずめハウルは「良い魔女グリンダ」の役回りなんでしょうか。そういえば、うぬぼれが強いところが似ているかも。


☆そう言えば昔話では、末っ子が成功するっていうのが結構パターン化しているかもしれませんね。「シンデレラ」然り。「3匹の子豚」然り。昔話でなくても、「リア王」でも成功には関係ないけれど良い子は末娘でした。何故に?親の物を相続する長子に比べて、一番譲り受ける物がない末の子を励まそうとした意図でもあったのでしょうか。


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