奇跡の子
The Crowstarver

ディック・キング=スミス
Dick King-Smith

講談社
おすすめ本
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2001/8/20

大きな農場の羊飼いとして働くトムの作業場である羊小屋に、生まれて何日もたっていない男の子が置き去りにされた。身元の分からないこの子をトムとキャシーの夫婦は自分たちの子として育てることになる。大きくなってくるにつれて、男の子が大きなハンディキャップを背負っていることが明らかになってきた。その一見変わった歩き方から「スパイダー」というニックネームで呼ばれるようになった少年は、言葉もたどたどしく読み書きも出来ず学校にも通えなかったが、動物たちと心を通わせる特殊な力があることがわかってくる。スパイダーが十代に入った頃、第2次大戦が勃発。農場主や作業長の息子達も戦場に駆り出され人手不足となった農場で、スパイダーは麦を食い尽くすカラスを追う仕事を任される。ぎこちなくも一生懸命に仕事をこなすスパイダー。また暴れ馬をおとなしくさせたり、動物を扱う腕は誰にも真似できないことを知り、農場の人々は優しくスパイダーを見守るようになる。普通の子と同じような生活は送れないが、スパイダーは十分幸せなのだと、トムとキャシーの夫妻は思うのだった。そして・・・。

スパイダーは障害児でした。そのことが段々わかってくると、農場主は言います。「今では村中が知っている。中には思いやりのない者もいれば、辛く当たる者もいる。気にもとめない者もいるだろう。人間ってのはそういうものだ」。彼の言葉通り、子供たちはスパイダーをいじめ、大人達は陰口を叩くか、可哀相と言うだけ。閉鎖的な小さな村社会で、スパイダーは異端児として育つしかありませんでした。学校さえも彼を受け入れてくれません。しかし、スパイダーには心の底から愛してくれる両親と、動物の友だちがいました。彼は人間の言葉はうまく話せませんが、動物の言葉はまるで話せるかのように、動物たちと意志の疎通を図るのです。そんなスパイダーに農場の人々は、心を開き始めます。

障害のある人々のことをついつい健常者は「可哀相な人たち」と思ってしまいがちです。でも、この本を読んで考えさせられました。

スパイダーは健康な子供たちとは全く違います。学校にも行けないし、友だちとも遊べないし、本も読めないし、出来ないことだらけ。でもスパイダーはそれを「悲しいこと」とは感じていないし、養父母のトムとキャシーも農場の中で生き生きと暮らすスパイダーを見て、「この子は幸せなんだ」と心から思えるようになります。
折りしも時は戦時下。健康な若者は戦地で若い命を散らせています。しかし、田舎でのんびり暮らすスパイダーは戦争という感覚を持ち合わせません。勿論戦争に行くこともありません。

幸せって何でしょうね。人と同じように出来ること、人並みに暮らせること、それをつい「幸せ」と考えてしまいがちですが、この物語は大きな問題提起をしているように思われます。「幸せ」はそれぞれ違うんだよ、って。

スパイダーはほとんどの人から見れば可哀相な子ということになるでしょうが、彼はこれっぽっちも自分のことを可哀相だなどと思ったことはなかったでしょう。彼は彼に与えられた状態の中で、自由を満喫し、愛してくれる人たちへの応え方を知り、自然と共に精一杯生き抜きました。「世間一般」の考え方を見事に覆してくれるスパイダーには拍手を送りたくなります。

作者のディック・キング=スミスは映画化された「ベイブ」の原作「子ブタ シープピッグ」を書いた人で、農場や馬や羊の描写にはさすがにうまさが光ります。長い間農場経営をしていた経験が見事に生かされているのでしょうね。

ただ感動するというだけでは物足りない。「目からウロコ」が落ちる作品です。年季の入った「偏見」を持ちがちな大人にこそ読んで欲しい作品です。


☆脇役だけれど農場主の奥さん、馬狂いの夫の手綱を締める素敵なキャラクター。彼女が言う「イディオ・サヴァン」という言葉は、知能部分で劣っていても特定の分野ではすぐれた力を見せる人のことだそうです。動物との意志疎通と木彫りのうまさという二つの特技を持ったスパイダーは、ある意味天才です。
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