クリスマス・プディングの冒険
THE ADVENTURE OF THE CHRISTMAS PUDDING

アガサ・クリスティ
Agatha Christie


早川文庫
おすすめ本
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2001/12/16

エルキュール・ポワロは、某国の王子がイギリス滞在中に女性にだまし取られた家宝の高価なルビーの行方を突き止める仕事を乞われ、田舎の14世紀に建てられたという地主館キングス・レイシイに赴きます。時はあたかもクリスマス。その屋敷には主人夫妻、孫たちの他、孫娘と親しくつき合っているあまり身持ちの良くない男とその病弱な妹や、孫娘を好いている好青年などが客として滞在しています。クリスマスの食事の前にポワロの部屋に奇妙な手紙が置かれます。「クリスマス・プディングには手をつけるな」。そしてまた、いたずら盛りの孫息子とその友人たちは名探偵をからかおうと、仲間の一人の少女を雪の朝に死体に見せて倒れさせ、ポワロを呼んで大騒ぎするのですが、冗談で死体役を演じていた少女は本当に死んでいたのでした!ポワロの灰色の脳細胞が俄然活躍を始めます。


クリスティ女史の短編ミステリーです。
最初、ポワロは14世紀の地主館と聞いただけで行くのを拒みます。彼にとってそう言った由緒ある建物というのは過去の遺物の代表格。自分の暖房の効いた近代的なアパートの方がずっとずっと良いのだと信じて疑いません。でも、このキングス・レイシイはセントラル・ヒーティングの設備もあるし、お湯も出ると聞いて、疑いつつも渋々出かけることになります。このポワロの気持ちはわかりますね。昔の館は見る分にはとても素敵だけれど、いざ住むとなるとだだっ広くてとにかく寒い!

とにかくそうして出かけてきたキングス・レイシイのマダムは好人物でしたが、孫娘のセアラがおよそ好青年とは言えないデズモンド・リーウォートリイに熱を上げているのが悩みの種でした。それをのぞけば、イギリスの伝統に乗っ取った静かなクリスマスが過ぎていきます。

クリスマスの正餐は2時に始まります。みんな家に泊まっていて帰る必要のある人がいるわけでもないのに、ディナーではないのですね。カキのスープ、七面鳥などのコースのあと、いよいよお待ちかねのクリスマス・プディングの登場。イギリスのクリスマスはこのためにあるようです。とにかく作る時に、家中の人が総出で願掛けしながらかき混ぜて、出来てきたプディングを切り分ける時にもひたすら願掛けをするんです。本当のクリスマス・プディングは、数週間前に作って寝かせておかなければならないそうです。それをいくつも作って、クリスマスだけでなく、新年にも食べるそうで、果たして痛まないんでしょうかねえ。

さらにこのクリスマス・プディングには、仕掛けがあって中に何かしら物が入っているのです。独身者用のボタンだったり、指輪や硬貨だったり、指ぬきだったり。それぞれがプディングの中から掘り出した物を見て、みんなでやんやと騒ぎ立てるわけです。まあ他愛もない遊びなんですが、今更ポワロに独身者用のボタンが当たったからといって彼は痛くもかゆくもないでしょうが、もし結婚問題に真剣に悩んでいる妙齢の女性に指ぬきが当たって、「わーい。一生独身だね!」なんて騒がれたら、クリスマスだというのに内心イヤな気持ちがするんじゃないでしょうかねえ。衛生面でも凄く気になるし、何だか旧制高校の寮で行われていた闇夜の鍋(真っ暗にしてそれぞれ持ち寄った変な物を入れる)を思い起こしてしまいました。

でも、余計な混入物は別にしてこのクリスマス・プディングには凄く興味があります。どんな味がするのか。どれぐらいの大きさなのか。後で、クリスマス・ケーキが出てきたのに、皆さんあまり食べなかったということで、クリスマスはケーキではなく、プディングが主役と言っても良いのでしょうか。

クリスマスで思い出すのは、大きなツリーとその下のプレゼントの山というのが定番なんですが、今回のイギリスのクリスマスにはツリーもプレゼントの話もなし。所変わればクリスマス変わる、ということでしょうね。

食べ物の話ばかりになってしまいましたが、勿論中核を為すミステリーも面白いです。でも、これはクリスティ自身ミステリーの方が添え物で、メインはクリスマスのお食事の話だったのではないかな、と思ってしまいます。
グルメな方は必読ですね。


☆ベルギー人のグルメなポワロにも、このクリスマス・プディングは気に入ったみたいでした。しかし、犯人は間が抜けてるなあ、と思うのは私だけ?


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