氷上のダルタニアン 〜 フィリップ・キャンディローロ

2002/2/3
Philippe CANDELORO
1972年生まれ
フランスのフィギュアスケート選手。男子シングル。

フィリップを初めて見たのは、90年代にさしかかった頃のNHK杯フィギュアだったと思う。決してハンサムというのではなかったが、斬新で活力あふれるスケーティングに魅了された。まだまだ荒削りだったが、大器の器を感じさせた。フィギュアの選手というと、それまではどことなく貴公子然としたところがあったが、フィリップは野性味さえ感じさせた。そして天性の役者だった。

彼のその実力が認められたのは、「ゴッドファーザー」を滑ったときからだと言っていいだろう。あの哀愁あふれるテーマ音楽にのって、黒づくめの衣装に身を包んでゴッドファーザーを踊りきったフィリップは94年のリレハンメルオリンピックで銅メダルを取った。あくる年には彼は髪に白髪を混じらせ、年を取ったゴッドファーザーを演じた。彼は氷上の演技者だった。根っからの演技者だった。顔の表情から指先に至るまで、感情を込めたスケーティング。アーティスティックインプレッションの方が高くなるのはそのためだった。しかし、彼はスケーティングだってうまい。ジャンプも高いし、何より私が好きだったのは氷上に座り込んでクルクル回るキャンディローロスピンだった。今まで誰も考えたことのない技。だが、出る杭は打たれる。キャンディローロスピンはフィギュアの技ではないとして、協会から禁止令が出てしまって、ファンとしては落胆と共に激しい怒りを
感じたものだった。

また、彼は本番も素晴らしいが、そのあとのエキシビジョンに賭ける情熱といったら凄かった。ファンサービスに徹していたのだろう。NHK杯の時にも、星条旗をまとって出てきたり、法被を着て出てきたり・・・。手に日の丸を持って旗振りしたり。そして女性ファンを熱狂させた握手とキスのサービス。リンクの一番前にいるごく少数の幸運な女性ファンがこの恩恵にあずかることが出来たものだった。
当然彼の人気、特に女性ファンの人気はダントツだった。

98年、長野オリンピック。フィリップは衰えたと言われていた。もうピークは過ぎたと。でも、彼は長野にやってきた。ファンの中でも特に熱心な日本のファンにスケーティングを見て欲しいと。そして彼が滑ったのは、「三銃士」のダルタニアン。誰がフィリップが衰えたと言ったのだろう。この時の彼は素晴らしかった。長い長いストレートのステップシークエンス。トリプルアクセル。ラスト近くにまたトリプルトリプルの成功。勿論実際には存在していないダルタニアンの振る剣裁きが見えるような錯覚に陥った。そして結果は衰退説を覆しての銅メダル。相変わらず人気は最高で、ファンの黄色い声援が飛んでいた。エキシビジョンの時に、クーリックたちがキャンディローロと一緒に、独特の手を上の方からクルクルと回してするキャンディローロお辞儀を真似していたのが面白かった。

フィリップはスターになっても、まずほとんどのNHK杯に出場していた。自分が日本で大変に愛されていることがわかっていたのだろう。その日本の地で、再びメダルが取れて彼も、そしてファンも満足だったはずだ。

今彼はプロになって得意のバック転も、キャンディローロスピンも文句をつけられることはなく披露出来る。どんな変わったパフォーマンスも望みのまま。あまり見る機会のなくなってしまった彼だが、長野のダルタニアンの素晴らしいスケーティングは今も目に焼き付いて離れない。
最初は異端児のように言われ続けたフィリップだったが、彼は実力とまたその愛すべき魅力でファンの心を捉えて間違いなくフィギュア史上に名を刻んだのだ。




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