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B級コンサートの招待席

「卓上のピアニスト」

「卓上のピアニスト」

ボブのお気に入りは
何かと云うと、
キッチンテーブルの上の
ママの宝物だった。
「ママ。」
「なに、ボブ。」
「えーとね。」
「何かしら。」
「これ、良い。」
「あら、またピアノ。」
「良いでしょう。」
「しようがないわね。」
ボブが指さしたのは、
テーブルの、はしっこに置いてある、
一台のおもちゃでした。
おもちゃといっても、
ママの大切な青いピアノのおもちゃ
だったのです。
ピアノのイスには、
赤いほっぺの少年の
ピアニストがすわっています。
でも、ママとの約束は
ボブが自分では、
けっしてさわらない事。
なぜって、
それはママの大事な
宝物だからです。
「いくわよ。」
「うん。」
テーブルの上では
にわかに、
ぶとう会がはじまりました。
さて、
曲目は何でしょう。
「ワルツ」でした。
ショパンの大好きな。
ワルツです。
ママが大事そうに
青いピアノを手に取ると
うらがわにある「ゼンマイ」を
ぎりぎり回し終わり、
テーブルに置くと、
真っ赤なほっぺの少年は、
丸い目をぱちくりとさせて、
ぴくりと、動き
ピアノを弾き始めました。
テーブルの上では、ボブのおもちゃや、
ママの大切なお人形たちが、
クルクルと踊りはじめました。
まるで夢の世界です。
「はっはっはっはっは。」
「はっはっは。」
たのしいぶとう会です。
そのとき、かいねこのミミーが
おどろいて、テーブルの上に
飛び上がりました。
「あ、待って。」
楽しいぶとう会は中止です。
ねこのミミーには
ぶとう会の楽しさは
わかりませんでした。

「テムズの河畔にて」

さて、みなさま。
ピアニストのトムを
ご存じでしたか。
知らない。
そうですか。
青いピアノを弾く
小さな男の子。
ああ、
覚えていてくださいましたか。
そう、
彼の話です。
それがどうしたかって。
はい、
ご主人メアリー夫人の
旦那さまが。
お仕事で
パリ―にお出かけ。
それで、
奥様もそうでした、
かわいいボブ少年も
一緒にお出かけになりました。
そうです。
今朝、空港に着きました。
ホテルに荷物を置いて、
午後はパリ―のお散歩です。
そうそう、
ピアニストのトムのお話でした。
かわいそうに、
彼はホテルでお留守番。
ホテルの12階のお部屋
パリ―の凱旋門の見える大きな窓辺で
ビル街を見下ろしています。
どんなに、
すばらしい眺めかって。
残念ながら、
ピアニストのトムは
音楽の名手ですが、
お話は大の苦手。
パリ―の街の感動は
胸の奥にしまって、
ピアノでも弾こうと思ったのですが、
ご主人のメアリー夫人が居ません。
でも、
ここには猫のミミ―は居ません。
彼はミミ―が苦手。
「早くご主人が帰って来ないかな。」
その時、
黄昏のパリーが
青白い夕闇につつまれ、
街中が海の底に沈んだようでした。
突然、
部屋の明かりが
ぱっと灯り
「ただいま。」
ご主人達が帰って来ました。
「トムさん。ただいま。」
「パリ―の夜景を見ながら特別のコンサートよ。」
今夜はショパンの「夜想曲」
静かに静かに始まりました。
パリ―の夜景には静かすぎますが。


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