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えすぱーにゃの星

黄金華咲く

北条氏の天下を終息させ、
天下統一の号令は発しられた。
武人として類い稀な才能を持った
信長の突然の死。
その漸く招き寄せたかに見えた泰平も、
風の吹き様でいつ又下剋上の世の中に
舞い戻るかも知れないので有った。
「六衛門を呼べ。」
政宗の居城の冷え冷えとした板張り廊下を
渡って来た一人の侍が居た。
「常長に御座ります。」
「うむ。」
未だ北国の春は寒い。
倹約家の政宗は、小さな火桶からは離れて座して居た。
「寒かろう。火に寄れ。」常長は恐縮しつつも平伏して、
「何用で御座りましょう。」
「うむ。そなたに逢わせたい男が居る。」
「ははっ。」
「あれを呼べ。」
小姓は一つ返事で下がると控の間から
来客を案内して来た。
「ほう。」
常長は目を丸くした。
この国では滅多にお目にかかる事の無い異人だった。
「南蛮宣教師のソテロじゃ。」
「ばてれんの、ルイス・ソテロにございます。」
「うあっはっはっはっ。」
真面目な政宗も思わず吹き出した。
「中々ひょうきんで御座る。」
「エスパーニャから参ったそうな。」
赤毛で鬼の様な真っ赤な顔をしたエスパニア人が、
愛想笑いを浮かべて居た。
「これが南蛮人。」
当時西洋では、スペイン、ポルトガルの南蛮人と、
新鋭の英国、オランダの紅毛人が
東洋の支配に虎視眈々と鎬を削って居た。
しかし、それを遡る1543年に、
遥かなる波濤を越えて、
ポルトガル人が種子島に来邦して居る。
不思議な縁である。
種子島に「火繩」が到来し、
彼常長は伊達はん足軽・鉄砲組頭を任じて居た。
政宗は何かしら共通するものを感じたので有ろう。民族存亡に関わる試練の時代で有った。
国内は波乱に満ち、世界は喰うか喰われるかの、
大航海時代とは身勝手な歴史観ではある。

「エスパーニャとは何処で。」
するとソテロとやらは微笑んで。
「西のはて、海を幾つも越えて。」
すかさず常長が、
「何の為で御座る。」
ソテロは驚いた目をして笑った。
「神の言葉を伝えに。」 常長は納得しない顔だったが、
「まあ、その話しは良かろう。」
政宗公は又別の事を考えて居たのかも知れない。

明るい内海には、島々が連なり頬を撫でる潮風が心地良い。
「いつぞやは失礼致しました。」
一人は常長、そしてソテロで有った。
類い稀な武人で有り、領主として殖産にも尽力な政宗だった。
信長が居て、秀吉、家康が活躍する中、時代の潮流に乗り得なかっ事を
悔やむ主の切ない心を知る家臣の一人で有ると自負する彼で有った。
松島に遊山の時代でも無かろうが、ソテロなる奇妙な異人を奥州の景勝地に招き、
案内せよとは主にどの様な思惑が有るので有ろう。「おおっ、これは素晴らしいです。」
大きく頷きながら賛嘆のソテロに、不思議に親近感の涌く常長だった。
「こ、これは。」
「瑞厳寺で御座る。」
背の高い鬱蒼とした林の中に堂塔伽藍がひっそり佇む雰囲気に
二人は一言も発せずに歩いた。
遠く聞こえる波の音に、この異人は何を考えて居るので有ろうか。

「常長殿。大殿がお呼びじゃ。」
政宗公居城のお居間では、開け放された引き戸から明るい光が差し込んで居た。
「ご機嫌如何で御座りまするか。」
「わしは、いつでも機嫌は上々。」
「僭越に御座りました。」「むはっはっは。」
「大航海の話にてございましょう。」
「云うまでも無いが、信長公に先立たれ、太閤も今では世の人では無い。」
「御意。」
「泣き言は嫌いじゃ。」
「…。」
「葵殿はわしにしっかりと釘を刺して逝かれた。」
「全く遅生まれは損なものじゃ。」
「殿。」
「…何じゃ。」
「遅生まれには明日が有ります。」
「む、はっはっはっ。常長め、上手い事を云う。」
「死人には悔しくとも口が無いそうで御座る。」
「うむ、わしには太閤に負けぬ夢が有る。」
「御意。」
「常長には苦労をかける。」
「勿体ないお言葉。」
「遠い異国の都、ローマには教皇が住まうとか云う。」「御意。」
「わしは、日ノ本に生を受けた故、異国のキリシタンの神なぞ興味等無い。」
「…。」
「しかし、きゃつ等の文明を侮っては為らん。」
「異国の多様な産物、学問は江戸に先駆けて我が懐に…。」
「ローマ教皇庁への遣いは常長、命を賭けて果たしましょうぞ。」
「鶏頭と成るも牛尾と成るなかれ。」
「しかと…。」

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