Spiral Steps
Spiral Steps 第二話 「絶対真実・平常無惨」
なにか、とても温かい感覚。これは、厚手の羽布団の感覚。
・・・私は、二重に夢を見ていたに違いない。少なくとも、そう思いたい。
ゆっくり、目を開けてみよう。そうすれば、私の部屋だ。
私の机、私のタンス、私の目覚まし時計。そして、私の大切な父さんと母さん・・・。
いつもの朝が始まる。さぁ、今日も一日頑張ろう!
・・・白くて、高い天井・・・。広くて、がらんとした空間・・・。
私の部屋じゃない。私の知らない空間だ・・・。
「お早う、佐伯 麻沙子さん」
私の目前にモニターが現れ、白衣をまとった女性が映し出された。
「ようこそ、リー・ジーン・ラボへ。私はここの所長、アリス・布引・リーよ。よろしく。願わくば、長いつき合いになりそうだから、親密になりたいわね」
艶の良いセミロングの黒髪に、知的な顔つきの彼女は、私に対して深々と頭を垂れた。
「は、はあ〜・・・って!?どうして、私はここに!?」
私は疑問の本質にな気が付いた。私は何故ここにいるのか?
そして、着ている服装にびっくりした。
・・・ビキニ。しかも黒色・・・。
「・・・・何なの!?この水着は!?」
「あなたの着ていた服は損傷が激しかったので、処分しました。その代わりとしてはなんですが、我がラボで開発した、あなた専用のビキニを着ていただきました。特殊繊維を幾重にもコーティング、見た目以上に丈夫ですよ」
「・・・・・・・・・」
疑問の種は、尽きない。
「あなたは、来都市北来都区白井三丁目6にて、CNのサイコトロン
及び、ハイサイコトロン含む総勢約十五体と交戦、
圧倒的筋力によってこれを全て殲滅。
後、あなたはその残骸の上にて気絶。そして、私達が保護って所かしら」
「CN?・・サイコトロン・・・と、いうことは!?」
「まぁ、いきなりの事だったから、精神が錯乱するのも無理ないわね。
じゃ、これを見てもらうわ」
彼女は、そこにあると思われる装置を触ると、私の周りに無数の小型モニターが現れ、
そこには、あの日の私の姿があった。吼え猛るもう一人の私が・・・。
「!!・・・これが・・・私!?」
「そう!あなたよ、麻沙子!!あなたのDNAFAの力なのよ!」
「ダ、ダナファー・・・DNAFA・・・」
モニターに映し出された私は、別人の様だつた。
その時の記憶はたしかにある。ただ、私は認めたくなかった。
ただ、私はこれを見続ける事によって、この力を解放してしまうかもしれなかった。
現にそれを見て、鼓動が激しく波打ち、腕の血管も浮きだしていたからだ。
「(麻沙子!・・・今は、耐え時っ!!)」
そう、たとえ私がそうだとしても、この科学者にはこの力は見せたくない。
例えば、仮にここで解放してしまったら、私は精密検査や、最悪、人体実験の
サンプルにされかねない。それは絶対避けたい!
「あなたには、見せないよ!私の力はっ!!」
「それは、知っているつもりよ、麻沙子。何故なら、それを移植したのは私だから」
!!私は瞬間、意識が白くなった。
「軽蔑するでしょうね。私のせいで、あなたの人生を何%か変えてしまったから・・」
そして、私の意識が白から真紅に変わるまで数秒も要さなかった。
「・・・あなたが・・・私を・・・こんなに・・したというの・・・」
「そう、あなたはDNAFAに選ばれた特殊な人間、DNAFAパラサイターなのよ!」
彼女の言葉に、私の(抑制)という名のブレーカーが、落ちた。
「・・・・かってに・・勝手に決めるなぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」
ベキベキベキベキグォォォォォォァァァァァァアアアアォォォォォォッッッッ!!!!!
私の身体はビッグバンを起こした!!全ての筋肉が怒りによって極限に盛り上がった!!
「・・・その力で、私をどうにかしたいのね?麻沙子?人間の私を」
「っはぁはぁはぁ・・・そうだとしたらどうなの!!」
彼女は手を顎に当てて、考え込んだ。なんか、偉そうだ。
「なら言うけど、あなたは産まれる前からDNAFAによってそうなる運命だったのよ。その身体にDNAFAを宿す事は、全て決定づけられていた事。そうしなければ、・・あなたは・・・三日後に死んでいたわ・・・」
彼女の言葉を受け、私は更に握り拳に力を入れる。
腕の血管が筋を成し、更に筋肉が膨張してゆく。
「証拠は!?私はいつだって健康だったよ!!」
「なら、ここ数日、あなたは学校を休んでいたそうね。何故かしら?
今頃なら軽い夏風邪かしら?違う!!
DNAFAの移植予定部分の場所、しかも染色体レベルでの部分腐食が始まった事による
栄養失調なのよ!!」
・・・そうだ。ここ数日は、身体が辛かった。それがあの夢を見たから日から、
今まで以上に体調が良かった。彼女の意見の合点が合っているかも知れない。
しかし、力が溢れて止まらない!覚醒したばかりだから、私の抑制がきかない!!
「あぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!ち、力がぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」
この時も、彼女は冷静でいた。
科学者なんて人は、みんなそんなものなんだろうか?
と、いう考えも怒りの真紅に溶け込み、体の内のマグマが煮えたぎっている。
ふいに頬を伝う涙も、煮え湯のように熱く感じた。
「まだDNAFAをモノにしていないのか・・・。無理も無いわね・・・ミーシュ!」
彼女は一人、女性を呼びつけた。
刹那!彼女の隣に、いつの間にかボディコン姿の女性が立っていた。
「!!」
そうなのだ。私はこの人を夢に見たことがある。
「ミーシュ、少しでいいから麻沙子の相手をしてあげて。
どうやら彼女、このままだと此処を破壊してしまいそうな位に荒れてるから。
ストレスを絞り出したあげて。ミーシュなら出来るわよね?」
「もちろんよ、アリス。あのDNAFAが相手なら、少しは楽しめそうだから。
終わったらティータイムにしましょ。
今し方、美味しいマロングラッセが出来た所だから」
「と、言う訳で麻沙子、あなたのイライラ、解消してあげるわ。
そして、三人でティータイムにしましょう」
私を恐れていないのか?ティータイムなんて言って。
私は、なめられているのかも知れない。なんか、むかついた。
「(くっ・・・、見てろよ!!私の力・・・見せてやるっ!!)」
私は、私のいた部屋から数十メートル離れているトレーニング場へと案内された。
と、言うより、私の両手には電磁手錠がかけられ、囚人さながらの扱いだった。
「悪いが、暴れられると困るのでな。少し我慢してくれ」
と、屈強な黒スーツの男にくぎを差された。
「あなたには興味ないよ。私も暴力とか、嫌いだから・・・」
私はたしかに怒ってはいたが、この時は自意識や正常な思考は出来ていた。
しかし、力は今にも私を狂戦士へと変えようとしていた。
やがて、そのトレーニング場に到着した。
「ほう・・・・」
私の入っているボクササイズ部の部室の、数十倍の広さだった。
色々なトレーニングマシーンや、エアロバイク、奥にはサウナ室もある。
そして、その広大な広さの部屋の中心には、プロレスリングがあった。
「さぁ!上がってらっしゃい!辛抱たまらないのでしょ?」
リング上には、先ほどのボディコン女性がいた。
銀色に映える少し長めの髪、まるでスーパーモデルの様な肢体に、
鋭く美しいプラチナの瞳に、格好いい赤のハイヒール。
どれも私には無い女性美に溢れていた。
「私は、ミシュル・北野・ハンター。ミーシュでよろしくてよ。辛抱堪らないあなたのお相手をつとめさせてもらいますわ。よろしく、麻沙子」
銀の鈴を鳴らしたかのような涼やかな声に、私は緊張した。
しかし、なんとも上品な人だろうか。完璧なレディーとはこの人の事を指すのだろう。
私は、きっとこの人を地に叩き伏せる力がある。ただし相手は人間。
さぁ、どうしたものか?やってみるしかないだろう。
「さぁ、楽しい一時を過ごしましょう」
「分かりました!!どうなっても知りませんよ!」
とりあえず、私はミーシュさんと戦う決心を固めた!
「あらあら、近くで見ると、本当に凄い身体をしているわね。惚れ惚れいたしますわ」
私は、嫌だ。こんな身体は女性らしくない。
逆にそう言われると、皮肉にしか聞こえないので、気が悪くなる。
「いやぁ、ミーシュさんだって色白だし、スーパーモデルみたいですよ!」
と、言うや否や、ミーシュさんは表情を変えた。
「これでも、そう言いきれるかしら?」
ミーシュさんは、ボディコンの上着部分を脱ぎ捨てた。
「!!・・・・・な・・・」
私は絶句した。ミーシュさんの上半身には、無数の生々しい傷跡があった。
無数の弾痕の様な傷や、深く刻まれた縫い跡。
素肌をさらす事で、これほど印象が変わるものなのだろうか・・・。
「私の人生、半分は他人の血のりで出来ているのですわ・・・私は、スイーパー。これまでに命を懸けてアリスを守ってきた。
その都度、アリスに襲いかかってくる者を片っ端に葬ってきた。私の全身、悪人のどす黒い血によって汚れている。これでも、私はあなたにとって尊敬に値するのかしら?」
私は、今まで普通の女子高生だった。この人は、私と次元の違う人だ。
「あなたのその筋肉は、所詮未完成。たしかに私の筋肉はあなた程じゃない。だけど、あなたの筋肉には、決してひけはとらなくてよ!」
ミーシュさんは身体全体に力を入れ、筋肉をウォーミングさせてゆく。
すると、たしかに私程ではないものの、華奢に見えていた身体に力強さが現れた。
ぐぐぐぐ・・・・・っっっ。
ミーシュさんの肉体が、女性美を残しつつもしなやかに、逞しくなっていく。
その姿は、その傷口をも美しく魅せていた。
「さぁ、本当の戦いというものを教えてあげますわ!かかってらっしゃい!!」
私はまだ、電磁手錠をはめられたままだった。このままじゃ両腕が使えない。
「ダァァァァァァァァッッッッッッッッッ!!ふんっ!!!」
ヂヂヂ・・・・・ヂヂ・・・ブツン!!
電磁手錠は、私の両腕の筋量に耐えられずに四散した。残骸がマットに散らばる。
「まぁ!逞しいこと。やりがいがありますわ」
「これが、あなた達が与えてくれた力なんでしょ!!DNAFAって言う!!」
先手必勝!私は先に仕掛ける事にした。力に溢れた右腕がミーシュさんを欲した。
それは、今にも意志を持ってミーシュさんを砕かんとしか思えないほどの勢いだった。
「ダァァァァァァァッッッッッッッッ!!!!」
「ええ、元気があってよろしくてよ、ただ・・・・」
私のパンチは完全にミーシュさんを捕捉していた。
だが、その刹那!私の視界からスッと消えた。
「ど、どこっ!?」
「ただ、猪突猛進というのは、動きが単調すぎましてよ、麻沙子」
ミーシュさんは瞬時に私の側面に移動していた。なんてスピード・・・。
ミーシュさんは、私の強まっている右腕に触れていた。
「太くて、逞しい腕・・・。素敵ですわ、麻沙子。でも・・・」
ガシシシッッッッ!!!
右肘に痛みが走った!ミーシュさんが異常な握力で掴んでいた。
「なっ・・・・!!!っつ!!」
「お気を付けなさい!力に慢心していると、こうなりましてよ!!」
グゴゴゴキッ!!
「・・・・・っああああぁっっっっっっっ・・・・・っっ!!!!」
ミーシュさんは私の右肘の関節を完全に破壊した!
刹那、右腕に重力がかかる。重くて、堪らない!!
「つっ・・・・ミーシュさん・・・・容赦無いですね・・・・・」
「そうですわね、戦場で容赦なんてしていたら、命がいくつあっても足りなくてよ。・・・さぁ、肘をやられただけで参ったなんて、無しですからね」
「・・・同感!・・・私だって・・・意地があるっ!!!」
私は今度は両足の筋肉に力を注いだ。みるみる内に太腿が盛り上がってゆく!
「だぁぁぁっっ!!」
私は高々とジャンプし、上体に捻りを加える。遠心力をフル活用して、
ミーシュさんに対し、回し蹴りを繰り出す!
「はっ、ほっ、まだまだですわよ、麻沙子!」
ミーシュさんは、私の蹴りを華麗なステップでかわしてゆく。
「さぁ、今度は私の番でしてよ!はぁぁぁぁい!!」
私の着地が終わるや否や、ミーシュさんの鋭い蹴りが次々とヒットする。
ダメージは、軽い。だが、その蹴りは至る所に入るものの、一カ所に強く入っている。
・・・みぞおち。ピンポイントに確実に入れて私を倒すつもりらしい。
いくら私が筋肉の鎧をまとっていても、これ以上は・・・まずい!
その時だった!
「(・・・!!う、動く!?)」
私は、右肘の回復を実感した。
「(よしっ!・・・ここは、チャンスを待つっ!!)」
ミーシュさんの蹴りの引き際、決めの一撃に要するチャージ時間が、狙い目!
「次で、フィニッシュですわよ!!」
スッと、ミーシュさんが決めの蹴り足を引いた。今だっ!!
「ッッダァァァァァァァッッッッッッッ!!!!!!!」
ボゴォォォォォオオオオッッッ!!
「!!!・・・ぐっ・・・アァァァァァアッッッ・・・!!」
私の拳は、ミーシュさんの腹部に完全にめり込んだ!遂に、捉えた!
勢いで、ミーシュさんの身体が吹っ飛び、ロープの反動でこっちに飛んでくる!
「シャアアアアアアッッッッッ!!!」
ガシシシシシッッッッッ!!
私は帰ってきたミーシュさんの細いくびれを掴み取った!
そのまま、圧倒的筋力で高々と持ち上げた。
「どうですか?ミーシュさん?」
私の握力によって、ミーシュさんの身体が軋み、悲鳴を上げる。
「・・・そう・・・そうでなくては・・・」
「さぁ!私はもう・・・こんな事したくないよ・・・降参し・・・なっ!!」
私の目前に、黒光る物体。・・・・拳銃だ!
「45口径のワンスオブサウザント、スイートスティーブ。私の相棒ですわ。(彼)の洗礼を欲するならば、どうぞ私の身体を捻り潰しなさい!」
「くっ・・・・銃なんて・・・卑怯ですよ・・・」
「私の世界に(卑怯)なんて言葉、存在しませんわ。そして、私の戦いに(敗北)なんて言葉も無くてよ!そろそろ放していただけません?トリガーを引いてしまいそうですわ・・・」
「くっ・・・・」
私は、ミーシュさんを解放した。彼女は軽く腰をストレッチした。
「・・・私の・・・負け・・・です」
私は全身の力を抜いた。元の体型に戻っていく・・・。
「いいえ、あなたの力は凄いものですわ。覚醒したばかりとはいえ、自在に肥大、自己修復できるのですもの。DAAFAの力は、まだまだ謎に満ちてるわ・・・。ですけど、あなたなら、使いこなせますわ・・・」
「そう・・・でしょうか・・・?」
私がそう言うと、ミーシュさんは真っ直ぐな視線を私に向けた。
「私は、これからもアリスを守らなければいけませんの。アリスには、いろいろと貸しがありますから・・・。しかし、あなたの力も必要なのですわ。外宇宙からの驚異に立ち向かうには、あなたに宿るDNAFAの力が・・・」
「私の、力が・・・必要・・・」
「その話は、三人でお茶でも飲みながら話しましょ」
リングに、アリスさんが上がってきた。
私はこの戦いで、二人が悪人と違う事は認識した。
私を必要としてくれるのは、正直嬉しかった。
ただ・・・。
「ちょ、ちょっと待って下さい!・・私はただ普通に・・・」
すると、アリスさんが踵を返した。
「普通の生活には、残念ながら戻れないわ。あなたもこの一件に関わってしまった。サイコトロンを全滅させたのだから、あっちもあなたの事、認識してるわ」
・・そうだ、私はあのサイコトロンなる連中を倒している・・・。
「まぁ、ここで立ち話もなんですから、テラスでティータイムにしましょ!ほら、ミーシュも、麻沙子も、ねっ!」
アリスさんは、私とミーシュさんの手を引いた。
「なら、教えて下さい!私の事とかDNAFAの事とかを!!」
「・・・分かってるわ。私の、今教えられる範囲で良ければね」
この後、アリスさんから語られる事に、私は目を背けない決心をした。
「(ケイ・・・私、逃げないよ!この運命から・・・)」