続・鋼のワルキューレ
さとみたち横浜ワルキューレ(女子アメフトチーム)は、オカマのアマゾンエースこと井上忍率いるゴリラ女軍団・船橋アマゾネスを苦戦の末倒し、アマゾンエースの野望を打ち砕いた。解散したアマゾネスのメンバーを吸収して戦力向上したワルキューレは、キャプテンの「黒鋼の雌豹」早川奈緒美を中心に、次なる目標に向かって、練習を再開した。
大阪にあるアジア初の女子アメフトチーム・大阪マジョーズに挑戦するのだ。彼女らは、今年ワルキューレとアマゾネスができる前は唯一の女子チームのため、公式戦の経験がなかった。しかし、それは逆に、常に練習試合では、男子チームと対戦していることを示す。フットボールが盛んな関西だけあり、選手層が厚いことも予想される。
さて、先の試合で大活躍した佐川さとみ(28歳)は、その活躍と、高校時代の実績を買われ、新人ながらも、攻撃担当の副将に就任した。アマゾネスからの選手が加わったった結果、ラインの大幅な強化が達成され、今までラインだった子のコンバートも行われた。
「こらー!もっと腰を落とす!」さとみの怒号が鳴り響く。
グランドに響く甲冑のぶつかる音・・・。その主はうら若き女性たちであることは驚きである。
「ジャンヌ、気合が入っているな」
「あ、キャプテン!」
キャプテンのアテネこと早川奈緒美だ。黒光りする肌、短く刈り込んだ髪、服の上からもわかる隆々とした筋肉、モデルなみのプロボーション・・。
全身から、闘志と躍動感が放射される。鷹のような鋭い目、しっかりとした白い歯、それほど太くはないのに、全く無駄がなく太い筋肉と血管が浮き出した逞しい腕・・。まるで、獲物を狙う雌の黒豹のような、獰猛かつしなやかな女だ。彼女は「ウーマン」「レディ」というよりは、「フィーメル」と呼称したほうが似合う。彼女らの絶対的リーダーだ。
「みんな集まれ〜」
雄叫びのような集合の狼煙が上がる。ガチャガチャ鎧の音を立てて集まる選手たち。
「おい、アタシは今大阪から戻った。奴らとの試合は、来月の15日だ。アウェーとなる。それから・・・・
敵チームには、今年のボディビル日本代表とアメリカのプロレスラー、それとソフトボールの日本代表エースが加わったようだ。しかも、二軍とはいえ、阪神学院大学との練習試合に勝ったようだ。これは、半端な練習ではつぶされるぞ。いいか、技術とスピードでは負けていないんだ。やつらに勝つためには、体作りだ。それも、あと3週間で・・。難しいけど、やるっきゃないよ!わかったね」
「ハイ!」元気のいい返事が響く。
「キャプテン、うちの夫(ひと)に頼んで見ます」
「そいつはありがたい・・。頼む。佐川クンたちの胸を借りられれば、鬼に金棒だ」
そして、彼女たちの昼夜を問わぬ特訓がはじまった。もちろん、仕事や家庭を持つもの、学生、ほかの競技種目の選手もやっている者が多く、全員がそろっての練習は日曜日の定期練習だけ。その分、スポーツクラブや自宅での各自の鍛錬が重要となる。
ここは、奈緒美の勤務するクラブ。彼女は、元ボディビルミス日本であり、短距離の日本記録も持っていた。彼女の生い立ちは、すさまじく、母は彼女を産んでまもなく亡くなり、外交官だった父に育てられたのだが、ちょうど幼少時アフリカのジャングル地帯の大使として赴任した父とともに渡航し、その地で、土人や野獣を相手に遊んで育ち、帰国後も厳格な父によりほとんど男の子として育てられたため、男勝りな性格と野獣のような肉体が身についたのである。どんなスポーツもこなし、オートバイやスポーツカーを乗り回す、野生の女なのだ。
黄色いレオタードら身を包んだ奈緒美。「ハイハイワンツー」明るくハキハキした声で受講生たちを熱血指導。「女」の部分をわずかに覆い隠すだけの薄布。しかも、その隠した部分でさえ、克明にそのディテールが浮き上がる。ばねのような腕、大地を蹴り挙げるような足、ギュツと細く絞られたウエストと、レオタード越に浮き上がる段のついた腹筋。錨型だが、肩幅そのものは狭いほうなので、不思議とごつさは感じられない。飛び散る汗・・。
はつらつとした彼女の表情は、厳しさの中にも常に明るさを持っている。
勤務時間が終わっても、彼女がこの施設から離れることはない。そう、今度は彼女自身の特訓の時間なのだ。
トレーニングルームに入った奈緒美は、鏡に向かってポーズをとる。ムキムキと盛り上がる筋肉。「グウォォォォォォォーーー!」声にならぬ咆哮とともに、黄色いレオタードはびりびりに破れ、その一糸まとわぬ鋼の肉体があらわになった。全身黒光りしている。低い円錐状の乳房にはポッチがついている。これは普段服の上からもはっきりわかる。小さいが、非常に形が整っている。コリコリとした尻・・。女性としてはかなり小さいが、ウエストが細いため十分に見える。太ももの付け根の部分が筋肉でえぐれている。そして、禁断のフロント・・・は、密林に阻まれてよくわからない。
いずれにせよ、すさまじく発達した筋肉だが、微妙な曲線と、全体的な細さで、どう見ても女、いや「雌」に見える。
「ポキ」「ギシ」すさまじい音を立てて準備運動をする奈緒美。一本一本の筋肉が、伸縮するのがわかる。
そして、いろいろなトレーニング機器をひとつづつこなし、ベンチプレスを開始した。なんと、いきなり120キロ、体重の2倍である。
「ふぬ」難なく挙げる奈緒美。ちょうどそこに、ほかの利用者が入ってきた。
「!」声も出ない。全裸の女性が、120キロのバーベルを上げている。ちょうどこちらにむかってぱっくりと足を広げていて、その中身が丸見えだ。剛毛に覆われたそこからは信じられない「物」が。なんと彼女の栗は幼児のペニスなみの大きさだたのだ。
鼻血を噴出す男。
「ち、ちょっと先生、いくらなんでも、は、裸は・・・」
普通ならばよだれたらして喜ぶはずなのに、あまりものすごさに、逆に恐怖を感じたのだ。
「あ、あんたいたのか。ちょうどいい、ウエイト左右20キロづつ追加してくれ」
「・・・・」奈緒美は平然として答えた。それに対して男は、返答できずにだまって指示に従った。
「フン」160キロに上がったバーベルも簡単に挙げた。
「おい、あと40」ついに、200キロ上げてしまった。
男も、負けじと挑戦してみた。100キロは余裕で上がった。彼も決してひ弱なほうではない。120、160・・。きつくなったが何とか上がる。
「いくら先生でも、女などに負けてなるものか!」
グチャ・・・・・・。
200キロを上げたものの、次の瞬間胸に落としてしまった。しかし力を使い果たし、再びあげることはできない。
「情けねーなほれ。」奈緒美は、片手で難なく取り除くと、男を起こした。
「あんたもいい線いってるよ。ちょつと力みすぎなんだよな。呼吸のタイミングにゆとりをもって。そしたら、あと20は上がるよ」
「あ、ありがとうございます・・・」
場面変わってこちらはさとみ。夫の隆司のチームの練習に参加させてもらっているのだ。
紅白戦で、夫妻は白組として出場した。QBである夫の手を離れた楕円のボールは、敵味方多数の頭上を越え、エンドライン付近の妻の手へ・・。タッチダウン!
「・・・。思い出すなあ、あの時を・・・。」
それまで、女の子だったこともあり、全くボールをキャッチできなかったさとみ。走りこみをすれば必ず周回遅れになり、それでもも必死にくらいついてくるさとみ・・・。そんなお荷物、いや場違いだと思っていたさとみ。しかし、ほかの誰よりも競技を愛し、勝利への執念を燃やし、そして・・・主将である自分を尊敬しそして愛していたさとみ・・。やがて、隆司にとっては理想のレシーバー、そう、競技においても、私生活においても・・、になっていく。さとみのやさしい気配りと判断力に、隆司の天才的頭脳が絡んだとき、ボールは魔法の力でさとみの小さな手に吸い込まれ、いくたびかの勝利を得た。敵がインターセプトしようとしても、ものすごい勢いではじかれ、一度さわっさても溢してしまう剛球。それが、なぜかさとみの小さな手には、まるで赤ん坊を手渡すように、やさしく入ってしまうのだ。あの、さとみのデビュー戦の吉本戦、さとみの最後の試合、そして隆司の高校最後の試合のときもそうだった。前者は、決勝点、後者は、唯一の得点だった。相性の問題かもしれない。大学・社会人と強豪チームで活躍をつづける隆司だが、いまだに彼にとって一番投げやすいレシーバーは、さとみなのだ。もっとも、夫婦となり毎日キャッチボールしているせいもあるのだが。
「いやー、いつ見ても不思議だ。さすが夫婦。いや、生まれる前から二人の間にはロープが張っているみたいだ」
「運命の赤い糸?」「ガハハハハ・・・・」赤組は悔しがるが、大いにほめた。
だがさとみは知っていた。QBが隆司だからこそ、男にまじってでもある程度活躍できるだけで、実力はまったく下だということを。
「あなた・・・。来週、あたしたちと練習試合して。お願い」
「水臭いぞ。もっと早く言え。みんな、来週は家内たちのチームと練習試合するからな。解散」
そして、練習試合の日がやってきた。がつちりと握手を交わす隆司と奈緒美。
「佐川クン、胸を借りるね。」
「こちらこそ。女だからといって手は抜きません。怪我しないように」
「痛・・・この女、ただものじゃない・・・」握力が、奈緒美の方が強いようなのだ。
さて、ワルキューレ先攻でのキックオフ。勢いよくぶつかる選手。しかし、ワルキューレのラインは全員倒されてしまった。QBの奈緒美は、自ら持って走る。走る、走る!早い。エクスプレスの選手が追いつけない。そして、あっというまにダウンを奪う。これには、両軍驚きの歓声を挙げる。
つづくセカンドダウン。奈緒美の突進は止まらない。ディフェンスのふがいなさに、エクスプレスは屈辱の交代を告げる。隆司がはいたのだ。
そして、ついに、あと僅かでエンドゾーンというとき。奈緒美の球は、レシーバーのさとみの手に。そこに立ちふさがるのは、夫の隆司。
(さとみ・・・。この俺を倒せ。)
QBとしては異例の大型選手である佐川隆司。その巨体が華奢なさとみのいく手をさえぎる。妻だからといって容赦はない。ああ、潰される・・万事休すか・・。そのとき驚くべきことに、馬とびのようにタックルしようと腰を落とした隆司の頭上を飛び越えて、タッチダウンを決めたのだ。
勢いづくワルキューレ。
だが、エンジンのかかってきたエクスプレスの反撃で、得点はこれだけに終わり、結果は大敗だった。一流選手が二人だけいても、やはり男子、しかも強豪チームにはかなわない。だが、大敗にもかかわらず、彼女たちの表情は明るい。帝急エクスプレスから得点した、そのことが大きな自信になったのだ。倒されてしまったとはいえ、男性の当りを逃げずに受け止めたことも自信になった。そうして、ついに大阪へと乗り込む日がやってきた。
「行くよ、みんな」「ハイ」奈緒美の気合を十分だ。
さて、会場となる万博グランド。おお、いたいた!あれが古豪・大阪マジョーズだ。「魔女」と「ジョーズ」にひっかけて、魔女の格好をした
鮫のロゴマークが不気味だ。
敵の主将・大和田アケ美とガッチリ握手する奈緒美。正々堂々の勝負だ。
しかしでかい。アケ美の身長は2メートル近くあった。足も大きい。どことなく、鬼子母神を思い浮かばせる風貌だ。ほかの選手たちも、いかついヒグマのような者、細身で般若のような顔をした蛇のような者、みなすごい面構えだ。
鬼子母神率いる夜叉軍団、それが大阪マジョーズ。
対する我らのワルキューレは、戦いの美神・黒鋼の雌豹をリーダーに、かつて弱体公立校に神奈川県を制覇させた伝説のジャンヌダルクを擁する乙女たち。戦いの火蓋は切って落とされた。
さとみのキックオフで敵の攻撃が始まる。す、すごい。なんという足の速さだろう。敵のランニングバックの走力は只者ではない。しかも、早いだけではない。「キャア」見方のタックルは逆に弾かれ、悲鳴を上げる。そう、彼女こそ奈緒美に代わりボディビル女子日本一になった、江崎真弓だ。その細身ながらも力強い戦いと、振り乱す長い髪はまさに般若そのもの。そこに、女の意地をかけて挑む奈緒美。
ガチャーン。大激突。見事、真弓を倒すことに成功した。「まだまだ若いものには負けられない!」若作りだが、奈緒美はもう35歳。チャンピオンだったのも10年も前のこと。それが、現役チャンピオンに打ちかかったのだ。しかし、こちらの衝撃も大きい。足を引きずりながらも立ち上がった。
このすばらしいプレーで、攻守逆転。奈緒美のロングパスが、さとみへと行く。だが・・・。
「ああっ!」なんと、敵にインターセプトされてしまった。取ったのは・・・敵の主将・大和田アケ美だ。彼女の異常に長い腕が、常識では絶対に届かないパスコースをさえぎったのだ。アケ美を倒そうと、必死にすがる選手たちだが、体格が違いすぎる。男よりも大きいアケ美の足に取り付いても、ふりほどかれるだけだ。そして、今度はその長い手で、再びボールは真弓に。その真弓に迫る奈緒美。だが、そこに割って入った黒い壁・・。
「お、女?」その壁にぶつかった奈緒美のヘルメットは、その壁に食い込む。そして、その弾力で弾き返された。人間の腹だったのだ。
胸をゴリラのように叩いて雄叫びを上げる壁・・。彼女こそ、新しく加入した新戦力、女子プロレスラーのレディギドラ選手だったのだ。
ついに、先制されてしまった。
怒涛の攻撃はつづく。敵のQBは、変わった投げ方・・下手投げで攻撃してくる。彼女の本業はソフトボール。そう、全日本のエース、内海妙子選手なのだ。その変則的な投法に、コースが読めず翻弄される。しかし、そこに付け入る穴があった。味方も取れないことがあるのだ。
そして、これを倒すのは、やはり、われらのさとみしかいない。先ほどのインターセプトには本当に悔しい思いをした。よし、こんどはこっちがインターセプト返しだ。
妙子の投げた球は、不規則な弧を描き、アケ美のほうへ。アケ美の長い腕がそれをつかみかけたとき。
さとみは、アケ美の懐に飛び込み、体を反してこれをインターセプト。勢いあまったアケ美は転倒。そして、そこから猛然とダッシュ。そこに、レディギドラが迫る。150キロの巨体が飛び、さとみを襲う。だが、さとみはわざと敵のもう一人のタックルにむかって突進、軽い体を生かして同士討ちさせ、そのままエンドゾーンへ。ギドラに潰されたマジョーズの選手は、哀れ複雑骨折して退場になってしまった。夫・隆司譲りの頭脳プレーだ。
キックも決まった。黄色い歓声を上げ喜ぶワルキューレの仲間たち。
怒りに燃えたアケ美、真弓、ギドラを中心に、怒涛の反撃。さとみも奈緒美も、何度も倒されてしまった。だが、エクスプレスとの練習で受身をしっかりと身に着けた彼女らに致命傷はない。逆に、じりじりと押し始めた。
本性を現したマジョーズは、卑怯な反則を仕掛けてきた。しかし、愛と正義のワルキューレには通用しない。だが、やはりアマゾネスからの選手を迎えたとはいえ、層の厚さではかなわない。こちらは攻撃・防御半数づつしか入れ替えられないのに、むこうは傷ついた者をひっこめたり休ませたりしてとっかえひっかえ選手を繰り出してくる。スタミナ的に限界になってきた。
再び押し返されるワルキューレ。その差わずか1点。大ピンチだ。
そのときである。さとみの目に、恋しい夫・隆司の姿が見えた。仕事を切り上げて駆けつけてくれたのだ。可愛いわが子・大輔もいる。
勇気100倍したさとみの闘志がよみがえった。その気持ちは奈緒美やほかのみんなにも伝わり、渾身のパスがさとみに通った。そして、なんとさとみは、3.3倍の体重のギドラの正面突破を試みた。エンドゾーンの先には、いとしい夫・わが子が待っている。さとみに今、「母の強さ」が加わった。
ボヨーンと吹き飛ばされるレディギドラ。タッチダウン。その後のリターンもきまり、そこで試合終了。
さとみと奈緒美を中心にしたワルキューレは、マジョーズに勝利した。
「ほんま、ええ試合やったわ」「こちらこそ」
ガッチリ握手をかわす両主将。戦いが終わった後わだかまりはない。両チームとも面を取れば、か弱い(一部例外あり)女性たち。整列して、観客席に礼をする。
(さとみ・・・よくがんばったぞ)(いいえ、あなたのおかげよ)言葉はないが、うなずきあっただけで意思の疎通は図られるのだ。
そして、ベンチにひきあげきたさとみにとびつく大輔。「ママー!かっこよかったよ」
そこに、隆司もやってきた。
「奈緒美さん、みんな、今日はいい試合を見せてもらった。これからもうちの家内を頼む。そして、お礼といっては何だが、紹介したいお方がいるんだ」
「えー。有望な新人?」
オッホン。偉そうな咳払いが聞こえた。
「残念ながら違うぞ」
「アーーーー!あなたは」一同驚き。そこには、いかにも陰険そうな紳士が。彼のことを知らないやつは日本にはいない。彼こそが、日本一の大富豪・帝都急行電鉄グループ総帥の武藤啓太氏だったのだ。隆司たちのチームのオーナーでもある。ちなみに、奈緒美の働くスポーツクラブも、さとみの実家のある分譲地を開発したのも、すべて彼の系列であった。さらに、東部と西部を除く首都圏の全私鉄は、実は会社が分かれているが帝急の息がかかっているのだ
なんと、この前のエクスプレスとの練習を見て興味を示し、今日の試合を観戦して、感激し、スポンサーになってくれるとの申し出なのだ。具体的には、エクスプレスの兄妹チームとして、全面サポートしてくれるとのこと。今まで自前だった遠征費も出してもらえる・・・。願ったりかなったりだ。
「オッホン。いまどきのおなごは元気があってええ。ワシは気に入った。佐川君もええかみさんをもったなあ」
戦いに勝利を収め、パトロンをも得たワルキューレの進撃は、まだまだ続くのであった。