鋼のワルキューレ

あの、激しい試合から10年・・・。佐川隆司は、京王大学で活躍ののち、X1リーグ上位の帝急クラブエクスプレスの主将として活躍をつづけていた。

専属トレーナーとなった妻・さとみの献身的サポートと合理的トレーニングメニューにより、更にパワー、テクニック、スピードともに磨きがかかり、目下日本一のQBと呼ばれている・・・。しかも、磨きがかかったのは肉体だけではない。エクスプレスは、帝都急行電鉄主体のチームだが、会社のチームではなく、クラブチームである。隆司は、京王大学法学部を主席卒業し、司法試験も突破して、スポーツ障害専門の弁護士として開業し、チームの顧問弁護士もかねているのだ。QBは、最も頭脳を必要とされるスポーツ競技者だが、隆司は、まさに完璧なプレイヤーとして完成されていた。

一方、妻のさとみ・・・かつて、高校時代、唯一の女子プレイヤーとして、夫で主将だった隆司とともに、弱体極まりない県立立花高校を、常勝軍団に変える原動力となり、アメフト界のジャンヌダルクと呼ばれていた彼女だったが、大学進学後は選手としては引退し、トレーナーとして隆司をはじめとする仲間を支えて、卒業と同時に結婚、現在は弁護士事務所の秘書を兼ねながら、夫のトレーナーとして、チームへのかかわりを保っている。

かつては男子顔負けの強靭な肉体を誇り、倍以上ある敵のタックルにも耐えた彼女だったが、5歳になる長男・大介にも恵まれ、競技からも遠ざかった事もありふっくらと女らしさを取り戻しつつあった。が、しかし、現在も夫のトレーナーとして、最低限のトレーニングは続けているため、引き締まったスタイルには変わりなく、整った力強い四肢に、女性らしいやわらかさが加わった、独特の美しさをかもし出す「いい女」になっていた。残念な事は、既に人の妻であり、子の親であることである・・・。

 

さて、アメフトに明け暮れほとんど弁護士としての仕事をしない隆司に代わり、事務所の切り盛りをしているさとみだが、仕事などほとんどなく、また、トレーナーとしての活動もさほど忙しくないので、だんだん退屈になってきた。そこで、元々体を動かしたり鍛えるのが好きな彼女、大介をつれて、スポーツクラブへ通いだした。そんなある日・・・・。

「さとみ!、ひさしぶり!覚えている?」

「あっ!、マミ!」そこで、高校時代同じチームのマネージャーだった高野マミと再会したのだった。

「佐川クンと仲良くやってる?あ、聞くだけ野暮だよね、そんな可愛い坊やもいるし・・・」

「もう!。ところでマミは?」

「・・・・・。」振られたの・・・。

「がんばらなきゃ、」

「いいわね、あんたは・・・。あ、そう、紹介したい人がいるの」

マミは、さとみを奥のほうへ案内した。

「紹介するわ。インストラクターの早川奈緒美さん・・・・。」

「はじめまして、キミが佐川さとみさんね。マミから聞いてたわ」

そこにいた女性は、浅黒い肌に全く無駄のない肉体、それでいて余計な太さのない整った体つきで、そのうえ全体のプロポーションはあくまで女性的、しかしそこらの男ではとても太刀打ちできない鋼鉄の肉体をもった、さとみたちよりやや年上、30代半ばぐらいの、雌豹を思わせる人物だった。

「こちらこそ、はじめまして。佐川さとみです」

「ね、ね、さとみ、見て!」マミが、一枚の写真を取り出す。

「へぇ〜!これ、マミ?そしてこっちは奈緒美さん?」そこには、ピンクのユニフォームのアメフト選手たちの写真が写っていた。そのなかに、奈緒美とマミの姿もあったのだ。

「あのさあ、あたし、ずっとあんたがうらやましかったんだ〜。けっこうマネの中にはさ、みんなと一緒にプレーしたいって思ってる子多いんだよ。でもね、やっぱ、あいては男の子だし、怪我とか考えると、マネで我慢って感じなの。実はあたしもその口だった。でも、あんたは違ってたわ。ほんと、偉いと思ってた。あ、ちがうよね、あんたはフットボールが好きなんじゃなくて、佐川クンがすきだったんだもんね〜」

「もう!その話はよしてよ。奈緒美さんも笑ってるじゃない。ところでマミ、このチームは?」

「それかい?それはアタシがさ、マミみたいな女の子に声かけて結成した女子チームさ。つまり、キミをスカウトしたいってこと」

マミをさえぎるように、答えたのは奈緒美だった。

「え?あたし・・・でも、あたしもう10年もやってないし・・。」

「何いってんのよ。他の子は、奈緒美さんも含めて、全員今年はじめたばかりの素人よ。ていうか、女の子でフットボールの経験あるのって、あんたをふくめてほんの僅か、すくなくとも知ってるかぎりはあんただけよ。すごく頼りにしてるんだから」

「・・・・。よ〜し!いっちょやったるか!・・でも隆司さん、許してくれるかなあ・・・」

「心配ないって。それに、いちどやるときめたら、誰が止めても無駄なのは誰だっけ?」

「よし、話はきまったな。さっそく、今度の日曜のあさ9時に、隣町のグランドで。」

 

帰宅したさとみは、隆司にいきさつを話した。怒るどころか、「いままで、俺のために縛り付けてごめんな。思いっきり暴れて来いよ。あ、せっかくだから、大介も連れて行け。そのうち、俺もコーチしてやるさ、ハハハ・・・」

「パパ、ママもパパみたいにすごい選手なの?」

「そりゃもう、パパより強い唯一の選手だよ、ハハハ・・・」「もう!」

そして、約束の日曜日がやってきた・・・。

「いやー、おそくなってごめーん!」子連れのためか、少し遅れてしまったさとみ・・・。すでに、奈緒美をはじめとするメンバーは準備体操を終えていた。

「きにするなって。おーいみんなあつまれ〜」

キャプテンである奈緒美の号令で、15人ほどの選手たちが集まる。そして、整列して面を取る・・。

「まず、初めに言っておくけど、あたしらの目標は、こいつらを滅ぼすこと!」

奈緒美は、雑誌記事を広げた。

【本当に女か?女性フットボーラー大暴れ】そこには、千葉に出来た女子アメフトチームが、某大学チームに挑み、相手の過半数を病院送りにする圧勝をした、そして、その選手たちの防具をはずした肉体の写真が添えられ、本当に女なのか疑わしい面々が写っていた。

「いい?あたしは、強い女、美しい女を目指して、体を鍛え、そしてこのチーム「横浜ワルキューレ」を作った!でも、奴らは強い女の意味を履き違えた化物だっ!強いだけではダメ、女を磨かなくちゃいけない。あいつらにこれ以上暴れられると、戦う女、強い女の評判は悪くなるばかり・・・。お嫁にもいけなくなっちゃうわ。そこで!マリアがすばらしい仲間を誘ってくれたのさ。紹介する・・あ、いやまずあたしらの方が先だね。それと、うちらはみんなチーム内では、本名じゃなくコードネームで呼び合っているから、よろしく。改めまして、あたしはキャプテンでQBの早川奈緒美、通称「アテネ」スポーツ経験はボディビルとバスケ。よろしく!」

「さとみ・・・。あたしは分かるよね。ここでは「マリア」って呼ばれてるの。ポジションはガード。高校・大学時代はアメフトのマネージャー」

「うちは熊田朋絵・・・通称「巴御前」。うちは本名とニックネームが同じだから、覚えやすいでしょ。センターなん。よろしくね」

その他、「バルキリー」「紫式部」「クレオパトラ」「ダイアナ」「ビーナス」「マチルダ」「アルテミス」「アフロディーテ」など、歴史上の美女、女神、女戦士にちなんだ仲間たちがつぎつぎ紹介される。皆、若く美しく、しかも引き締まった体の持ち主ばかり。そして、意外な事に、その過半数はアメフトのマネージャー出身だった。キッカーの「ビーナス」こと石川美奈子は、なんとチア出身。ハイキックはお手の物、っていったところ。しかも、彼女は現在でも現役のチアも続けている。

マミの言葉どおり、マネージャーの多くは、その立場に物足りなさを感じていたのだ。そして、ついにさとみの番・・。

「佐川さとみ、旧姓林。高校時代ちょっとかじった程度だけど、みなさんの役に立てたらいいな、って思います。もうこんな大きい子供もいるおばさんだけど(28歳)、若いみんなに負けないようがんばります。」

「をいをい!ここじゃ28は若いほうだぞ。まあ、人妻はキミを入れても3人しかいないけど。さとみ!きょうから、キミは、「ジャンヌ」だ。っていうか、チーム結成したときから、目をつけていて、この名前と背番号をとっておいたんだ。さあ、これを!」

真新しいユニフォーム・・・。そこには「ジャンヌダルク♯17」と記されていた。そう、10年前、高校アメフト界を沸かせた♯17番のジャンヌダルクが、今ここに蘇ったのだ。

さて、敵である船橋アマゾネス・・・。全員175センチ・80キロ以上(最大は185センチ120キロ)の巨体の、人間というよりはゴリラのメスに近い集団である。彼女らは全員、男性や社会、そして美しい女性に対し、激しい憎しみを抱いた歪んだ心の持ち主で、謎の覆面キャプテン・アマゾンエースの指示で体を鍛え、スポーツクラブ荒しや道場破りを重ね、ついにアメフトチームを結成したのである。そして、先日ついにその牙を某高校に向けたのである。この醜い女集団を倒すには、おなじ女性の聖なる騎士団が必要なのだ。そこで、エリートインストラクターの奈緒美がクラブに集まる若く美しく逞しい女性を集めて結成したのがこのワルキューレなのだ。

そして、その日から、ワルキューレたちの激しい練習が始まった。ガツン、ガツンと、まさか女?と疑うほどの激しい当たり。重い防具をつけての走りこみ・・・。グランドだけではない。クラブでも、激しい筋力トレーニングに励んでいるのだ。しかし、奈緒美の合理的プログラムにより、必要な部分に必要なだけの筋肉が得られ、プロポーションを阻害する醜い余分な筋肉はつかないように配慮されていたので、乳房が潰れたようなメンバーは誰一人いなかった。これが、敵との大きな違いである。合理的に鍛えれば、でかいだけの相手は倒せる、という信念によって。

さとみは、あざだらけになって帰宅するようになった。しかも、いっしょにくっついていく息子の大介が、まだ幼稚園なのに、彼女らとほぼ同じメニューをこなしていることも驚きである。最強の両親の薫陶を受け、まさにアメフトの神童としての道を歩み始めたのだ。

さとみの特訓は、仲間たちと一緒の時間にとどまらない。毎朝、夫であり日本を代表する名手の佐川隆司とともに、走りこみ、キャッチボールをし、タックルの練習をこなす。1m87、102キロの夫へのタックルによって、突進力を身につけ、夫のタックルを受けることにより、恐怖心を克服した。

激しい筋力トレーニングもかかさない。

2.5倍の体重の隆司を肩車してのスクワット。一度上下するだけで、肩にのしかかる圧力。「ひぎぎぃ」苦痛に歪むさとみ。

「がんばれ、勝ちたいんだろう?」励ます隆司。今度は、さとみの足を持って、さとみは腕の力で歩行する。背中に息子を乗せて死重とする。これにより、腕の力も鍛えられていく。まさに、夫婦親子一体となった特訓なのだ。

「さとみ・・・。思い出すなあ、あの頃を・・。俺は、こうして自らの限界に挑むお前が好きだった。そして、お前が強くなることにより、俺は更に強くなれた。今の俺があるのは、みんなお前のおかげだ。今度は、俺の持てる全てを授けて、お前の復活を助ける番だ」

ただでさえ、強豪チームの一員と弁護士の両立をしている隆司だが、最愛の妻の、新たな挑戦には、前面協力の構えだ。

「パパもママも、がんばれ。ボクはパパやママよりもっとがんばるよ」ひとつぶタネの大介の存在も、二人の絆をさらに大きくした。二人の共通の夢は、大介をNFLの主力QBに育て上げる事なのだ。まさに、フットボール馬鹿の夫婦である。そして、大介もすっかりその気になっている・・・。

 そして、さとみと隆司には、もうひとつの秘密のトレーニングがあった。というより・・・夫婦の営みといったほうが分かりやすい。

一日中毎日激しく運動する二人・・。その最後の仕上げは、夜、布団の中で行われる。極限までに鍛え抜かれた二人の体は、よく自然発火しないものだと思われるほど激しく交わり、互いを締め上げ、密着する。筋と筋が絡み合い、隆司の巨大な根を、さとみがガッチリ咥えて締め上げる。お互い、このパートナーでなければ出来ないほどの力で突き上げ、締め付け、絡み合う。一方が他の人間ならば、砕け散ってしまうだろう。

そして、この行為により、筋肉トレーニングでは使われない部分の筋肉をも鍛えるとともに、二人の愛の力により、さとみの中の女の部分が刺激され、同時に女性ホルモンをも分泌されて女性らしい丸みを彼女の肉体に与える・・。けっして大きくはない彼女の乳房を、隆司の大きな手が包む。その刺激により、乳腺が発達し、以前はほとんど平だった胸も、いまやまずまずの大きさ、いや、小ぶりだが、かえって形が整ったすばらしいものに変わった。

鋼の筋肉と女性らしい丸みの両立、それにはこのような秘密があったのだ。

しかし隆司は、内心、自分の試合や練習のとき、息の合ったトレーナーであるさとみがいないのが、少しだけつらかった。

さて、打倒アマゾネスに燃えるワルキューレのグランドに、意外な男が、傷だらけで現れた・・・。なんと、隆司だ。

「あなた!」「佐川選手!」

「ここのキャプテンはキミか?」「ええ」

「おれたちエクスプレスの練習グランドに、奴らが乱入してきた。いきなり練習試合を申し込んできたのだ。女だと思って馬鹿にして、2軍中心に相手したら、このざまだ。俺だけは、ずっと出ていたが・・・・。」

「佐川さん、スコアは?」「36−12だ。」「え?2軍中心とはいえ、帝急エクスブレスが?」

「やつらは、卑怯な手を使ってきた。俺たちの当たりに、セクハラだ、エッチだとか騒ぎ立ててくる。本来遠慮することはないのだが、みんなそれで当たりが鈍くなって、それで負けてしまった。そのくせ、女とは思えない巨体で迫り、巧妙に目潰しや肘うち、足掛けをしてきた・・。選手たちはみんなやる気をなくしてしまい、得点は全部俺一人で・・・。そのせいでこのありさまだ。」身体中、傷だらけ。しかし、本来あってはおかしい引っかき傷などもあった。

「みんな・・・。奴らを倒せるのは、やはり女である諸君だけだ。妻の話だと、試合は2週後らしいじゃないか。よし、短い間だが、俺がコーチしてやる。絶対に勝ってくれよな。」

「うそー!」「うれしー」みんな、大喜びだ。特に元マネ、チア組にとって、佐川隆司はあこがれの的で、それを射止めたさとみはある意味怨嗟の対象でもあったのだから。

「みんなにもうひとつ言っておく。奴らの筋肉はハリボテだ。10中8,9、薬を使っているな。でかいだけで、重さや強さを感じられなかった。まあ、男の俺とちがってみんなは華奢だから、油断はできないが、本物の強さをアピールするいい機会だ」

「佐川クン・・。あんたも、そう見たんだ・・・。やっぱりな。アタシが奴らをつぶそうとする狙いもそこよ。」

「早川さん・・。といいましたね。妻がいつも世話になっています。スポーツ界の秩序のためにも、がんばってください。ボクも、協力します。」

がっちり握手をかわす隆司と奈緒美。

やがて、決戦の日曜日を迎えた。

堂々と敵地に乗り込む、さとみら横浜ワルキューレ。そこには、恐るべき敵が待ち受けていたのだった。

キャプテンの奈緒美と主務のマミが、先行して敵の陣地へあいさつとメンバー表を交換に行く。その間に、さとみたちは、スタイルしていく。

ただでさえパワフルな肉体美を誇る彼女たちは、ポジションによって5〜10キロもある防具を身に纏い、更に力強く変身していく。露出した腕やふくらはぎの盛り上がりも逞しい。シルエットだけで女性と判断する事は難しいだろう。しかし、そのユニフォームは可憐なパステルピンクに彩られ、ヘルメットからはみ出す長い髪の毛が、女らしさを醸し出す。無骨な鎧にピンクの衣・・・。戦う乙女たちの姿は美しい。

ところで、奈緒美とマミが遅い・・・。スタイル完了したさとみたちは、不安ながらも更衣室を飛び出し、グランドに出ようとしたときだった。

バタン。そとからドアが開く・・。そこには、なんと、ぐったりしたマミを抱いた奈緒美の姿が・・。

「マミ!いや、マリア!」

鋼鉄の雌豹の奈緒美も、傷ついている・・。「みんな、絶対この仇を!」

メンバー表交換のため、相手方のクラブハウスに入ったマミは、いきなり敵の選手に締め上げられ、天井に叩きつけられ、嬲られたのだ。外で待機していた奈緒美が不審に思い突入したときには、既に全裸にされ、化物女たちに攻め立てられ、両手両足を編みこまれ、ぐったりしていたのだ。アバラが数本折れていた。奈緒美は、敵を蹴散らし、マミを救出したものの、自らも擦傷を負ってしまった。普通なら大怪我なのだが、さすが鍛え方が違う。彼女は人間というよりは、雌の黒豹に近い肉体を持つため、その程度ですんだのだ。本来なら試合を中止して公権力に訴えるべきところだが、彼女の戦士としてのプライドがそれを許さなかった。あくまで試合で決着をつけるのだ。

親友を傷つけられたさとみの怒りも頂点に達した。鍛え抜かれた四肢の筋肉は、怒りでふだんの倍ぐらいに盛り上がり、見えないところだが、いつもは女らしいやわらかい脂肪に覆われた腹筋も浮かび上がり、さらには体内の男性ホルモンが誘発されたのか、栗も大きく立ち、そのため、ユニフォームが破れてしまった。日差しを受けて光る肉体!しかしぐずぐずできない。まだスタイルしていない奈緒美ともども、大急ぎで着替え、戦列に戻ると、救急車で運ばれるマミの手を取り、堅く誓った。

「マミ!あんたの仇はこのあたしが絶対とるから、安心して病院に行ってちょうだい。」

「うぉぉぉぉぉぉぉっ!」雄たけびを上げたさとみは、先頭に立ってグランドになだれ込んだ。整列・・。いよいよキックオフだ。

コイントスの結果、残念な事に敵の先攻となった。キッカーは本来は美奈子だが、元々コンタクトすることを前提としていないチア出身の美奈子では、化物のタックルを受けた場合の危険が大きいため、さとみが抜擢された。敵陣になるだけ深く蹴り込んだ方が有利だ。全神経を研ぎ澄まし、けりこむさとみ!楕円のボールは弧を描き、敵陣深く突き刺さる。それを拾い上げた敵の突進が始まる・・・。

この試合、元々15人しかいないのに、マミを敵の闇討ちで失い、キックしかできない美奈子も除くと、実質13人での戦いを強いられる事になり、全員が攻守兼任(ふつうは攻守別々の22人以上いる)、リザーブはわずか2名の圧倒的不利なワルキューレ。

本来ワイドレシーバー(攻撃)のさとみも、守備ではタックルとして、果敢に敵に挑む。つぎつぎ、はじき返される仲間たち。青天(ひっくりかえされること)どころか、悲鳴を上げて吹き飛ばされる仲間たち・・・。鍛えぬかれ、かつ防具をつけていても、か弱い女に過ぎない彼女たちに比べ、敵は、本当に女なのか、いや、本当はゴリラなのではないかという巨体で、次々ダウンを奪う。何とか、当たることができるのは、さとみ、奈緒美、巴の3人だけだ。ただでさえ人数が少なく、怪我人を出すとまずいので、奈緒美は、3人だけでディフェンスをするように切り替えた。さとみの責務も重くなる。

あと1つダウンをとられると一巻の終わり、最終ラインはさとみだけ・・。

しかし、高校時代から男子に混じりプレーし、かつ夫に日本一の名手・佐川隆司を持つさとみにとって、身体が大きいだけのアマゾネスの選手など、まるでダミーと同じで、いとも簡単に倒してしまった。試合前にも、隆司やそのチームメートの胸を借りて当たりの特訓をした彼女にとって、100キロ程度の選手は敵ではない。しかも、同じ体重でも、女の100キロと男の100キロは全く違う。逆に、ひっくり返った亀のようにもがくアマゾネスの選手。攻守逆転だ。こぼれ球を拾ったさとみは、独走してダウンを奪い、一度は倒されたものの、見事先制のタッチダウンを奪った。湧き上がる歓声、黄色い悲鳴を上げて狂喜する仲間たち・・・。ジャンヌダルク伝説の再現だ・・。つづくキックも決まる。7−0で先制だ。

しかし、怒り狂ったアマゾネスは、遂にディフェンスバックに謎の覆面キャプテンが入り、執拗にさとみを集中攻撃してきた。

10人いる仲間のうち、彼女の盾となりうるのは、巴ただ一人・・。QBである奈緒美は、敵とさとみの間には入りえない・・。つまり、迫り来る敵のタックルをはじき返せるのは1回だけで、あとは逃げ切るか、自ら跳ね返すしかない。

実力的に、さとみ>敵>奈緒美・巴>>>>>>>>他のワルキューレの仲間、となっており、残念ながら特訓もむなしく、仲間たちはあてにならないのだ。

奇声を上げぶつかってくる敵を、さとみは軽快なフットワークでかわしていく。中学時代は陸上の短距離の選手だったさとみの走力は、天性のものだ。

しかし、異常な速さで執拗に、さとみだけをつけねらう赤い影・・・。覆面キャプテンだ・・・・。

他の選手たちとはちがい、均整の取れた細身の身体ながら、バネのような肉体と、カメレオンのように長い手で、さとみに迫る。そして、ついにその手が、さとみを捉えた。ガシャン。激突する二人。

しかも、どさくさにまぎれて、とみのデリケートな部分をわしづかみにした。厚手の生地のフットボールパンツの上からながらも、その悪魔の爪は確かにそのやわらかい部分を掴み取った。フロントパットとヒップパットの僅かな隙間のある真下から手を入れてきたのだ。ぴくっとした感覚に一瞬動きが止まるさとみ・・・。「畜生!」ヘルメットを叩きつけるさとみ・・・。その部分は、夫以外の誰にも触れさせた事のない大事な部分だった。

しかし、攻守交替にはいたらず、その場から次のダウンが始まった。奈緒美は、敵の攻撃をそらすため、今度は自らが持って走った。

チーターのように、ダイナミックに走る奈緒美。そこに、ゴリラの群れが襲い掛かる。しかしテクニックはともかく、体力と体格ではさとみをも上回る奈緒美は、これをことごとく跳ね除けて、突進。だが、覆面だけは、それに目をくれずさとみに襲い掛かる。これが、ラグビーとの一番の違い・・ボールを持っていない選手にもタックルできることである。そして、その目的は、さとみを倒す事ではなく、辱める事である事が判明してきた。

こんどは、わざとベルトのラインを狙い、パンツをずり下ろしたのだ。そういえば、かつての高校時代のデビュー戦のときも、さとみのパンツはずりおち、そのときは、更にその下までがめくれていまい、大事なところが白日に晒されたが、今、その再現がなされた。もっとも、今回はスパッツのため、そこまでひどくはなかったが。

「この野郎!わざと狙ったな」しかし、敵はすぐに離れていく。憎しみと怒りに燃えるさとみ。『マミを嬲ったのもこいつに違いない・・』

ここで、前半終了のホイッスルだ。スコアは7−0かろうじて勝っているが、ペースは完全に向こうにある。

そのとき、病院からマミが一命をとりとめたことが伝えられた。胸をなでおろす一同。

その頃、敵陣では、下半身の防具を剥ぎ取られた選手たちが、覆面主将に、ムチで尻を叩かれ、お仕置きをされていた。

「この役立たずのクサレデブどもが!こんど抜かれたらこうしてやる!」彼女は、選手の一人の尻の穴に長い風船を突っ込み、破裂させた。糞を噴出し悶絶する選手・・・。味方にまで非道な奴だ。 青くなるその他の選手たち。

そして後半・・。敵は、あえてさとみと奈緒美を無視して、弱い選手を襲ってケガをさせ、棄権させようとする卑怯な戦術に出てきた。奈緒美とさとみは、絶妙なコンビでそれを察知・妨害し、反撃に出たものの、ついに同点に追いつかれてしまった。それ以上の追加点はゆるさなかったものの、ダイ3クオーター終了時、ワルキューレは2名欠の9人での戦いを強いられてしまった。しかも、ケガで退いたうち一人は、唯一の壁、巴だった・・・。大ピンチ。そして、最後の第4クォーターが開始された。

このクオーターをとったほうが勝利。そして、負けたほうは坊主頭にされた上解散しなくてはならない・・。どちらも、気迫がこもる。

だが、体格と人数に劣るワルキューレは押され気味だ。大ピンチ。そのとき、さとみの脳裏に、逆転の発想が思いついた。「頭をつぶせ」

さとみは、逆に覆面に向って、猛烈なタックルをかました。「がっしゃん」激しくぶつかり、両者とも吹き飛ぶ。よろめきながらも立ち上がったさとみは、思わず声を上げた・・・。「あっ!」

なんと、覆面キャプテンは、男・・・。青天し、ピクピク痙攣しているその男は、股間をもっこりとさせていた・・。

しかし、覆面のため顔はわからなかったが、試合前の防具をしていない姿は、筋肉質ではあったが、女性そのものであった・・・。

女性チームに男性が入っている時点で、アマゾネスの反則負けだが、試合は続行された。しかし、指揮者を失い、しかも、驚愕の事実に狼狽するアマゾネスはワルキューレの敵ではなく、試合はワルキューレの勝利に終わった。

全員、怪我を負い、汗だくで掴んだ勝利・・・。

さとみと奈緒美は、覆面の男を引きずり立てると、その覆面を剥ぎ取った。さとみは、更に驚く。

「あ、あんたは・・・。井上忍?!」 すっかり、女性の顔になっているが、面影がある・・・。なんと、覆面キャプテンの正体は、高校時代さとみと隆司のライバルだった、吉本工業高校のキャプテン、井上忍だったのだ・・・。

彼は、女だけの家庭に育ち、女のように育てられたが、反発して中学からアメフトを始め、一時は隆司をもしのぐ選手になった。だが、卒業後、いろいろなトラウマから、結局ゲイの道に入り、そこで知り合ったおなべや、醜い風貌のため男に愛されない女やデブをあつめ、徹底した扱きで化物のような怪獣人間を作り出して、男や美しい女性に対する復讐心をあおり、人数がまとまったため、アメフトチームを結成、最も屈辱を受けた佐川夫妻にその矛先を向けようとしたのだ。だまされ、利用されたと知り、忍に襲い掛かるアマゾネスたち。

そこに、たちふさがったのは、奈緒美だった。

「こんな屑に対して怒るだけ無駄だ。約束どおり、あんたたちのチームは今日限り解散だ。だが、坊主になることはない。今日からは、あたしたちと一緒に、美しき戦士になろうじゃないか。そして、大阪マジョーズに挑戦しよう!」大阪マジョーズは、関西に出来た女子チームで、アメリカ帰りのコーチがついて強力とのうわさだった。

「でも・・・、あたしらは、あんたたちとちがって、醜いし・・・。」

「心が美しければいいじゃないか。それに、身体だって、あたしたちといっしょにトレーニングすれば、きっと美しく引き締まるさ。」

「・・・。」感激するアマゾネスの選手たち・・・。

一方、さとみは、まだ忍を睨みつける・・・・。

「なんであたしをそんなに恨む?」

「アタシは・・・、あの試合の後、女に負けた、やっぱりお前はオカマだ、と馬鹿にされ、フットボールをやめざるを得なくなった・・・。

それと、吉本に入り、中学時代乗り越えられなかったあんたのダンナに勝てたと思ったのに、最後にまた実力の差を見せ付けられた・・。

家の美容院の手伝いをしているうちに、やっぱり自分は女に生まれたほうがよかったのかと思い、本当にオカマになった・・・。でも、フットボールは捨てきれず、店に集まるあいつらが、男や美女を恨む気持ちと大きさに目をつけて、このチームを作ったのさ・・・。でももうこれで全てが終わりだわ。みんな、あたしを恨んでる。もう、あたしは二度とフットボールも出来ないし、男にも女にも戻れない・・・」

「いや、フットボールは出来るぞ。俺は、待っている」

「あ、あんたは、佐川・・・」隆司がさっそうと現れたのだ。

「俺はお前のセンス、情熱、そしてヘビのような執着心を昔から知っている・・。もう一度男に戻って、俺に挑戦してみろ。俺は、いつでも受けて立つ。」

「さ、佐川、あたしは・・・いやオレは・・・」

よろめきながらも立ち上がった忍は、ポニーテールに結んだ髪を切ると、「佐川・・・待っていてくれ。必ずもう一度お前に勝ってみせる」

「待っているぞ」手を差し出す隆司・・・。そこに、さとみと奈緒美、さらに、まだ小さいさとみの子・大介の小さな手も重なる・・・。

「しかし、井上・・・。俺は知っていたぞ。」

「何?」「とぼけるな。お前は10年前と変わらないってことだ。こいつに・・・。こいつに惚れてたんだろ。本当は」

「え〜いやだ〜マジ?」さとみはびびる。

「ママってもてたんだね」(大介)「色女はつらいなー」(奈緒美)

「お前の視線はいつもこいつのケツばかり見ていたからな。ま、俺もそうだったがな」

(一同大爆笑)

「もう、あなたったら〜」

「いいじゃないか。だからこうしてこの大介も生まれた・・・。」

「佐川クン、さとみ・・・。あんたらは本当に幸せだな。よし、あたしももっと女を磨いて、いい男取るぞ、おい、あんたも、はやく男になって、佐川クンとの約束果たせよ。じゃ、また」

奈緒美は、倍以上に膨れたチームをまとめ、大阪との対決という新たな目標にむけて新たな決意をした。

忍もまた、男として、そしてフットボール選手として、かつてのライバルの寛大な心と友情に打たれ、再出発することになった。

日も暮れ、それぞれ新たな道を目指して去っていったグランドに残った佐川ファミリー。

彼らもまた、人間として、フットボール選手としてさらに自らを磨き、そして、まだ幼い大介を必ず世界一の選手(隆司は、日本一の選手で、さとみは、女性としては一番の選手と自他共に認められているが、息子にはさらにその上を託しているのだ)に育て上げるという夢に向って、誓いを新たにしたのであった。

終。

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