花婿試験(中巻)

花婿試験 中巻

気が付くと、花嫁の顔が俺をのぞき込んでいた。

「ま、まだ生きてるのか?」と当たり前の事を聞いてしまう俺。

『頬骨が折れて失神しただけよ。ヒグマの頭を潰す位の力を入れたのに。本当に頭固い人ねぇ〜。頭蓋骨も合格!』
な、なんて奴だ・・・と驚くのにも疲れて来ている俺。

「すると、試験はまだ続いてるのか?」
と思わず問い返した俺。

『そうよ。あなたが失神した所で時計を止めてあるから、残り時間はあと14分ね。別に時計を止めないでそのまま続けても良かったんだけど、抵抗できない状態での試験は不公平だから、待ってあげたのよ。』
と彼女。

「あれから、実際は何分たった?」

『あなたが失神していたのは、7〜8分位よ。それも充分驚くべき短さね。さあ、立って。あなたは試験に合格するか、死ぬまで私と闘い続けなくてはいけないのよ。』
合格したとしても、こんな花嫁、本当に欲しいのだろうか?

『あと、こう見えても私お料理もお裁縫も得意なのよ。それにお婿さんには思いっきり尽くしてあげたいと思ってるの。』
まるで俺の疑問を見透かしたかのような言葉だ。

あと14分か。もともと失う物は何も無い俺だ。こんな花嫁との暮らしも一興だろう。何かが吹っ切れた俺は、ゆっくりと立ち上がり、全身を見回す。

頬の痛みは鈍痛になっている。応急処置はしてくれたらしい。両腕は上腕部の挟まれた部分が見事な青あざになっている。きっとあの攻撃で何本もの腕を挟み潰して来たのだろう。

『じゃあ、始めるわよ』
の声に我に返った俺は、無意識のうちに彼女にタックルを仕掛ける。俺の動きを見ていた彼女は、かえってこの無意識の行動に不意を打たれ、俺に押し倒される。すかさず彼女を俯せにすると彼女の右腕を背後に決めて、その上に乗りかかる。

『あら、意外とやるわね。最初から本気を出せばいいのに。でも、こんなのでは私を押さえた事にならないわよ』
と言うと、左手を片手腕立て伏せの位置に持っていき、背中に俺を乗せたままで片手腕立てで上体を持ち上げる。俺のバランスを崩そうと何度か上げ下げするが、何とか右腕は決めたまま持ちこたえる。

このままでは早晩振り落とされるので、決めた状態の右肩にパンチを一発食らわせてそのまま彼女の背から離れる。さっきと違って決めた状態からだから、ひょっとするとダメージになったかも知れない。

『いったぁ〜い・・・今のは効いたわよ〜。こっちも本気出しちゃうからね』

言ってる程効いた風には見えないので、念のため何のダメージもあたえてないつもりでかかろう。

今度は花嫁の方から襲いかかって来る。動きは見えているのだが、ダメージの蓄積により体が思うように動かない。完全にはよけきれないと判断した俺は、逆にこちらから突進する。

ドガッ
正面から激突した俺は、あっさりと吹っ飛ばされるが、狙い通り彼女の右肩にぶつかる事には成功。しかしぶつかった衝撃で俺の左肩が脱臼してしまう。

『発想は良かったけど、体がついていかないわね。でも少しは効いたわよ〜』
と相変わらず効いているのかいないのかわからない花嫁。

再び俺めがけて突進する花嫁。今度は右肩を使って迎え撃つ俺。

ドガン
さっきより派手な音と共に吹っ飛ばされる俺。俺の右肩も、左肩同様に脱臼する。彼女は・・・何てことだ、全然効いていない。やっぱり演技だったんだ。

両腕が脱臼し、なかなか起きあがれない俺の所に来ると、彼女は俺の足を4の字固めに決めると、こう言った。

『もう腕は合格だから、残りの部分を調べさせてもらうわ。ちなみに肩も今ので合格よ。私のタックルはヒグマの肩を砕くんだから、脱臼で済めば御の字よ。暴れられると面倒なので、脱臼を直すのはあなたが合格した後ね。じゃあ、まずは脚から行くわよ』
と言うなり、責めが始まる

メキメキメキッ
骨がきしみ、ひびが入る音がするが、それ以上にはならない。ただ猛烈に痛い。

『よし、合格! 次は、腰ね』
今度はサソリ固めに決められ、同じく骨にひびが入るが、力を入れて必死に抵抗したおかげで完全には壊れない。

『腰も合格!次は、背骨!』
と言うと、彼女は俺をあっさりと担ぎ上げ、バックブリーカーの体勢に入る。

メリッメリメリッ・・・
背骨が嫌な音を立てるが、必死で抵抗する。一体残り時間はあと何分なんだ!?

『あと2分よ、ちなみに試験項目もあと2つね。』
また俺の心を読んだかのような返答をする彼女。

『背骨も合格!次は首よ!』
と言うとそのままネックハンギングツリーに持ち込む。首の筋肉に精一杯の力を込めて耐える俺。

『首も合格!最後はさっき中断した肋骨よ!』
しまった、ベアハッグが残っていた。だから腕を脱臼させたままにしたのか・・・・

『右腕が痛いから、今度は脚で締めるわ』
と言うとボディーシザースの体勢に俺を捕らえる。

たちまち俺の胴より太い筋肉の柱が俺の肋骨を締め上げる。息を止めて踏ん張れば辛うじて抵抗できるが、息が続かなくなったときが最後だ。残りは1分少々のはずだ・・・たちまち耳鳴りがし、目の前が暗くなって行く。10,20,30秒が過ぎて行く・・・く、苦しい・・・40・・・もう、限界だ・・・50秒・・・だめだ〜・・・

ついに息を吐き出す俺。同時にメリメリメリッと言う嫌な音を立てて俺の肋骨が砕けて行く。胸を襲う激痛にのたうつ俺の耳には、天国の鐘の音が聞こえてくる・・・・鐘の音につつまれて、俺の意識は消えていった・・・・・・

 

鋭い痛みが俺の意識を呼び覚ます。

「痛い!」
思わず叫ぶ俺。天国では痛みは感じないはずなのに・・・やっぱり俺は地獄に堕ちてしまったか・・・

「ここは地獄のどこだ?」
思わず口に出す俺。

『地獄なんて失礼ね。』
ありえない声がする。おそるおそる目を開く俺。

そこには、再びウェディングドレスに身を包んだ花嫁の顔があった。

「お、俺は生き延びたのか?」
彼女に尋ねる俺。

『まさに間一髪って所だったわよ。ベルが鳴るのがあと1秒遅かったら、あなたの肋骨が全部肺に突き刺さっていた所だったんだから。』

「で、何本やられたんだ?」

『6本が完全に折れて、あと4本にひびがはいっているわ。全治2ヶ月って所ね。』

『お目覚めの所いきなりですまんが、早速君と娘との結婚の儀式を執り行おうと思ってな。何、披露宴はお前さんが回復した後じゃよ。』
と資産家、いや義父の声がする。

「ほ、本当に俺みたいなのでいいんですか?」
と両人に聴く俺。

『もちろんじゃ。娘と取っ組み合いの一つもできない婿では、いざと言う時に頼りにならん。それに、お前さんは最後まで逃げなかった。それが一番大事なのじゃよ。』

『それに、私にケガを負わせたのもあなたが初めてだわ。』
と花嫁の声

「えっ、じゃあ右肩への攻撃は・・・」

『最後になって急に痛み出したので、最後の肋骨は脚を使ったの。靱帯損傷、全治2週間ですって。あなたは、ジェニファー・キーティングに傷を負わせた最初の対戦相手となったのよ。』

「ジェニファー・キーティングって・・・・そっか、約束だったもんな。」

ここで、脇に控えていたらしい牧師の声が割って入る。

「汝、ミクル・スロヴェニーは、ジェニファー・キーティングを妻として娶り、病める時も、健康な時も、富める時も、貧しき時も、死が2人を分かつまで愛し、尊重することを誓うか?」

「誓います」

「汝、ジェニファー・キーティングは、ミクル・スロヴェニーを夫とし、病める時も、健康な時も、富める時も、貧しき時も、死が2人を分かつまで愛し、尊重することを誓うか?」

『誓います』

この後、指輪交換、キスと続いたが、そこで問題が発生した。今の俺の状態では、花嫁を抱いて外に出る事など到底不可能なのだ。

『心配しないで』
とジェニファーが言うと、俺をゆっくりと抱き上げて外に出る。恐らく世界最強の花嫁に抱かれた、たぶん世界で2番目に強い花婿・・・・
ま、こんな形の夫婦が世界に一組くらいあってもいいか・・・・

つづく

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