【Culpable Weapon】

アースグローブの北北西に位置する大きな大陸・・・・・・タルタロス。

草一本見つけることも出来ない不毛の大地。

その大地に突如として見い出せるのは、天に届けとばかりに聳え立つメガロポリス・パラノイア。

人は誉め称える……世界の中心、麗しの『魔科学都市パラノイア』と。

それは間違いではない。

計算され尽くして立案された都市計画。

それに従って建設されたメガロポリスが世界で最も美しい都市であることを否定出来る者はいないだろう。

パラノイアは上空から見下ろせば十角形であり中央に位置するのがパラノイア、そして世界を支配する企業・トライアンフの本社ビルである。

地上100階の巨大ビルディングは、下に住んでいる人達を見下ろすかのように、そして更なる向上を目指すかのように天を目指して聳えている。

都市外縁の10箇所平等の距離で築かれているのが、パラノイアを象徴するとも言われている10基の魔科学工場だ。

タルタロスの地中深くに存在するマナを地上にまで導き、万能エネルギーに変換している。

生み出される膨大なエネルギーはパラノイア全てにエネルギー供給しても尚、余り有るものだった。

正にトライアンフは財力でも権力でも不動の地位に立っていた。

そんな中、トライアンフ本社100階……つまり組織を束ねる長たる者、俗称『総帥』の部屋に2人の人影がある。

片や悪趣味とも言える上下金色のスーツを着こなし、チョビヒゲをしている老年こそ世界を牛耳る最高実力者にしてトライアンフ創立者、キング・バイス総帥。

もう片や身長が高く、角刈りの黒髪に堀の深い顔に右目にある刀傷が厳つい人物を物語っている。

ガッチリした筋肉質の身体を覆うかのように濃緑の軍服を着ているが、それすらピチピチになっており服の上からだというのに大胸筋や腹筋が見えている。

巨漢の軍人と言ってしまえばそれで終わりなのだが、1つだけ言うなら夜道に絶対会いたくない人という風貌である。

その男はトライアンフ治安維持部統括・セブン元帥だった。

「また失敗したそうだな……」

豪華なデスクに肘をかけ、顔の前で手を組んでいるキングの言葉には、やや怒気がこもっていた。

「100回目の討伐を越えているというのに、未だあの兵器を捕獲すら出来ないのか?」

蛇にも似た目を鋭くさせ、幹部を睨みつけるキングだがセブンは直立不動のまま返答する。

「お言葉ですが、我が治安維持部の兵士達は優秀であります。今まで倒れていった兵士達の名誉の為に言えば、逃亡したシアの力量が並外れているという事にあります」

「シアはウェポンなのであろう? ならば、同じタイプのウェポンを投入するだけで事は順調に進むのではないのか?」

「そこの所は私もデュースやナインに詰問をしました。ところが2人の答えは『不審な点がある為、投入するのは見送っている』との事であります」

セブンの言葉にキングは冷ややかに答える。

「ふん……兵器開発には時間とお金が掛かるから、それをドブに流すような真似はしたくないからではないのか?」

「それはありません。デュースやナインは自分が開発したものは興味本位と欲望で試運転をする悪いクセがあります。今回のようにシアが逃げたとなれば新たに別の兵器を開発し、テストも兼ねて実戦投入します。それをしないという事は、本当に不審な点が出たのかと思います。それを解決するまでは、恐らく同型機のウェポンを投入しないのは目に見えています」

セブンの見解にキングは訝しげな表情を浮かべながら、自分の部下にして手駒の幹部を睨み続ける。

両者は黙ったまま顔を見続けている。

数秒の静寂が続いた中、キングは組んでいた手を解き椅子から立ち上がる。

そのまま後ろを向き、これでもかというくらい大きな窓から夜景を眺めながら、こう言った。

「ウェポンが使えないなら、君の部署お抱えの部隊にシアの捕獲を命じよう」

「そ、それは……まさか≪デック≫をですか?」

キングの指令にセブンは思わず声をあげる。

 

総帥の言った≪デック≫とは、トライアンフの中で最強を誇る私兵でウェポンが開発されると同時に結成された精鋭部隊で、今はセブン元帥が統括する治安維持部の直属配下である。

彼等の活動内容はキングやセブン等といった幹部級部署統括者の護衛や、各国に潜伏している反乱分子の抹殺だが、基本的に≪デック≫が出動するのは一般兵士では解決出来ない特殊な事件や、大規模な作戦に出動させるのみである。

≪デック≫の他にも様々な部隊が存在し、トライアンフが起こした≪ハザード≫の成功裏には他の部隊がやった事であり、彼等が出動したのは殆ど無い。

つまり、それ相応の事態にならない限り、彼等が出動する事はまずないのだ。

キングは僅かに苦笑を漏らす。

「違う違う。奴等を出すのは最終手段だ。ワシが言っているのは≪カード≫の事だ」

総帥の言葉に、今度はセブンが怪訝そうな表情を浮かべる。

「あいつ等をですか?」

≪カード≫の存在は組織の者なら誰もが知っている部隊である。

活動内容はあらゆる調査や要人の誘拐・暗殺・脅迫・スパイなど様々な裏の仕事をこなす少数エリート部隊で、これも現段階では治安維持部に所属している。

しかし汚れ仕事が主な内容と、いつ命を落とすか分からない仕事という事もあり、この部署に配属希望する者は少ない。

その為、調査部に入る者は決まって命知らずの荒くれ者達ばかりである。

だが、諜報活動は目を見張るものがあり、戦闘能力も≪デック≫と同等という噂があるから、そういう面では色々と使い易い部隊である。

「不服かね?」

キングは身体の向きを変え、セブンに目をやる。

「いえ、そういう訳では……ただ……」

「ただ、何か?」

「奴等の主任が了承するかどうか……」

部下の口篭る言葉にキングは意に介しない様子で答える。

「心配するな。ワシ直々の命令と言えば動く。お前もあいつの扱いは出来ないみたいだな」

「はぁ……あんな奴が何故主任になれたのか理解に苦しみます」

「そう言うな。あれでもワシの息子の1人だ……上手くやってくれる」

「で、ですが……」

「下がれ」

食い下がろうとするセブンに話は終わりだ、と言わんばかりにキングは再び彼に背を向け、黙り込む。

こうなったら何を言っても聞かないとセブンは上司の性格を知っており、彼は渋々ながら一礼して静かに退室していった。

 

≪カード≫があるのは本社ビルの地下1階に位置する。

地下という事だけあってか周囲は薄暗い。

天井に何本か電灯は点いているが、あまり明るくないため気弱な人が入れば恐がるくらい奥は深淵の闇が広がっている。

その中に彼等は今日も仕事を待っている。

室内には6つの机と椅子があり、「社員」達がそこで仕事を、

「暇だぜ、まったくよー」

…………全くしていなかった。

「これといって任務がないってぇのもなぁ〜……考えモンだよなぁ。腹減ったし」

そう言っているのは坊主近くまで刈り込まれた頭とボクサー並にある筋肉質な肉体。

黒いレザーシャツを着ているが筋肉により服の許容範囲が越える寸前なのかピチピチで、黒い長ズボンを履き、いかにもテキ屋の兄ちゃんを思わせる風貌である。

名はハートといい、彼は今、自分の右手に持っている大きな木製ハンマーを素振りしている。

「さっき夜食を食べたのに、もう空腹なんダスか? ハートの胃袋はポリ袋かブラックホールみたいダスね」

やや呆れ気味に呟いているのはハートとは対照的に絞り込まれた細い体で、帽子を被りサングラスを装着、薄緑色のTシャツに赤いサスペンダーのついた茶色い長ズボンを履いている男性。

名はクラブで彼は今、両手に装着している鉤爪の先で器用に煙草を吸っている。

「ハート殿の空腹癖は一向に治らないとみえよう………まぁ、太らないよりかはマシか。だからといって筋肉だらけになるのも、些か問題かもしれぬが」

古臭い言葉を並べながらも会話をする男は大五郎カットをし、黄土色のトレンチコートを着た男で暴走族のリーダーと思うような格好をしている。

名はダイアで彼は今、この≪カード≫のメンバーで唯一デスクワークをしている真面目な調査員である。

「仕事がねェと殺し出来ねぇじゃねぇかよォ。誰でも良いから殺りてェぜ!」

血気盛んというより危ない発言をしているのは金髪のオールバックにパチキを剃り、白い普通のシャツに紫色のダボダボの皮ズボンと丸っきり無頼者だと分かる男が匕首に舌なめずりをしている。

男の名はスペードといい、この4人の中では1番危険な性格をしている。

「張り切るのは良いんですけどねェ〜♪ 仕事がないとする気になれませんよねェ〜♪ あっ、ロードさん。もうちょっと力強くしても良いですよォ〜♪」

10人中10人脱力しそうな声を発している人は金髪逆毛で顔を白く塗り、丸くて赤い付け鼻を装着し、右目には緑色の『☆』マークと左目には黄色いハートマークが描かれ、桃色の道化師服に青紫のマントをしている。

いかにもふざけている様な格好をしているが、これでも≪カード≫の主任でありキング曰く『息子の1人』であるジョーカーは、うつ伏せになっている。

そんな彼の背筋を両親指で押しているロードは、ツルピカの禿頭にいつも光らせている眼鏡、鼻から口にかけては医療用のマスクで隠されており上下とも白衣を着ている男である。

彼は≪カード≫の副主任であり、元療術師である。

「ちょっと背中から腰の境界線がS字に曲がってますね。しばし解してから矯正しますので、痛かったら言って下さいね」

丁寧な口調で上司に呼びかけるロードは、そのまま背骨にそって両親指を押していく。

明らかに仕事は来てないようで皆、好き勝手に行動している。

新人社員が見たら呆れるような……それくらいメンバーは怠けているのだが、これでも幾多ある仕事をこなし、死線や修羅場を潜り抜けてきた戦闘のプロである。

すると先程から整体を受けていたジョーカーが声をあげる。

「誰かこちらに向かって来ますよぉ〜♪」

「あ〜ン?」

主任の言葉を聞き、スペードは面倒臭そうな表情で顔だけ扉に目をやる。

それと同時に濃緑色の軍服を着た筋肉男が入ってきた。

セブン元帥だ。

彼は部屋に入ってくるなり、

「相変わらず怠けてるな……給料泥棒ども」

などと、露骨に嫌そうな表情を浮かべながら呟く。

「開口一番ひどい言い様ですねぇ〜♪ セブンちゃん♪」

「『ちゃん』付けするな」

ジョーカーが起き上がろうとするのを察知し、ロードは整体をやめてその場から3歩後退する。

ハート達は上司に目をやると自由行動をやめて敬礼をするが、明らかに慇懃無礼な態度が見えている。

道化師主任は首を回しコキコキと鳴らしてから、ようやく軍部を統括する上司に目をやる。

「嫌味を言いにわざわざこんな地下室に来たんですかぁ〜♪ わざわざ御苦労様ですねェ〜♪」

「そうではない。仕事だ。キング総帥直々の指令だ」

セブンの言葉にジョーカー一同は鋭い表情になる。

先刻までのグータラ態度は何処へやら、皆に緊張が走る。

「お前等も聞いていると思うが生物進化機関からシア・ヌールというウェポンが脱走している。組織は何度も討伐隊を向かわせたが何度も返り討ちにあっている。このままでは埒が明かないと判断したキング総帥はお前達に討伐の命令を下した」

「ちょっと待ってくれよ、元帥」

黙って聞いていたハートが挙手する。

「なんだ?」

「それは……破壊命令なのか? 連れて帰らせるんじゃねぇのか?」

上司への尊敬もへったくれもない口調で質問するハートだが、セブンはそれを気にせず答える。

「破壊命令だ。組織の情報を敵対国へ渡す訳にもいかんしな。昨日送り出した討伐隊は我がタルタロス大陸から東に位置する隣のノマル王国領・ビレージ村付近で『標的確認』という報告を出してから音信普通になった。恐らく全滅したのであろうが、お前達はそうならないよう、きっちりやってくれよ」

嫌々ながら指令を伝えるセブンは以上だ、と短く答え、そのまま部屋を後にした。

「ケッ、相変わらずムカつく野郎だぜ。1度イワせるかァ」

上司の態度が気に入らないのかスペードは匕首を取り出し、舌なめずりするもジョーカーがこれを制す。

「落ち着きなさ〜い、まったくぅ♪ 腹立つなら、ちゃんと指令をこなして上司の鼻を明かしてあげましょう♪ セブンちゃんとしては面白くないのでしょうけど、我々が出るくらいまで事態が進んでいるのでしょうからねェ〜♪ 幸い足跡は残っているようですからねぇ〜、すぐ急行しましょう♪ 作戦開始と行きましょうかァ♪」

『おうよっ!!』

ジョーカーの合図と共に≪カード≫の面々はただちに武器を携帯し、部屋から退出して行った。

彼も柄の両方に刃が付いている薙刀を手にしてから、

「噂に名高いウェポンと剣を交えるのは初めてですからねぇ♪ 楽しませて貰いましょう♪」

と呟き、腰まである青紫を翻し己の身を包むと、その場からフッと消えていった。

 

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