傷害概念の意義

(1)
 傷害罪について刑法は「人の身体を傷害した者」(刑法204条)と規定するだけで、傷害の概念を特に明示していない。*1
 このため、傷害の意義と程度が解釈論上問題となる。

 意義については、
    身体機能に着目するアプローチと身体の外観に注目するアプローチから、次の3説が主張されている。

 ①傷害とは、人の生理的機能の傷害や健康状態の不良な変更をいうとする生理的機能障害説
  平野、香川、中山、前田、西田、大越など

 ②傷害とは、人の身体の完全性を害することをいうとする身体完全性侵害説
  小野、滝川

 ③傷害とは、人の生理的機能を害することまたは身体の外形に変更を加えることをいうとする折衷説
  団藤、福田、大塚、内田、大谷など

いずれの立場も、軽微な傷害については暴行で評価する。

③が通説であるとされる。

(2)
 ①と②は、多くの場合に結論を同じくするが、身体の完全性を変更せずに生理的機能だけを害した場合と生理的機能に変化を与えずに身体の完全性を害した場合に結論が対立する。他方、③によれば、いずれの場合においても傷害罪の成立が認められる。

 判例は、毛髪を剃り落した場合に暴行罪(208条)のみの成立を認める(大判明治45年6月20日)。一方で、性病への感染に傷害罪の成立を認める(最判昭和27年6月6日)。よって、判例は①説をとるものと言われている

 傷害罪は、人の身体の安全を保護法益とする犯罪類型であることから、①を妥当とすべきである。

 意思に反して丸坊主にする場合などは、人の身体の外観を大きく変更するものであり、当罰性の高いものではあるが、生理的機能を害していない以上、人の身体の安全を保護する傷害罪にはあたらないとすべきである。
 この場合、侵害されているのは「身体の安全」ではなくて「精神の平穏」であり(大越義久「刑法各論」1999年25ページ)、人の身体に対する有形力の行使を処罰する暴行罪で十分である。

(3)
 ①によれば、人の生理的機能が傷害されている以上、傷害の程度を問わずに傷害が成立するはずである。
 判例も、このような結論を認め、胸部打撲痛程度の生理的機能障害も傷害に当るとしている(最決昭和32年4月23日)。
 これに反対する学説は「軽微な」傷害は暴行罪で評価すべきとするが、暴行罪の法定刑が相当に高い一方、下限が傷害罪の法定刑のそれと同一であることからすれば、傷害概念において生理的機能障害の程度を考慮する必要はないとすべきである。

*1
ドイツ刑法は223条1項で「身体に虐待を加えたり健康を害すること」と傷害を定義する。

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